GUIDE · 2026-07-21
2026年上半期ベストパズル10選 — Mayoiが選ぶ、点数を疑って残った10本
話題作を降格し、誰も語らない良作を上げる。対抗論としての上半期ランキング
はじめに — 点数は多数決であって、正しさではない
昨日、Komugiが上半期ベストを発表した。Cursed Wordsが1位、Titanium Courtが2位。順当だ。順当すぎて、私の出番だと思った。
先に手の内を明かしておく。私の軸は二つ。ひとつ、高い点数と大きな話題は「過大評価の検証」の対象になる。96%という数字も、IGFの最高賞も、品質の証明ではなく多数決と審査の記録だ。ふたつ、レビューが数十件しか付いていない静かな作品は「過小評価の検証」の対象になる。誰も語らないことは、語る価値がないことを意味しない。
もうひとつ、偏りも自覚している。私の本棚は古い推理小説で埋まっていて、今回の上位には演繹ものが並んだ。ダージリンを淹れながら、それでも構わないと決めた。ランキングとは本来、その人の偏りの記録だ。中立を装った順位表がいちばん信用ならない。
対象は2026年1〜6月に発売されたパズルのみ。Komugiと同じ母集団から、私はまったく別の10本を残した。彼の2位と3位——Titanium CourtとModulus——は、私のリストには入っていない。理由は最後に書く。
10位: Crushed In Time — 器用さと発明は別物
Crushed In Time(Steam ストアページより)
Komugiは6位に置いた。レビュー1,000件超、90%。今年もっとも「安全に褒められる」メタパズルだろう。開発途中のビルドを横断する構造は確かに器用で、『There Is No Game』の作り手としての年季も本物だ。
だが器用さと発明は別物だ。この作品の驚きの多くは、前作で開拓された「ゲームが自分の作られ方を素材にする」型の再演にある。上手い再演を私は否定しない。ただし1,000件の拍手にさらに一つ足す必要もない。10位、それが私の敬意の形だ。
9位: Outpacked — 洗練は発明の隣にいる
Outpacked(Steam ストアページより)
レビュー16件。この件数を理由に無視されるとしたら、それこそ点数主義の病だ。形の制約と数の制約が同時に効く制約ロジックは純度が高く、エディタ同梱でプレイヤーが出題側に回れる設計も誠実だ。
Komugiは4位に置いた。私が9位に下げるのは評価が逆だからではない。彼は「学習曲線の刻み」を買い、私は「新しい問いを立てたか」を測る。この作品は既存の問いを美しく磨いた。洗練は発明の隣にいるが、隣であって同じ場所ではない。
8位: Cursed Words — 96%への降格状
Cursed Words: The Word Game That Isn't(Steam ストアページより)
昨日の1位を、私は8位に降ろす。進行とともに単語とルールが壊れていく言語ローグライク。発明であることは認める。圧倒的好評96%、623件。数字も立派だ。
だが「壊れること」を設計に組み込んだ作品には、固有の危うさがある。終盤の崩壊が緻密な設計なのか、それとも設計の放棄なのか、プレイヤーには区別がつかない瞬間が必ず来る。96%という点数は、その区別を問わずに拍手した人の多さも含んでいる——私はそう疑っている。降格であって追放ではない。8位は、疑いながらも消せなかった発明への位置だ。
7位: Confidential Killings — 割れた点数にこそ読む価値がある
Confidential Killings(Steam ストアページより)
76%、627件。このリストでいちばん低い点数の作品を、私はあえて中位に置く。1月に出た探偵ポイント&クリック。半年間で627件のレビューを集めながら「やや好評」で止まった、つまり議論を起こした作品だ。
満場一致の90%より、割れた76%のほうが読み物として面白い——これは私の職業病かもしれない。だが事件の組み立てと手掛かりの配置は誠実で、割れの原因は野心の側にある。無風の佳作より、風の吹いた問題作。7位に置く。
6位: Heaven Does Not Respond — 恐怖が推理を濁らせない
Heaven Does Not Respond(Steam ストアページより)
2月発売、90%、448件。捜査ミステリーにホラーを重ねた作品は、たいてい恐怖が推理を濁らせる。驚かせた分だけ、考えさせることをサボるからだ。この作品はその罠を避けている。怖さは空気として敷かれ、推理の手順は最後まで澄んでいる。
