REVIEW · 2020-01-29

The Pedestrian

標識から標識へ、街を渡る

Steam store ↗

第一印象

Steam に積み上がった約6,000件のレビューを概観してまず気づくのは、最頻出の形容詞が「clever」でも「hard」でもなく、「creative」「unique」「charming」だということだ。思考系パズルのレビュー群なのに、語彙が美術や映画のそれに寄っている。英語圏の短評は「Pixar の短編がそのままゲームになったような」と書き、日本語の helpful 上位は「パズルやアクションではなく映画を見ている感覚に近い」と書く。ユーザーはこの作品を、解く対象である以上に「上演されるもの」として受け取っている。

集計を確認しておく。Steam の全体評価は「圧倒的に好評」、全言語 5,944件中 5,744件が positive で約97%(うち Steam 購入 5,037件、2026-06-08 snapshot)。直近30日も 97%(36件)で、2020年1月29日のリリースから6年、評価はほぼ水平のまま動かない。開発・発行は Skookum Arts。非常口やトイレの標識でおなじみのピクトグラム人間が、ニューヨーク風の都市に掲げられた標識から標識へと渡っていく 2.5D のパズルプラットフォーマーである。

ルールは一文で書ける。看板やパネルを並べ替え、扉と扉、梯子と梯子を結線して一続きの通り道を作り、棒人間を出口まで歩かせる。ただし helpful 上位のレビューが揃って白状するのは、この説明のしようのなさだ。「文章にすると誤解を招く。動画を見たほうが早い」という注記が何度も現れる。語では説明しにくいのに、見れば3秒で分かる——本作の設計はこの非対称の上に立っている。

メカニクスの言語化

レビュー群が再構成する本作の動詞は、パネルの内側と外側で二層に分かれる。内側は「歩く」「跳ぶ」というプラットフォーマーの古い動詞。本体は外側の「つなぐ」「並べ替える」にある。そして接続を組み替えると進行中のパズルがリセットされる——この一点だけが本作の制約であり、レビュー群が言及するほとんど唯一のルール上の痛みでもある。終盤に手に入る「塗料」でパネルを固定してリセットを免れる手順を、複数のレビューが本作でいちばん頭を使った瞬間に挙げる。

positive 側で繰り返される構文は「難しくなるのではなく、変わり続ける」だ。象徴的なのは、Stephen's Sausage RollBaba Is You に心を折られた者の避難所として本作を語る helpful 上位レビューで、賢さを試されて惨めになる手前で必ず次のギミックに切り替わることへの感謝が綴られる。導入→習熟→転換のサイクルを短く回し、組み合わせ爆発が起きる手前で必ず止める。深さより回転数を取る設計だ。

negative 側の最有力レビュー(45人が helpful 投票)は、同じ構造を反対側から読む。接続パズルは「解の条件を特定して逆算する」手続きで解けてしまい、水平思考を要求しない。レーザーもバネも要素同士が動的に組み合わさらず、解までの「追加の手順」が増えるだけだ——結び目をほどく快感であって、発想の快感ではない、と。日本語の不評も「ありふれたスイッチ切り替えとアイテム運びで、達成感より疲労感が残った」と同じ場所を突く。positive が「フェアで心地よい」と呼ぶものを、negative は「浅い」と呼ぶ。同じ減算を巡る、射程の問題である。

世界観

本作のレビュー群には、思考系パズルとしては珍しい偏りがある。パズルの背後に広がる 3D の都市について書かれる分量が、パズルそのものへの言及と拮抗するのだ。「生きて呼吸する世界」という定型句、「パズルを忘れて背景に見入っていた」という告白、エリアからエリアへカメラが運んでいく場面転換だけで定価の価値があると書く日本語レビュー。COCOON が世界そのものを道具として手に持たせるのに対し、本作の世界はプレイヤーの手が届かない場所で営まれている。

興味深いことに、その「手の届かなさ」を弱点として書くレビューの多くが推薦側にいる。背景は純粋な装飾でほとんど干渉できない、20ドルの大半はこの描き込みに払われている——無料のゲームと何が違うのかと自問し続けた、という引き裂かれた書き方。そして多くのレビューが、終盤に2Dと3Dの隔たりが一気に解禁される「最後のひと捻り」を最大の山場に挙げ、「ラストパズルは震える」「全体への評価が覆った」と振り返る。序中盤の分離は、この一撃のための溜めだったと読める。

