REVIEW · 2020-09-10

A Monster's Expedition

木を倒して島を渡る

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第一印象

小さな緑色のモンスターが、博物館の入口に立っている。人間という絶滅種の展示を見に来た、という設定らしい。最初の島には木が一本と、海に囲まれた小さな地面がある。木を押すと倒れ、丸太になって転がり、橋になる。それだけで隣の島に渡れる。最初の5分で動詞を一つだけ覚える。押す、倒す、渡る。

Draknek & Friends は A Good Snowman Is Hard to Build と Cosmic Express で知られるスタジオで、Alan Hazelden を中心としたチームが手がけている。どちらも『一つの動詞を丁寧に展開する』設計思想のスタジオであり、本作でもその姿勢は変わらない。木を倒すという一つの操作に、方向、長さ、地形の高低差、水面との関係が少しずつ足されていく。

最初に驚くのは、画面に壁がないことだ。島々が海に浮かんでいて、どこへ行くかはプレイヤーが決める。Sokoban-like で『オープンワールド』を名乗る作品は珍しい。通常このジャンルは閉じた盤面と正解手順の世界だが、本作は『どの島から解いてもいい』という自由を序盤から与えてくる。

メカニクスの言語化

動詞は『木を押す』の一つだけ。けれど木には細い木と太い木があり、細い木は倒れると丸太一本分、太い木は二本分の長さになる。丸太は地面を転がり、段差から落ち、水面に浮かぶ。この物理的な振る舞いの差が、数百の島それぞれに固有のパズルを生む。

文法の展開が美しい。序盤は『倒して橋にする』だけだが、中盤になると『丸太を段差に落として足場にする』『二本の丸太を直角に組んで筏にする』という応用が現れる。新しいルールが追加されるのではなく、同じルールの帰結が深まっていく。これは減算の設計であり、Baba Is You が語彙を増やして複雑さを生んだのとは対照的なアプローチだ。

Undo は無制限。島を離れればリセットもかかる。失敗のコストがほぼゼロなので、プレイヤーは気軽に試行できる。この寛容さが、オープンワールド構造と相性がいい。詰まったら別の島に行けばいい。行き先は常に複数ある。

このゲームの魅力

一番の魅力は、散歩のリズムでパズルが解けることだ。島を一つ渡るたびに小さな博物館の展示が置いてあり、モンスター視点で人間の遺物を解説している。テキストは短く、くすりと笑える。パズルとパズルの間に息継ぎがあり、15時間のプレイが苦にならない。

オープンワールドの恩恵は想像以上に大きい。線形のパズルゲームでは『この一問が解けないと先に進めない』というストレスが生じるが、本作ではそれが起きない。常に別の道がある。結果として、プレイヤーは自分の実力に合った島を自然に選び、難しさの学習曲線を自分で描くことになる。

Witness が島全体を教科書にしたように、本作は群島全体を問題集にしている。ただし Witness が孤独で哲学的だったのに対し、本作は明るく軽い。モンスターは可愛く、音楽は穏やかで、世界の終末後という設定すら牧歌的に描かれている。この温度感がジャンルの中で独特の位置を占めている。

ゲームデザインの工夫

島のサイズ設計が巧みだ。序盤の島は3×3マス程度で、木は一本。中盤になると5×5に広がり、木が三本、段差が二段になる。盤面が大きくなるにつれて組み合わせが増えるが、島単位で区切られているため、思考の範囲が限定される。プレイヤーは常に『この島だけ解けばいい』と分かっている。これは Stephen's Sausage Roll が一面ごとに完結していたのと同じ安心感だ。

もう一つの工夫は、主要ルートと脇道の分離だ。メインの進行に必要な島は比較的素直に解ける。けれど横道にそれると、明らかに難しい島が待っている。上級者はそちらに挑み、初心者はスキップできる。この設計のおかげで、難しさのラベルを一つに絞るのが難しい。メインだけなら『易』に近いが、全島制覇を目指すと『難』に届く。

チュートリアルは最初の数島だけで終わる。以降は一切の説明がない。けれど島の並びそのものがカリキュラムになっていて、新しい概念が必要な島の手前には、必ずその概念を単独で練習できる島が置かれている。Cocoon の『言葉なき誘導』と同じ手法だが、オープンワールドでそれをやっているのが技術的に興味深い。

難しさの手触り

メインルートだけを辿れば、15時間で大半の島を渡り終える。詰まる場面は少なく、丸太の物理挙動を観察していれば自然に解法が見える。けれど全島制覇となると話は別で、脇道の島には30分以上考え込むものもある。特に複数の丸太を連鎖的に使う問題は、手順の長さと正確さの両方を要求される。

難しさの質は『空間認識』に偏っている。丸太がどの方向に転がるか、段差から落ちた後にどこに着地するかを頭の中で組み立てる力が問われる。言語的な推論はほとんど必要なく、Baba Is You とは脳の使う部位が違う。Witness の終盤に近い、視覚と空間の思考だ。

Undo の無制限と、いつでも島を離れられる設計のおかげで、挫折感は薄い。難しい島で15分考えて解けなければ、ただ歩いて別の島に行けばいい。その間に見える海と展示物が、思考の休憩になる。この『詰まっても苦しくない』感触は、パズルゲームとしては珍しい。

結論

木を倒して丸太にする。それだけで数百の島を繋ぐ。一つの動詞をここまで丁寧に展開した作品は、Stephen's Sausage Roll 以来かもしれない。ただし Sausage Roll が修行僧のような厳しさだったのに対し、本作は散歩の気楽さでそれを成し遂げている。

Draknek & Friends の作品に共通するのは、プレイヤーを信頼する姿勢だ。説明しない、急かさない、罰しない。その信頼が、オープンワールドという構造と結びついたとき、Sokoban-like の新しい手触りが生まれた。パズルの厳密さと散歩の自由さは両立する、ということを本作は証明している。

どの島から解いてもいい、という自由が、倉庫番の文法を書き換えた。

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