ESSAY · 2026-05-20
メタパズルの系譜 — ルールが動くという発明
Sokoban から Baba まで、書き換えの50年
はじめに
「ルールが動く」というアイデアは、一見すると最近のものに見える。Baba Is You の登場以降、ゲームの記事でこの言葉を見ることが急に増えた。けれど、ルール自体を操作対象にするという発想は、思考系パズルが長年抱えてきた潜在的な可能性が、ある時点で表に出てきたものだ。
この記事では、その『出てくるまでの50年』を簡単に追いかける。倉庫番の押す動詞から、ZachLikesの命令列、Patrick's Parabox の再帰、そして Baba Is You の言語まで。系譜を眺めることで、自分が次に作るときに、どこに『余白』が残っているかが見えてくると思う。
動詞ひとつから始まる
1981年の Sokoban(倉庫番)は、メタパズルの源流とは普通呼ばれない。けれど私はこのジャンルの根が、ここにあると考えている。プレイヤーが持つ動詞は『歩く』と『押す』のふたつだけ。盤面のオブジェクトは『プレイヤー』『箱』『壁』『目的地』の4種類。
この極端な減算が、後のメタパズルの全ての基盤になる。ルールが少なければ少ないほど、組み合わせの空間は『見える』ようになる。設計者は限られた変数の中で、解の唯一性と発見の手応えを成立させる必要がある。
倉庫番のひとつのレベルが解けたとき、プレイヤーの頭の中には『どう押すか』のフローが残る。このフローこそが、後のメタパズルが操作対象として取り上げる『ルールの形』なのだ。
動詞を増やすか、ルールを動かすか
1990年代から2010年代にかけて、Sokoban の派生は『動詞を増やす』方向と『ルールを動かす』方向に分岐した。前者は Snakebird、Hexcells、Stephen's Sausage Roll の系統。後者が、Antichamber、The Witness を経て Baba Is You に至る系統だ。
動詞を増やすアプローチでは、設計者は動詞同士の相互作用を綿密に設計する。Stephen's Sausage Roll は『フォークの向き』というただ一つの追加変数で、Sokoban の組み合わせ爆発を10倍にした。
ルールを動かすアプローチでは、設計者は『動詞は変えない、けれどルールを動かす変数を増やす』。The Witness のパネルは線を引くだけだが、エリアごとに記号の意味が変わる。プレイヤーは新しい文法を学ぶ。
Baba Is You が完成させたもの
Hempuli Oy の Arvi Teikari が 2019 年に発表した Baba Is You は、後者の系統の到達点だ。盤面の『WALL IS STOP』というルール文自体が、押せる物体になっている。プレイヤーは IS を押し出すことで、壁の性質を変えられる。
重要なのは、この発想が天才の一閃ではなく、長年積み重なってきた設計の余白に、最後にひとつ動詞を足しただけだということ。Sokoban の『押す』を、Baba は『言葉のブロックにも適用する』と決めた。それで全てが変わった。
もしあなたがメタパズルを作ろうとするなら、Baba を真似てルールを動かすゲームを作ることは、もう古い。次の余白は、ルールを動かす『方向』や『単位』を変えることにあると私は思っている。たとえば『動詞同士をスタックできる』『盤面外から動詞を持ってこられる』『動詞の意味を時間で変えられる』。
参考リンク
本記事で言及した作品の一次資料:
・Steam: Stephen's Sausage Roll (2016)
・Steam: Hexcells Infinite (2014)
まとめ
メタパズルは、Sokobanの減算思想を保ったまま、可動部分を一段増やすジャンルだ。動詞を増やすか、ルールの可動性を増やすか。どちらも50年かけて、まだ余白が残っている。
私はインディーゲーム制作者として、この余白の中で何が作れるかをずっと考えている。読者にも、同じ問いを置いておきたい。次の Baba は、どこから出てくるのだろうか。
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