SOUNDTRACK · 2026-06-04

Machinarium のサウンドトラック — 錆びた世界で、ループを飽きさせない算術

Tomáš Dvořák (Floex)

🎧 音声で聴く

はじめに — ゴミ捨て場に落ちてくる音

小さなロボットが廃棄物の山に投げ捨てられるところから、このゲームは始まる。最初の一曲『The Bottom』で耳に届くのは、ジャワのゴングを思わせる金物の旋律と、スチール弦の硬い爪弾き、その下で揺れる輪郭の崩れたパッドだ。テンポは、だいたい数えるのをあきらめるくらい遅い。拍より先に錆の匂いが届く。Komugi のレビューが扱ったこの台詞ゼロの手描きアドベンチャーで、音楽は言葉の代わりに世界の温度を運んでいる。

作曲は Tomáš Dvořák。Floex 名義で活動するプラハのクラリネット奏者で、Samorost 2 から Amanita Design と組んできた人だ。Machinarium の音は、ピアノ・クラリネット・弦というアコースティックの体温と、友人から借りた Roland SH-01——チューニングが安定しない、汚れた音のアナログシンセ——が同居している。手描きの背景の中で機械が生き物のように振る舞うこのゲームの絵と、音のパレットがきれいに相似形なのだ。

ループの算術 — 反復回数とメロディの具体度は反比例する

Dvořák は Samorost 時代に最長1分ほどの短いループばかり作っていて、そこである法則を体得したとインタビューで語っている。短いループは抽象的でなければならない。具体的すぎるメロディは、10回も聴けば退屈になるか、耳障りになる。ポイント&クリックのアドベンチャーは、プレイヤーが1つの画面の前で何分も腕を組むジャンルだ。つまり曲は、作者が想定できない回数だけ回る。この『回数の不定さ』こそ、パズルゲームの音楽が背負う固有の条件だと私は思う。

Machinarium で彼はその法則の限界に挑んでいる。本人いわく、いちばん難しかった仕事のひとつが『Mr. Handagote』——単体で聴いて楽しめるほどメロディアスに、しかし何度回っても飽きが立たないほど抽象的に、という綱引きの均衡点を探すことだった。聴いてみてほしい。口笛で追えそうなのに、どこか掴みきれない。旋律が手の中で少しずつ形を変える砂のようにできている。これは偶然ではなく、配合比の設計なのだ。

パズルとのアナロジー — 部屋ごとの思考に、部屋ごとの曲

アドベンチャーパズルを解くテンポは、直線ではなく回遊だ。画面を眺め、アイテムを試し、行き詰まり、また眺める。Baba Is You の試行錯誤が小刻みなチップチューンに合い、Stephen's Sausage Roll の長考に沈黙が合うように、Machinarium の回遊には『その場で揺れ続けて、前に進まない曲』が合う。私の耳測りでは、だいたい BPM 60〜90。歩幅のテンポだ。曲は物語を急かさず、部屋の空気として漂い、プレイヤーの思考が一周して戻ってくるのを待っている。

そして思考が部屋単位で区切られるこのゲームでは、曲もシーン単位で切り替わる。Dvořák は基本的にシーンごとに別の曲を書き、安易な使い回しはしなかったと語っている。パズルの文脈が変われば、音の文脈も変わる。プレイヤーにとってこれは無意識のセーブポイントみたいなものだ。新しい曲が流れはじめた瞬間、頭の中の作業机が一度きれいに拭かれる。私はレコードの面をひっくり返すときの、あの数秒の儀式を思い出す。

聴くべきトラック

サウンドトラックは Floex 本人の Bandcamp で全曲試聴できる。まずは Machinarium Soundtrack (Floex 公式 Bandcamp) ↗ で『The Bottom』から通しで。ゲームの導入と同じ順番で錆びた世界に降りていける。本編に入らなかった5曲を集めた Bonus EP ↗ は無料配布だ。

1曲だけ挙げるなら『The Castle』。ハープシコードに弦——のように聞こえるが、実体はわずか5、6トラックの MIDI で、エフェクトで汚して古いレコードの肌触りに仕立てたと本人が明かしている。前半の几帳面なピッツィカートが、後半グラニュラーに砕けてアンビエントへ崩れ落ちる構成は、同じ旋律の『現実の顔』と『夢の顔』だ。YouTube では Floex 公式アーティストページ ↗ から公式音源にたどり着ける。

おわりに — 盗むなら『配合比』と『汚し』

自分が曲を作るなら、ここを盗む。第一に、ループの算術。曲が何回繰り返されるかを先に見積もり、そこからメロディの具体度を逆算する——回数が読めないなら、旋律は砂のように崩しておく。第二に、汚しの手つき。『The Castle』のように、クリーンな打ち込みをエフェクトで経年劣化させて『古い記録物』に変える。音色に年輪を刻むだけで、MIDI は記憶になる。

聴き直すなら雨の日の窓際、黒コーヒーがぬるくなる速度で。あの生成アンビエントの COCOON が『鳴らし続ける』解で、Outer Wilds が『鳴らさない』解だったとすれば、Machinarium は『回しても錆びない』解だ。ループという最も古い形式の中に、まだこれだけ設計の余地がある。次は同じ Floex の Samorost 3 を聴きながら、その続きを考えたい。

参考リンク

Floex 公式 Bandcamp: Machinarium Soundtrack

floex.cz: Machinarium Soundtrack (ディスコグラフィ)

Game Developer: Interview — Floex And The Music Of Machinarium (2009)

Floex — YouTube 公式アーティストページ

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