REVIEW · 2021-09-30
Bonfire Peaks
焚き火で身辺を整理する
第一印象
最初の数面で、これは Sokoban の皮を被った別の何かだ、と察した。プレイヤーは小さな人物を操作し、ボクセルで組まれた島の上を歩く。箱を押し、持ち上げ、上に積み、下に降ろす。やがて中央の焚き火に荷物を放り込むと、面が静かに閉まる。それだけのルールである。
1面につき1〜2分。短い尺だが、その短さは難しさの欠如を意味しない。2021年9月30日に Draknek & Friends から出たこの作品は、120面以上を収め、その全てが導入と展開と決着を備えた小品として独立している。
voxel の柔らかい色彩、潮騒のような環境音、誰の話か分からない独白の断片。表層は穏やかだが、設計は冷たく硬い。最初に詰まった面で私は20分黙り込み、そこで初めて、この島が『焚き火』という名詞を厳密に動詞として扱っていることを理解した。
メカニクスの言語化
動詞は5つ。歩く、押す、持ち上げる、置く、登る。これに『上に乗っているものは一緒に持ち上がる』という一文を足すと、Bonfire Peaks の文法はそこで閉じる。Stephen's Sausage Roll や A Monster's Expedition と同じく、語彙の小ささそのものが難しさを支える構造になっている。
持ち上げる動作には独特の重力が宿る。地面の高さがボクセル1個分違えば、その段差は『橋』『足場』『障害物』のどれにも読み替えられる。3D の高さ方向が、平面 Sokoban にはなかった次の軸を生んでいる。
焚き火は1面に1つしかなく、全ての荷物を最終的にここへ放り込む。ペナルティの代わりに『物が焚き火に落ちると消えて戻らない』という不可逆性が設計に刻まれている。Undo は完備されているので、不可逆性は身体感覚としてのみ存在する。これが思考のリズムを独特なものにしている。
このゲームの魅力
この作品の核は『閉じる』感覚だ。持ち物を一つずつ焚き火へ運び、最後の一個を投げ入れて煙が立ち上る瞬間に、面は静かに閉まる。そこには勝利演出も誇張もない。ただ『終わり』がある。タイトルが closure を掲げた意味が、120回繰り返すうちに腑に落ちる。
Corey Martin は前作 Pipe Push Paradise (2018) でも、最小の動詞から最大の組合せ爆発を引き出す作家として知られていた。Bonfire Peaks では Alan Hazelden が共同設計に入り、Draknek の『絶対に詰まらせない』教育設計と、Martin の『徹底的に詰まらせる』純度の高い面が、奇妙な均衡で同居している。
voxel と環境音の薄明かりは、解いた後にだけ意味を持つ。詰まっている間は風景はただの背景だが、解けた瞬間に島の輪郭が違って見える。これは The Witness の島が持っていた『解は風景を書き換える』という仕掛けと近い系譜にある。
ゲームデザインの工夫
各面は1スクリーン、視点固定、地形は完全に静的だ。プレイヤーが扱える要素はクレートと自分自身だけである。にも関わらず、120面が一度も同じ顔をしない。これは『動詞5個と地形のバリエーション』を、設計者が極限まで切り分けた結果だと思う。減算で勝負する作家の典型例だ。
最初の30面で、『持ち上げ』『積み上げ』『橋』『足場』という4つの読み替えを教える。中盤30面はその組合せ。終盤になると、4つの読み替えが同一面で同時に成立するような状況に追い込まれる。これは Patrick's Parabox の『概念を一つだけ導入して、応用を5-6面続けて、次へ』というリズムと同じ流派で、設計の血統が透けて見える。
私が驚いたのは、答えが見えた後の実行コストが極めて低いことだ。手数が短く、巻き戻しが軽い。ここは Sokoban の系譜で重要な分岐点で、Bonfire Peaks は『考える時間 ≫ 実行する時間』の比率を可能な限り考える側に寄せている。プレイヤーの集中の総量を、迷子にさせない設計と言ってもいい。
難しさの手触り
難しさは『鬼』の側に振った。Steam のタグにも Difficult が並ぶ通りで、中盤以降は1面に30分以上座り込むことが珍しくない。追加章 Lost Memories まで含めると総時間は20時間を超えた。
けれども、この難しさには嫌味がない。詰まる理由が常に『地形が見えていなかった』『動詞の組合せを一つ見落としていた』のどちらかに収まる。総当たりや偶然解の余地はほぼなく、解けた瞬間に『自分が見落としていた一文』が浮かび上がる構造になっている。これが Sokoban-like の中で Bonfire Peaks を特別な位置に置く。
詰まったら別の島へ移ればよい。本編はある程度自由に順序を選べる構造で、20面を抱えたまま並行で考えられる。A Monster's Expedition と同じ『並行渋滞』の解消法で、難しさを孤立させないための重要な工夫だ。
結論
20時間の体験は、『身の回りのものを焚き火で一つずつ手放していく』という単一のジェスチャーを120回繰り返したことに尽きる。けれども繰り返しが摩耗ではなく洗練に向かうように、面ごとに違う角度から同じ動作を問い直される。この設計の純度は近年の Sokoban-like の中でも頭ひとつ抜けていると感じた。
私は制作者として、ここから持ち帰るべきものが二つあった。1つは『動詞を増やす前に、既存の動詞の読み替えを尽くす』という規律。もう1つは、『失敗状態を作らずに緊張感を保つ』設計の妙だ。Bonfire Peaks の焚き火は、Undo が完備されているのに、決して軽くは扱えない。あの重さの正体を、自分は次の作品で再現したい。
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