REVIEW · 2025-04-10

Blue Prince

Room 46 を目指して

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第一印象

屋敷を相続した私は、ドアの先の部屋を毎日『引いて配置する』という奇妙なルールに直面します。1日目、私は1枚の間取り図と、消えない一つの謎を渡されます。『Room 46に辿り着くこと』。

屋敷は毎日リセットされます。歩いた廊下も、開けた金庫も、明日にはまた選び直しになります。けれど私の中の知識だけは残ります。そう気づいた瞬間、屋敷はパズルから生き物に変わりました。

最初の数時間は、引きの偶然に振り回されている感覚が強いのですが、紙のノートにメモを取り始めた頃から、屋敷側の論理がじわじわ見えてきます。乱数の向こうに、確かに固定された設計者の意図が立っている。その感触が、毎日の起動を促してきます。

メカニクスの言語化

ドアを開けるたびに、3枚の部屋カードから一つを選びます。書斎、温室、地下室、玄関ホール。それぞれに固有のリソースと仕掛けがあり、配置によって他の部屋と接続されます。歩数(steps)、金貨、鍵、ジェムといった『日替わりの予算』が、ドラフトの選択を縛ります。

毎日が新しい引きで、屋敷の形は変わります。けれど暗号、家族の手紙、絵画の隅の数字は変わりません。日替わりの戦術層と、固定の謎解き層が、同じマップに重なって走っているわけです。

重要なのは『情報』が永続資産であること。地図にはメモを残せず、屋敷の固有名詞も全部プレイヤーの記憶か手書きノートに退避するしかありません。ローグライトの『進行が消える』感覚を、知識が逆方向に押し戻していく構造になっています。

このゲームの魅力

『リセットされても残るのは知識だけ』という設計哲学が、ローグライトと固定ミステリーを完璧に橋渡ししています。プレイヤーは毎日少しずつ屋敷に詳しくなる。10日目の私は、3日目の私より明確に賢くなっていて、その差分が初めて『成長』と呼べる手触りで残ります。

ローグライトの常套手段である『恒久強化(メタアンロック)』を、Blue Prince はほぼ採用していません。代わりに置かれているのが、プレイヤーの頭の中だけに蓄積する『理解』です。これは Hades のような数値型ローグライトと真っ向から逆の選択で、Return of the Obra Dinn や Outer Wilds の系譜により近い設計と言えます。

屋敷そのものが極めて魅力的なキャラクターになっているのも大きい。壁紙、家具の傾き、絵画の構図、すべてが何かを語ろうとしてくる。私は気づくと、攻略のためではなく『この屋敷の家族の物語』を知るために次のドアを開けていました。

ゲームデザインの工夫

ドラフト制が即興の戦略パズル、屋敷全体は数十時間の長期メタパズル。二つの時間軸を同居させる構造そのものが、本作最大の工夫です。短期の最適化(今日Room 46まで行ける配置か)と、長期の解明(あの絵の数字は何だったか)が、同じ操作の中で両立する。これを成立させるために、ドラフトの『偏り』が絶妙に調整されています。完全ランダムでは長期の方が崩壊し、固定配置では短期が消える。中央値を掴んだ確率テーブルだけが、両方を生かすのです。

もし私がこれを設計するなら、迷うのは『恒久進行をどこまで許すか』だと思います。Blue Prince はメタ進行をほぼ排し、屋敷の門の鍵を1つだけ恒久化するに留めています。これは強い決断で、ローグライトとしての心地よさを多少削ってでも、ミステリーの純度を守った跡が見えます。仮にここで『部屋カードの確率を上げる』『恒久パーク』を入れていたら、屋敷は『どうやって最短で攻略するか』のゲームに矮小化していたはずです。

もうひとつ感心するのは、ヒントの粒度。手紙や絵画は『見ればすぐ意味が取れるもの』『2日寝かせて初めて噛み合うもの』『紙にメモしないと比較できないもの』の3段で散らばっています。Outer Wilds のシップログのように整理してくれないかわりに、整理しないことが屋敷の住人性を保っています。ここで親切な検索インターフェースを追加していたら、屋敷は事典になってしまい、生き物ではなくなっていたでしょう。

難しさの手触り

Room 46に最初に辿り着くまで、私は40時間以上かかりました。地図、家系図、絵画のメモを紙に取り、別の日に持ち越します。攻略の半分は屋敷の外、つまり自分の机の上で進みます。

難所は『一日の中で詰まる』というより、『何を調べるべきかが分からない期間』が点在することにあります。詰まったら別の部屋を引きに行けばいい。22分の制約を持つ Outer Wilds と似た意味で、Blue Prince もプレイヤーに『迂回路』を常に用意しています。これがあるおかげで、難しさ5(鬼)でも投げ出さずに済む。

結論

2025年のパズルを一つ選ぶならこれです。ローグライトの即興性と、長く煮詰めるミステリーの粘り。どちらの手触りも、同じ屋敷で同時に味わえる稀有な構造でした。Outer Wilds 以降の『知識ベースゲーム』の系譜に、新しい一本がはっきり加わったと感じます。

制作者として何を盗みたいかと言えば、『ランダム性と固定の謎を共存させる確率テーブルの作り方』、それから『プレイヤーに紙のノートを取らせる決断の潔さ』です。私は今、自分の作品でメモ機能をつい入れすぎてしまうので、Blue Prince の『ここでは何も提供しない』姿勢には毎晩反省させられました。

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