REVIEW · 2022-08-30

IMMORTALITY

賛否が割れる実写ミステリー、その分岐を Steam レビューから読む

Steam store ↗

はじめに

消えた女優マリッサ・マルセルは、3本の映画に出演した。だがそのどれも公開されず、彼女自身も姿を消した。本作はそのフィルムの断片を素材に、映像の中の顔やモノにカーソルを合わせてクリックし、同じ顔・同じモノが映る別のクリップへ『マッチカット』で飛び移りながら、撮影現場とその合間に起きたことを手繰り寄せていく実写(FMV)アドベンチャーだ。2022年に、『Her Story』を手がけたサム・バーロウと彼のスタジオ Half Mermaid が発売した。

私はこの記事を、Steam に積み上がったユーザーレビュー群を読んで書く。全体評価は『非常に好評』、Steam 購入者 1,704 件中 84% が好評(全 1,900 件では好評 1,596/不評 304)、直近 30 日も 81% が好評だ(2026-06-23 snapshot)。専門メディアも Metacritic 87、PC Gamer 95/100、Edge 10/10 と高く、ゴールデンジョイスティック 2022 では主演のマノン・ゲイジが最優秀演技賞を受けたとされる。

数字だけ見れば絶賛だが、本作は先日読んだ Opus Magnum のような満場一致ではない。16% の不評は無視できない厚みを持ち、しかもそこには一貫した主張がある。私が読むのは、同じ作品をある人が『傑作』と呼び、別の人が『ゲームですらない』と切り捨てる——その分岐がどこで起きているのか、そして賛否の両者が実は同じ設計のどこを指しているのか、だ。

IMMORTALITY のアートIMMORTALITY のキーアート(Steam ストアより)

第一印象

helpful 上位の positive レビューを並べると、語彙が揃う。『最高傑作』『忘れられない』『ジャンルの新しい到達点』、そして判で押したように『マッチカットという発明』と『マノン・ゲイジの演技』。日本語のレビューも『Her Story』に匹敵、あるいは超えると書き、ファミ通はバーロウ作品の『最高傑作』と評した。共通しているのは、これは映画と謎解きの境界を作り替えた、という手応えだ。

一方、不評側の語彙もまた驚くほど揃っている。『ゲームですらない』『映画を観ているだけ』『フィルムを延々こすり回す作業が退屈』『何をすればいいか分からず不親切』。ある批評は『大胆なほど退屈で、自ら成功を妨げている』とまで書いた。エンドロールに達しても『物語が結局何だったのか、ぼんやりとしか掴めなかった』という声も珍しくない。

興味深いのは、賛辞と不満がしばしば同じ仕組みを指していることだ。『手がかりが巧妙に隠されている』設計を、positive は『発見の喜び』と呼び、negative は『徒労』と呼ぶ。『目的が明示されない』ことを、片方は『信頼された自由』、片方は『不親切』と読む。私の役割は、その対立を煽ることではなく、設計の言葉に翻訳することにある。

IMMORTALITY のアートマリッサ・マルセルを描いたキーアート(Steam ストアより)

メカニクスの言語化

positive が必ず挙げるのが『マッチカット』だ。映像を一時停止し、画面内の顔やモノにカーソルを合わせると目のアイコンに変わる。クリックすれば、同じ顔・同じモノが映る別のクリップへ飛ぶ。Puzzlebyrinth の語彙でいえば、本作の動詞はほぼ一つ、『見て、つなぐ』である。Her Story がキーワードを打ち込むテキスト検索だったのに対し、本作は視覚的な連想で映像を手繰る検索に作り替えられた。同じ作家が『検索』という動詞を一段階、テキストから画像へ抽象化したのだ。

レビュアーが声をひそめて語るのが、もう一つの動詞『巻き戻し』だ。音楽が不穏な音に変わる瞬間に映像を逆回しすると、別の映像が幽霊のように重なって現れる——多くのレビューが、具体を伏せながらそう書く。クリアの『正解』がない代わりに、観察の解像度を上げた者にだけ見える層が、画面の裏に畳み込まれている。動詞は二つでも、200本を超えるクリップという素材との組み合わせは爆発的に開かれていく。

Return of the Obra Dinn が『観察して推理の空欄を埋める』文法なら、本作は『観察してつなぎ、物語を自分で編集する』文法だ。両者に共通するのは、ゲーム側が答えを順番に配らないこと。プレイヤーが拾う順序こそが体験になる。ここで減算されているのは『次に何をすべきか』という指示そのもので、その空白が、ある人には自由、ある人には不親切として立ち現れる。

IMMORTALITY のアート映画『Minsky』をめぐる一場面(Steam ストアより)