学習曲線の設計

本作は文字をほぼ完全に排している。新しいギミックの説明すら、ピクトグラムだけで描かれた小さな練習パズルとして与えられる。レビュー群はこの無言の教えを高く買っていて、「説明が一切ないのに詰まらない」「導入→習熟→応用のリズムの丁寧さは Portal 以来」という比較が英語側に並ぶ。Puzzlebyrinth の語彙で言えば、学習曲線をチュートリアルという別室に隔離せず、面そのものに埋め込んだ作りだ。

ただし無言の教えには取りこぼしもある。日本語レビューには「ギミックの説明が足りず戸惑った」という positive 側からの注記があり、ヒント機能が存在しないため「詰まったら外部のガイドか掲示板を探すしかない」という指摘も繰り返される。教えの設計は「ほぼ全員を通す」水準で成功しているが、最後の数パーセントの救済はコミュニティに外注されている。97% という数字のいくらかは、この外注が機能した結果でもあるだろう。

テンポと尺

このレビュー欄でいちばん割れている議題は、難しさではなく尺と値段だ。記録されたクリア時間は2.5〜7時間、定価は19.99ドル。「セールを待て」という助言が、negative ではなく positive レビューの中に繰り返し現れるのが本作の特徴で、「2時間半のうち2時間15分は素晴らしかった」という、推薦と留保が同居した総括がこの作品の受け取られ方をよく要約している。

同じ短さが、片側では「密度」、もう片側では「ボリューム不足」と読まれる。さらに日本語の不評は「短いのに冗長」という逆説——進めるほどパズルが面倒になり、達成感より疲労感が残る——を書き残す。チャプター選択がなく後戻りできない構造、隠し要素が5つしかないことへの言及も合わせると、「一晩の上演、再演なし」という設計が浮かび上がる。専門メディア(Metacritic 81)はユーザーより一段冷静で、平易さと線形性を指摘し、4時間という尺でも少し長いと書く評さえある。賛辞の熱量がプロよりユーザーで高い——パズルゲームでは珍しい逆転である。

参照したレビュー群

本記事は 2026-06-08 時点での Steam ストアページおよびコミュニティのユーザーレビュー群を読んで書いた。レビュー本文は引用せず、典型的な主張を再構成している。

Steam: The Pedestrian(圧倒的に好評 / 全言語 5,944件中 5,744件 positive・約97%。英語 2,563件・96%、直近30日 36件・97%、2026-06-08 snapshot)

・helpful 順上位の positive レビュー十数件(英語・日本語)、最有力の negative レビュー2件(英語 45 helpful・日本語 8 helpful)、2024〜2026年投稿の直近レビュー3件を WebFetch で読了。negative 側は全体の約3%と少ないため、positive レビュー内の留保(価格・尺・背景に干渉できないこと)で論点を補った。クリア時間の目安はレビュー記録の2.5〜7時間に拠る。

・専門メディアは The Indie Game WebsitePC Gamer のレビューを参照し、集計はストアページ掲出の Metacritic 81 に拠る。

結論

レビュー群が描く The Pedestrian は、パズルの皮をかぶった上演だ。設計の語彙で言い直せば、動詞を足すことで深さではなく景色を更新し続けるゲームであり、組み合わせ爆発をあえて起こさない減算によって間口を最大まで広げ、その代償として、水平思考の手応えを求める層を意識的に手放している。「フェア」と「浅い」はどちらも正確な観察で、矛盾していない。欠陥の有無ではなく、誰に向けて作られたかという射程の問題である。

Steam の overall 97% に対して、私は設計批評の点数として 7.5 を付ける。乖離の理由ははっきりしている。97% は「誰が遊んでもほとんど嫌な思いをしない」ことの数字であって、パズルの構造が到達した深さの数字ではないからだ。ストアの「リラックス」タグと「challenging puzzles」という公式文の間には小さな矛盾があるが、本作はそれを演出の力で塗りつぶしてみせた。短い夜にちょうどいい一本——レビュー群の総意を一行に圧縮すれば、たぶんそうなる。

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