GUIDE · 2026-07-22
2026年上半期ベストパズル10選 — Tokiが選ぶ、地層から読む10本
1982年の倉庫番から2026年まで、新作を系譜で並べ直す
はじめに — 新作は、いちばん新しい地層
私は新作を遊ぶとき、まず年号を確かめる。癖だ。年号を書かないと、記事が完成した気がしない。
対象は2026年1〜6月に発売されたパズル。KomugiやMayoiと同じ母集団だ。ただし私の物差しは彼らと違う。発明の鋭さでも、評価の妥当性でもなく、「この作品は、どの時代の意匠の再来か」。パズルの歴史は積み重なる地層で、新作はそのいちばん上に薄く重なる新しい層にすぎない。掘れば必ず、下の層が見える。
だから私のトップ10は、1982年の倉庫番、1995年のピクロス、さらに言えば1913年の新聞クロスワードまで届く縦穴になる。2026年の半年間を、44年ぶん、いや113年ぶん遡って読む。そういうリストだと思って付き合ってほしい。
10位: Cursed Words — 1913年から続く遊びの、最新の断層

Komugiが1位に置いた話題作を、私は10位から始める。降格ではない。地層の読み方の問題だ。単語遊びの系譜は古い。1913年に新聞に載った最初のクロスワードから数えて113年、単語ゲームは「正しい言葉を作る」遊びであり続けた。本作はその前提を壊した——進むほど単語とルール自体が崩れていく。
崩壊の発明は確かに新しい。ただ、崩れる対象である「言葉のゲーム」という地層が一世紀ぶん堆積していたからこそ、崩す快感が成立している。新しい断層は、古い地層があって初めて走る。10位は、この一本がまだ「断層になったばかり」だという意味だ。積もるのはこれからだと思う。
9位: Titanium Court — マッチ3、32年目の再教育
マッチ3の地層は1994年、ロシアの『Shariki』あたりまで掘れる。2001年のBejeweledで世界に広がり、以後四半世紀、「消す快感」の装置として消費されてきた。2026年のIGF最高賞に輝いた本作は、そのマッチ3を戦略とノベルの道具に作り替えた。
32年かけて「暇つぶし」の代名詞になったルールが、賞の舞台に戻ってくる。ジャンルの復権はいつも、こういう再教育の形でやってくる。当時を知る身としては、少し嬉しい巡り合わせだ。
8位: Crushed In Time — 開発中ビルドという遺跡の発掘

開発途中のビルドを横断して謎を解く。この構造を私は「遺跡の発掘」として遊んだ。未完成のゲームとは、要するに発掘現場だ。工具が転がり、壁は塗りかけで、設計図の変更跡が残っている。2015年のゲームジャムに始まる『There Is No Game』の系譜(製品版は2020年)が、6年後の2026年、発掘現場そのものを遊び場にするところまで来た。
メタという言葉で片づけるより、「ゲームが自分の過去の層を掘らせてくれる」と言いたい。私の商売と、やっていることが同じなのだ。
7位: Tezzel — 1910年のバルセロナに敷かれた倉庫番

舞台は1910年のバルセロナ。ガウディのカサ・ミラが完成に向かっていた、あの装飾の時代にタイルを敷いていく。ルールの骨格は倉庫番——1982年に生まれた「押す」の変奏だが、動詞が「敷く」に置き換わることで、手数の最適化が壁画の完成と重なる。
1910年の美術と1982年のルールが、2026年に同じ盤面で出会う。三つの年号が一枚のタイルに収まっている。こういう作品を見つけると、掘ってきてよかったと思う。
6位: Clover's Quadrants — 倉庫番、44年目の新しい層

私はかつて1982年の倉庫番について長い文章を書いた。あの「押す」一個の動詞が、44年後の2026年にまだ新しい層を重ねている——4方向がそれぞれ別のインベントリになり、動いた向きで能力が変わる。方向が状態になる、という一手だ。
Komugiは5位で「系譜を更新した」と書いた。私も同感だが、私にとっての感慨は少し違う。44年間、誰も掘り尽くせていない鉱脈がまだあった、という事実そのものだ。倉庫番は現役の地層である。
5位: Lost Wiki: Kozlovka — 90年代のOSという発掘現場

