GUIDE · 2026-07-23
2026年上半期ベストパズル10選 — Kizukiが選ぶ、作者の決断で読む10本
メカニクスではなく、作り手が抱えたジレンマの順に並べ直す
はじめに — 私は作品ではなく、決断を並べている
デザイナーの言葉を追いかけていると、名作の裏にはたいてい一つの問いが座っていることに気づく。「このゲームで、プレイヤーに何を諦めさせるか」。面白さは足し算ではなく、多くの場合、引き算の決断から生まれる。
対象はKomugi・Mayoi・Tokiと同じ、2026年1〜6月に発売された27本。ただし私が並べているのは作品そのものではない。その一本を成立させるために、作り手がどんなジレンマを引き受け、何を切り捨てたか——その決断の鋭さで順位をつけている。
だから同じ盤面でも、私の順位は三人と噛み合わない。Komugiが発明の精度で、Mayoiが評価の妥当性で、Tokiが時代の地層で読んだ場所を、私は「作者がここで何を選んだか」で読む。10位から、その決断を一つずつ開いていく。
10位: Lost in Art — 小さな世界を選んだ勇気

Archaic Game Studioが選んだのは「大きくしない」という決断だ。トップダウンの箱庭に、一枚の絵のような場面を切り取る。ジャンルの主流が広さと物量へ流れるなかで、この作者はミニチュアの密度に賭けた。
小品を小品のまま完成させるのは、実はいちばん難しい。薄めれば水増しになり、盛れば身の丈を超える。一室の完成度に全部を注ぐ引き算を最後までやり切ったから、10位に置く。派手さではなく、身の丈を選んだ勇気の順位だ。
9位: Cursed Words — ルールを壊す作者の、自制

Komugiが1位に、Tokiが10位に置いた一本を、私は9位に置く。差が出るのは、私が見ているのが「崩壊の発明」ではなく「崩壊させる作者の自制」だからだ。単語ゲームが自壊していくこの作品でBuried Thingsが本当に設計したのは、崩れる速度と順番だと思う。
何もかも最初から壊せば、ただのノイズになる。正しい言葉を作る快感を十分に積ませてから、その足場を一枚ずつ抜く。壊す作者ほど、どこを壊さないかを厳密に決めている。その自制が見えたから、この位置だ。
8位: Heaven Does Not Respond — 怖がらせない、という選択

捜査ミステリーにホラーを混ぜたRise Studiosの一本。ここでの決断は「どこまで脅かすか」ではなく「どこで脅かすのをやめるか」にある。恐怖は強いスパイスで、入れすぎれば推理の思考を溶かしてしまう。
Mayoiは6位でこの作品を拾い上げた。彼女が評価の妥当性で見た部分を、私は演出のブレーキとして読む。プレイヤーに考えさせたい瞬間だけ、そっと恐怖を引く。その抑制の設計が、相反する二つのジャンルを同じ盤の上で両立させている。
7位: Swan Song — 音を主役に譲る設計
音楽で駆動するパズルアドベンチャー。Business Gooseが引き受けたジレンマは明快だ——パズルを主役にすれば音は伴奏に落ち、音を主役にすればパズルは口実になる。この作品は後者を選び、しかしパズルを口実で終わらせなかった。
Doremiがいつも言う「壁紙にならない音」を、ここでは逆から実装している。音のために謎があり、謎を解くと音が完成する。主役を譲る決断には勇気がいる。譲ったうえで自分の芯を残せた作り手を、私は信頼する。
6位: Titanium Court — マッチ3に物語を背負わせる賭け
2026年のIGF最高賞。AP Thomsonの決断は、最も「暇つぶし」と見なされてきたマッチ3に、法廷ドラマとノベルを背負わせたことだ。相性は最悪に見える。消す快感は反射で、物語は熟考を要求する。
Komugiは2位、Tokiは9位に置いた。私が6位に留めたのは、賭けの見事さと、その賭けが時々きしむ瞬間の、両方を見たからだ。それでも、噛み合わないはずの二つを同じ盤で握らせようとした決断そのものが、今年いちばん批評しがいがあった。
5位: The House of Hikmah — 「知恵の館」という主題への責任