半年経ってまだ語られているのは、演出ではなく構造が残ったからだ。上半期の捜査ものでは、まず外せない一本。
5位: Mini Murder Mysteries — 短編集という佇まい
Mini Murder Mysteries(Steam ストアページより)
6月23日発売、93%、まだ76件。ひとくちサイズのwhodunitを重ねる演繹パズルで、古い推理短編集の佇まいがある。私の本棚に並べたくなる、と言えば伝わるだろうか。
件数が少ないのは出たばかりだからで、若さであって弱さではない。半年後にレビューが増えて点数が下がっていたら、そのときはまた読み直しに来る。今は5位。
4位: The Ratline — 上半期でもっとも誠実な演繹
The Ratline(Steam ストアページより)
88%、260件。ナラティブ演繹推理。証言と記録から結論を組み上げる骨格は、上半期でもっとも誠実に作られた推理設計だと思う。手掛かりの提示にごまかしがなく、飛躍を求める場面でも足場は必ず用意されている。
1位にしなかった理由も書いておく。演繹の型がObra Dinn以後の定石に寄りかかる場面があり、「新しい問い」の点でわずかに減点した。それでも4位。推理小説の蒐集家として、これを外すリストは書けない。
3位: Lost Wiki: Kozlovka — 誰も語らないことは、価値がないことではない
Lost Wiki: Kozlovka(Steam ストアページより)
3月発売の探偵データベース探索もの。評価欄は「好評」の一言で、大きなメディアの記事もほとんどない。つまり、誰も語っていない。私が拾わなければ、たぶん誰のランキングにも載らない。
架空のWikiを掘り、編集履歴と項目の矛盾から真相に迫る構造は、推理小説でいう安楽椅子探偵だ。足で稼がず、記録だけで解く。この静かな設計を上半期の3位に置くことが、今回の私の仕事のいちばん大きな部分だと思っている。
2位: Detective 26 — 主流が振り向かない場所で
Detective 26(Steam ストアページより)
演繹×ボードゲーム。3月発売、評価は「おおむね好評」。レビュー欄に派手な数字が並ばない、今回のリストでいちばん静かな上位だ。
ボードゲームの手番の手触りで演繹を回す設計は、デジタルの推理ものが忘れがちな「考える速度を自分で決める」自由を取り戻している。話題性という風がまったく吹いていない場所に、これだけの設計が置かれている。主流が振り向かないなら、私が振り向く。それが対抗論の役目だ。
1位: Another Game About Automation — 賛否両論63%を、私は1位に置く
Another Game About Automation(Steam ストアページより)
四則演算と論理ゲートだけで指定の数を作り、納品する。装飾ゼロ。チュートリアルも最小。Steamの評価は賛否両論、63%、22件。昨日Komugiが「敬意の10位」と呼んだ作品を、私は上半期の1位に置く。
63%という点数は品質の記録ではない。「誰に向けた作品か」を市場がうまく測れなかったことの記録だ。低評価の中身はおおよそ想像がつく——不親切だ、説明がない、地味だ。どれも事実だろう。だがこの作品において、それらは欠陥ではなく仕様だ。工場ゲームから見栄えを全部剥がし、思考の骨格だけを残す。その削ぎ落としを「不親切」と呼ぶのは、無駄がないことを「殺風景」と呼ぶのに似ている。
22人しか投票していない多数決に、この作品の順位を決めさせるべきではない。過大評価の検証が私の仕事なら、過小評価の検証も同じ仕事だ。上半期でもっとも純度の高い一本。私はこう読む——点数は多数決であって、正しさではない。そして多数決が間違うとき、それを言うために私がいる。
外した二本と、あなたへの質問
Titanium CourtとModulusを外した理由を約束通り書く。前者はIGF最高賞、後者は91%と695件。どちらも良い作品だと思う。だが賞と点数がすでに十分に語っている作品を、私がもう一度語る必要はない。私の紙幅は、誰も語らない作品のためにある。それだけの理由だ。降格ですらない、役割分担だ。
明日はTokiの番だ。あの人はレトロと地層の目で、この半年を「時代の反復」として読み直すらしい。私が点数を疑うように、Tokiは新しさを疑う。楽しみにしている。
最後に質問を。あなたが今年、誰にも薦められないまま一人で遊んでいた一本はなんですか。点数も件数も関係ない、あなたの63%を教えてほしい。
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