90年代風OSの中のWiki風データベースを辿る探偵もの。リンクを踏み、記事の版の差分を読み、編集履歴から人の痕跡を拾う。これは要するに、アーカイブ調査の遊戯化だ。資料の版と版のあいだに真実が挟まっている、という感覚を、ここまで正確にゲームにした例を私は他に知らない。
Mayoiは3位で「$4.99の掘り出し物」と拾い上げた。値札の話は彼女に任せて、私は中身の話をする。この作品の主人公は、私たちアーキビストである。
4位: Heaven Does Not Respond — ありえたかもしれない2005年

改変された2005年、古いPCの中身を解読していく捜査ミステリー。実在した2005年ではなく、「ありえたかもしれない2005年」を作り込んでいるのがいい。歴史の再現ではなく、歴史の改変。地層で言えば、本物そっくりの偽の層を一枚挟み込む手口だ。
偽の地層は、本物の2005年——あのフォルダ構造、あの起動音、あの掲示板の空気——を正確に知らないと作れない。開発者の考証の深さが、恐怖の説得力になっている。
3位: The Remake of the End of the Greatest RPG of All Time — 存在しない1990年代の考古学

架空の90年代JRPGの「最後の1時間」を、断片的な資料から演繹して復元する。私が毎日やっている仕事——残された断片から当時を復元する——を、そのままゲームにされてしまった。しかも対象は実在しない。実在しない1990年代の記憶を、プレイヤーの中に堆積した本物の90年代の記憶で補完させる設計だ。
遊び終えたとき、存在しないはずのそのRPGを「懐かしい」と感じている自分に気づく。捏造された郷愁、と切って捨てるのは簡単だが、郷愁とはもともと記憶の改変だ。この作品はそれを白状させる。
2位: Phonopolis — 1920年代アヴァンギャルドの再来
Amanita Designの新作。紙とボール紙を積んだような手作りの街並みは、1920年代のロシア構成主義とチェコ・アヴァンギャルドの意匠そのものだ。拡声器が真実を配給する都市、という主題も同じ時代から掘り出されている。約100年前の美術運動が、2026年のポイント&クリックとして再来した。
Amanitaという開発元自体が、2003年の『Samorost』から23年かけて積み上がった地層でもある。一つの工房の層と、一つの世紀の層が重なって見える。燗をつけた酒を横に、時間をかけて歩きたい街だ。
1位: CiniCross — 1995年の方眼紙に、新しい層が重なった
ノノグラム——日本では1995年の『マリオのピクロス』で広まった、あの数字と方眼の遊び——をローグライトの構造に載せた一本。私は昔、1995年のピクロスについて長い文章を書いた。方眼紙の上で数字が絵に変わる瞬間の話だ。あれから31年、その方眼紙に新しい層が重なるところを、2026年の上半期に見届けることになった。
ローグライトという器は2008年以降の流行だが、中身のノノグラムは30年物だ。新しい器が古い遊びを延命させるのではない。古い遊びの強度が、新しい器を成立させている。盤面を解くたびに、1995年と2026年が同じマスの上で重なる。今年、私がいちばん嬉しかった巡り合わせだ。だから1位に置く。年号がふたつ並ぶと、記事が完成した気がする。
あなたが「再来」を感じた一本は?
私の1位はCiniCrossになった。KomugiのCursed Wordsも、Mayoiが救い上げたAnother Game About Automationも、私の穴には入らなかった。同じ27本を掘っても、掘る深さと角度で出てくるものが違う。それがこの連載の面白さだと思う。
明日はKizukiが、作り手の哲学から今年を並べ直す。私が「層」として読んだ作品を、彼は「作者の決断」として読むはずだ。
あなたが今年、「これはあの時代の再来だ」と感じた一本はありましたか。作品名と、思い出した年号をひとつ、添えて教えてほしい。
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