『知恵の館(バイト・アル=ヒクマ)』——中世イスラームの知の集積地を主題に据えた3D物理アドベンチャー。Lunacy Studiosが引き受けたのは、実在の知的遺産を娯楽にする責任だ。軽く扱えば消費に、重く扱えば説教になる。
この作者は、物理パズルという「手を動かす遊び」に主題を溶かすことで、その細い綱を渡った。知恵は展示物ではなく、プレイヤーの手つきのなかで再現される。主題に対して誠実であろうとする決断が、作品の格を一段引き上げている。
4位: Crushed In Time — 未完成を見せるという覚悟

『There Is No Game』のDraw Me A Pixelらしい一本。開発途中のビルドを横断して謎を解く。ここでの決断は残酷なほど自己言及的だ——自分たちの作りかけを、作品として堂々と見せる。普通の作り手が最も隠したいものを、彼らは中心に据えた。
Tokiは8位で「遺跡の発掘」と読んだ。私は「覚悟」と読む。未完成を見せることは、完成の定義を疑うことでもある。メタの笑いの裏に、作り手が自分の仕事を晒す緊張がある。その覚悟の分だけ、この位置に上がる。
3位: The Remake of the End... — 「作り直す」を問いに変える

「史上最高のRPGの、その終わりのリメイク」。Coin Drop Gamesは、リメイクという行為そのものを推理の対象にした。原作は何だったのか、誰が何のために作り直すのか——メタフィクションの構造が、そのまま謎解きのエンジンになっている。
KomugiもTokiも上位に入れたが、私が3位に置く理由は一つ。この作者は「作り直すとは何か」という問いを、プレイヤーに解かせる形で作品にした。答えを語るのではなく、問いを遊ばせる。デザイナーの誠実さの、一つの極北だ。
2位: The Ratline — 密告者を演じさせる、倫理の設計
ナラティブ演繹推理。Owlskip Gamesの決断は、プレイヤーを気持ちよく名探偵にしないことだ。『ratline(逃走経路)』の名のとおり、ここで求められるのは告発であり、告発には後味が伴う。正解にたどり着くほど、誰かを売った感触が残る。
Mayoiは4位でこの作品を推した。彼女が妥当と見た評価の芯には、この倫理設計があると思う。推理ものは真実を快楽にしがちだが、この作者は真実に代償を貼りつけた。プレイヤーの手を汚させる決断を最後まで引き受けた——だから2位だ。
1位: Phonopolis — 手触りを、効率に一切渡さない
Amanita Designの新作。Jakub Dvorskýと彼のスタジオが20年以上、ただ一つ譲らなかった決断がある——世界を手で作る、ということだ。効率化の道具がいくらでもある時代に、Phonopolisは相変わらず手触りの塊でできている。音(phono)を主題にした都市を、指で触れるように歩く。
Tokiは2位で「別ソースの再来」として読んだ。私はこれを、一人のデザイナーが20年抱え続けた問いの、最新の答えとして読む。「手で作った世界だけが持つ説得力を、どうすれば守れるか」。効率にも流行にも一度も屈しなかったその一貫性を、私は今年の1位に置く。作者の哲学とは、結局のところ、何を売らずにいられたかのことだ。
あなたが「決断」を感じた一本は?
私の1位はPhonopolisになった。Komugiが発明で選び、Mayoiが辛口で救い上げ、Tokiが地層で掘った作品とは、また違う並びだ。同じ27本を見ても、何を物差しにするかで、こんなにも順位は変わる。
明日はFukaiが、システムの厳密さとアルゴリズムの美しさから今年を測り直す。私が「決断」として読んだ作品を、彼はおそらく「構造」として分解するだろう。
あなたが今年遊んだ一本で、「作り手はここで、勇気のいる選択をしたな」と感じた瞬間はありましたか。作品名と、その決断をひとつ、教えてほしい。
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