REVIEW · 2021-11-02

Unpacking

持ち物が語る20年

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第一印象

段ボール箱から、ぬいぐるみとクレヨンと絵本を取り出します。1997年、子供部屋の机に置く。8つの引越し場面が連なって、無言で20年が流れていきます。

台詞はひとつもありません。けれど、引越しのたびに増える物・消える物が、主人公の人生をはっきりと語ります。私は2場面目から、彼女のことを『見知らぬ他人』と思えなくなりました。

プレイヤーの仕事は、ただ箱を開けて物を棚にしまうこと。それだけです。それだけのはずなのに、机に置く一冊の絵本が、その机の上に置かれた数年前の自分のものだったことに気づいた瞬間、私の手は止まりました。

メカニクスの言語化

ルールは『正しい場所に物を置く』だけです。タオルはクローゼットへ、歯ブラシは洗面台へ。アクションパズルではなく、観察と整理整頓のパズル。失敗の概念がなく、時間制限もない。

ただし『正しい場所』の判定にゆとりがあり、自分なりの置き方が許される。特定のアイテムだけ、明確に誤配置として返される。何が許され何が許されないかの線引きが、そのまま物語の主張になっています。

ゲーム時間は4時間ほど。完走するだけならその半分でも済みますが、棚を整える時間、写真立ての向きを直す時間、それらを足すと自然に4時間になります。

このゲームの魅力

『彼氏の部屋に自分の絵画を飾る場所がなく、ベッド下に押し込む』一場面で語られる、20代の不穏。台詞ゼロのナラティブが、これほど雄弁になるのか、と毎場面で考えさせられます。

Witch Beam は同じ部屋を何度も使いません。一回の引越しごとに完全に新しい間取り、新しいライティング、新しい音響を組む。それでも『この人の生活感』だけは継続している。家具と光と音の三つだけで、20年の人生を語る作家性が、ここに完成しています。

そして、解決の快感がパズルそのものから切り離されています。物を正しい場所に置くこと自体は気持ちいいけれど、本当のごほうびは『その配置が物語っているもの』を読み解くこと。ナラティブと操作のフィードバックがここまで一致しているゲームを、私は他に思いつきません。

ゲームデザインの工夫

配置の自由を許しつつ、特定の物だけ厳しく判定するという線引きが、設計上の鋭さです。プレイヤーの解釈と作者の意図が、その物にだけ重なる。歯ブラシは洗面台のどこに置いてもいい、けれど『この絵だけは壁にかけてほしくない』という静かな主張が、判定の form で出てくる。これは脚本ではなく、ルール側で物語を語る稀有な例です。

もう一つ巧妙なのは、時間の進め方です。年号は明示されません。家具、ファッション、技術製品(ブラウン管TV、初期iPod、薄型ノートPC)の変化だけで、プレイヤーは年代を読み取らされます。プレイヤーが時代を能動的に読むことで、主人公の歴史がプレイヤーの記憶と接続される。これも台詞でやれば失われた効果です。

もし私がこれを作るなら、おそらく場面の数を増やしたい誘惑に負けると思います。Witch Beam は8場面に絞り、各場面の家具点数を精密に管理しました。10場面、12場面と増やしていたら、密度が薄まり、引越し疲れが先に来ていたはず。短さは慎みであり、これは設計の最重要な選択です。

難しさの手触り

4時間で完走、難所はありません。けれど一場面ごとに、深呼吸して次の箱を開けたくなる時間があります。詰まる難しさではなく、感情の整理に時間が必要な難しさ。

クリア後のスクリーンショットを見返すと、自分がどう物を置いたかが、いつまでも残っています。これは攻略の記録ではなく、自分の生活感の記録です。

結論

あなたの人生にも、特定の箱で出てきて行き場を失う物がいくつかあるはずです。このゲームは、それを思い出させます。Gone Home と What Remains of Edith Finch の系譜にあるナラティブパズルとして、最小の道具で最大の感情を引き出した一本。

制作者として真似たいのは、『失敗ペナルティをゼロにしても緊張を保つ』設計です。Unpacking には負けがない。けれど真剣に取り組まずにいられない。これはゲームデザインの上位概念のひとつで、何度でも勉強したいテーマです。

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