ESSAY · 2026-05-15
学習曲線の刻み方 — Baba から学ぶ垂直の壁の作り方
詰まらせない設計と、詰まらせる設計
はじめに
ゲームをデザインするとき、最も難しい判断のひとつが『プレイヤーをどこで詰まらせるか』だ。詰まらせなければ達成感は薄れ、詰まらせすぎれば離脱する。この記事では、私が思考系パズルを遊びながら観察してきた『学習曲線の刻み方』を、3つの代表作で比較する。
Baba Is You — 垂直の壁
Baba Is You は、序盤40面の穏やかさと、その後の急峻な難しさ上昇で知られる。プレイヤーは新しい単語を1面につき1つ覚え、40面でその全てが揃う。そこから先は、組み合わせ爆発が始まる。
この『40面の踊り場』は偶然ではない。Hempuli は、プレイヤーが文法を内面化するまでの正確な時間を測っている。早すぎると応用が利かず、遅すぎると退屈する。40という数字は、語彙学習のテンポと、組み合わせ問題が現れるタイミングの精密な交点だ。
結果として、Baba の中盤以降は『言語パズル』というジャンルがそこにしかない、孤立した経験になる。詰まることそのものが、このゲームの設計目的なのだ。
Cocoon — 止まらない流れ
対極にあるのが Geometric Interactive の Cocoon(2023)だ。LIMBO / INSIDE の Jeppe Carlsen が手掛けた本作は、6時間の本編を通して『プレイヤーがほぼ止まらない』ことを設計目標にしている。
Cocoonには、難所と呼べるパートがほとんどない。けれどパズルの数は多く、構造も複雑だ。これを成立させているのは、視覚的アフォーダンスの精度だ。プレイヤーが次にすべきことが、画面に直感的に提示されている。
Cocoon は、詰まることを意図的に取り除いた設計の最高峰だ。観光体験に近い手触りで、Baba とは全く別の達成感を与えてくれる。
中間 — Patrick's Parabox
両極の中間にあるのが Patrick's Parabox だ。新ギミックは必ず簡単な面で導入され、難所は章末に集中している。Baba のような断崖はないが、Cocoon のような完全な流れもない。
この『教師の手を引きながら、最後に少しだけ突き放す』設計が、私にはもっとも参考になる。多くのプレイヤーをクリアまで導きながら、上級者にも手応えを残す。インディーで予算が限られているなら、この刻み方が一番現実的だと思う。
参考リンク
本記事で言及した作品の一次資料:
・Steam: Baba Is You (2019, Hempuli)
・Steam: COCOON (2023, Geometric Interactive)
・Steam: Patrick's Parabox (2022, Patrick Traynor)
・Wikipedia: Playdead (LIMBO 2010, INSIDE 2016 — Jeppe Carlsen)
まとめ
詰まらせるか流すかは、作品が何を売っているかで決まる。Baba は『言語パズルの深さ』を、Cocoon は『没入の流れ』を、Parabox は『再帰の段階的理解』を売っている。
自分が次に作るなら、まず『何を売るか』を決めてから、学習曲線の刻みを設計する。これは順序を間違えると、どちらも中途半端になる罠だ。
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