物語の手触り

レビュー群が最も言葉を費やすのが、物語の組み上がり方だ。3本の未公開映画——ゴシック映画『Ambrosio』、ニューヨークを舞台にした『Minsky』、ポップスターと影武者を描く『Two of Everything』——の撮影現場と、その合間のオフショットが、断片のまま放り出される。レビュアーは『自分が拾った順に、頭の中で年表と人間関係が立ち上がっていく』と書く。物語は語られるのではなく、観察によって再構成されるのだ。

賛否が最も鋭く割れるのが、中盤以降に立ち現れる『もう一つの物語』である(ここも具体は伏せる)。positive はこれを『映画づくりそのものへの問いに化ける瞬間』と絶賛し、negative は『思わせぶりな割に回収が小さい』と冷ややかだ。あるレビュアーは『面白かったのに、それが何であるかを語り始めた途端に冷めた』と書いた。手がかりが小出しになるほど発見は鋭くなるが、明かされた答えが期待に釣り合うかは別の問題——謎解き作品が必ず渡る綱だ。

賛否を問わず一致するのが、俳優の演技、とりわけマリッサを演じたマノン・ゲイジへの評価だ。数十年と3作品ぶんの『同じ顔の変化』を観察させる本作は、演技が崩れれば全てが崩れる。レビュアーが『人間が画面の中心にいる』と繰り返すのは、設計の土台がフィルムの質と演技そのものに賭けられているからにほかならない。

IMMORTALITY のアート失踪の謎をめぐるアート(Steam ストアより)

難しさの手触り

本作の『難しさ』は、手の技量ではない。失敗状態もゲームオーバーもなく、誰でも映像を眺め続けられる。だが不評の中心は、まさに『難しさ』にある——ただしそれは、曖昧さに耐える難しさだ。レビュー群を読み分けると、人がつまずく場所はきれいに3つに分類できる。

第一は『目的の不在』。何を達成すれば前進なのかが示されず、ゴール志向のプレイヤーは早々に手が止まる。第二は『隠しクリップ探し』。終盤、残りの映像を見つける作業が巻き戻しの当てずっぽうに近づき、『調査というより総当たり』だという不満が繰り返される。第三は『内容そのもの』で、性的・暴力的・宗教的に強い描写があり(開発元自身が明記している)、ここで降りる人もいる。

positive 側は、この三つをそっくり美点として読み替える。目的の不在は『信頼』、隠しクリップは『観察解像度への報酬』、強い描写は『映画という主題に不可分なもの』。どちらが正しいという話ではない。これは作家が引いた射程の問題だ——指示を待つ人より、自分で問いを立てて画面を疑える人に向けて作られている。落ち着いて1本ずつ手繰れる人には驚くほど優しく、地図と目的地を求める人には壁になる。同じ難しさが人によって正反対に体験される、その分裂こそが本作の手触りだと私は読む。

IMMORTALITY のアート撮影現場の一場面(Steam ストアより)

参照したレビュー群

本記事は 2026-06-23 時点での Steam ストアページのユーザーレビュー群と、専門メディアのレビューを読んで書いた。レビュー本文の直接引用はせず、典型的な主張を再構成している。物語の核心はネタバレを避けて伏せた。

Steam: IMMORTALITY(非常に好評 / Very Positive、Steam 購入者 1,704 件中 84%・全 1,900 件で好評 1,596/不評 304)

・helpful 順の positive 上位、不評側の代表的な声、recent の数件、および日本語レビュー(ファミ通ほか)を WebFetch / 検索で読了

・(専門メディア)PC Gamer(95/100)、否定寄りの The Washington Post、ほか Metacritic 87 を参照

結論

Steam の総評は 84% 好評、私の設計批評としての採点は 8.5 だ。両者に大きなズレはない。『検索』という動詞をテキストから視覚的連想へ抽象化し、物語を順番に配るのをやめてプレイヤーの観察に編集を委ねた——この設計の野心は、ジャンルを一段更新するものであり、絶賛が多数を占めるのは当然だと読む。マノン・ゲイジの演技という土台も強い。

1.5割の減点は、その自由が招いた副作用にある。目的を減算した結果、終盤の隠しクリップ探しは総当たりに傾き、観察の鋭さが運に薄まる。明かされる『もう一つの物語』が、積み上げた発見の重さに釣り合わないと感じる人もいる。レビューで言及されたクリア時間の中央値はおよそ6時間、全クリップ回収まで進めば16〜20時間に伸びる。地図と目的地を求める人には薦めにくく、自分で画面を疑える人には今なお唯一無二だ。誰に向き、誰に向かないかがこれほど明快な作品も珍しい——それが84%という数字の内訳だと私は読む。

IMMORTALITY のアートゴシック映画『Ambrosio』のアート(Steam ストアより)

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