DESIGNER-STUDY · 2026-06-17
Alan Hazelden の哲学 — まず多く作り、「考える」を名付けた
『A Monster’s Expedition』『Sokobond』の Draknek を、本人の発言から読む
はじめに — 「考えるパズル」を名付けた人
Alan Hazelden(アラン・ヘイゼルデン)は、ロンドンを拠点にする個人パズルデザイナーであり、スタジオ兼パブリッシャー Draknek & Friends の創設者である。『Sokobond』『A Good Snowman Is Hard To Build』『Cosmic Express』『A Monster’s Expedition』——いずれも一見おとなしい見た目をしながら、解いた瞬間に頭の中で何かが組み変わる、あの感覚を狙った作品だ。
私が今このタイミングで彼を取り上げるのは、本サイトでこれまで扱ってきた Arvi Teikari(Hempuli)や Jonathan Blow といった作家たちと、Hazelden が太い線でつながっているからだ。彼は自分の作品を「Tetris のようなものとは違うパズルゲーム」と呼ぶために、ある言葉を持ち出した。「thinky(考える)」である。本稿では作品紹介ではなく、彼自身がインタビューや講演で語ったことだけを手がかりに、その人物を読む。
経歴 — 学生の趣味から、パズルの旗振り役へ
Hazelden は自身のサイトで、2006年からゲームを作り続けてきたと記している。最初は学生の趣味として始め、2013年7月の『Sokobond』リリースを機にフルタイムの開発者になった(本人サイト ↗)。同年に立ち上げた Draknek & Friends は、いまや自作だけでなく他者のパズルゲームを世に出す出版レーベルにもなっている(Draknek & Friends ↗)。
彼の肩書きは流動的だ。本人は TouchArcade のインタビューで、自分の役割を「Head Draknek」と呼び、社内開発作ではクリエイティブ・ディレクター兼メインのパズルデザイナーを務めつつ、制作進行・テスト・事業開発・UX まで幅広く手を出すと語っている(TouchArcade, 2024 ↗)。作るだけの人ではなく、パズルというジャンルそのものを耕す人だ、と整理できる。
実際、彼は2018年7月に thinky パズルの Discord を立ち上げ、月刊ニュースレター Thinky Third Thursday や年次イベント Cerebral Puzzle Showcase を運営している(同上)。日本語圏での知名度は作品ほど高くないが、英語圏のパズル界では「コミュニティの旗振り役」として知られる人物である。
哲学 — まず多く作る、そして「下手な作」を恐れない
Hazelden の発言を横断して最も一貫しているのは、「量が質を連れてくる」という信念だ。彼は古い講演「Learning through failure」で、こう言い切っている。「私は、優れたゲームを作る最も効果的な方法は、まず優れていないゲームを大量に作ることだと信じている。それらの多くは磨く価値さえないだろう」(「I believe that the most effective way to create a great game is to first create a large number of games which are not great. Many of these games will not be worth polishing.」Draknek “Learning through failure”, 2010–2011 ↗)。失敗作を恥じるのではなく、良い一本に至るための必要な堆積物として扱う姿勢だ。
この「まず作る」哲学は、十数年後のインタビューでも形を変えて残っている。彼はパズル設計で最も伸びたスキルとして、「プレイヤーの理解のメンタルモデルを持つ能力」を挙げ、「プレイヤーが何に注意を払う/払わないか、ある仕組みを教えるのに何が必要かを内面化すること」だと語る(TouchArcade, 2024 ↗)。作る数を重ねるほど、その内面化が速くなる——量の哲学が、職人としての観察眼に接続されていると読める。
彼が自分のニュースレターで Hempuli(Arvi Teikari)の月5本ペースの試作群を「毎回うれしくなる」と絶賛しているのも(Thinky Third Thursday, 2024-03 ↗)、同じ価値観の裏返しだろう。他人の多産を心から喜べるのは、自分自身が「まず量」を信条にしているからだ、と整理できる。
こだわり — 言葉を「thinky」に絞り、教え方を設計する
Hazelden のこだわりは、まず言葉のレベルに現れる。彼は「‘thinky’というジャンル名を作ったのは自分かもしれない」と述べ、その理由を「自分のゲームを Tetris のようなものとは違うパズルゲームとして説明しようとしたから」だと語っている(TouchArcade, 2024 ↗)。反射神経で解く Tetris と、立ち止まって考える自作とを、彼は明確に分けたかった。名前を与えるという行為そのものが、設計思想の宣言になっている。
もう一つのこだわりは「教え方」だ。彼の作品はチュートリアルのテキストをほとんど使わず、ステージの配置だけで仕組みを理解させる。前述の「プレイヤーの理解のメンタルモデル」発言は、この無言の教育を支える技術論だと読める。何を見せ、何を伏せ、どの順で気づかせるか——彼が繰り返し磨いてきたのは、解法そのものより「学習曲線の設計」のほうだと整理できる。
失敗と乗り越え方 — 出してから「最初から入れておけば」と悔やむ
Hazelden は自分の判断ミスを率直に語るタイプだ。『A Monster’s Expedition』では、目玉である「いかだ移動」の発見をゲーム後半に置くつもりだったという。彼の言葉では、それは「ずっとこれができたのか、という‘woah’の瞬間」の極致だったから(TouchArcade, 2024 ↗)。ところが実際には、その仕組みを前倒ししたほうがチュートリアルの区切りとして機能し、世界の構成にも自由度が出た。「今では別の形が想像できない」と本人は振り返る。初期設計への固執を、テストの結果に従って手放した例だ。
より痛みを伴う述懐もある。同作のヒント機能は発売後に追加されたものだが、彼は「ヒントを追加する過程で、最初から入れておけばよかったと思わされた」と語っている(同上)。そして「今後の自分たちの作品は、発売時点で何らかのヒントシステムを備えることになりそうだ」と続ける。失敗を一度きりの後悔で終わらせず、次作以降の標準仕様へと制度化している点が、彼の乗り越え方の特徴だと読める。
ジレンマ — 難しさと「近づきやすさ」のあいだ
Hazelden が明確に悩みとして語るのは、難度と「近づきやすさ(approachability)」の綱引きである。彼は『A Monster’s Expedition』から引き継ぎたいものとして「近づきやすさの価値」を挙げ、「以前の作品が完全に取っつきにくかったわけではないが、少し弾かれやすかった(a bit easier to bounce off)」と認めている(TouchArcade, 2024 ↗)。歯ごたえのあるパズルを作りたい欲求と、プレイヤーを途中で失いたくない配慮——この二つは簡単には両立しない。
前節のヒント機能をめぐる方針転換も、このジレンマの延長線上にある。難しさを売りにするジャンルで、後からヒントを足すことは「易しくしてしまう」のではないか、という葛藤は当然あったはずだ。彼の解は、難度そのものを下げるのではなく、詰まったときの逃げ道を最初から用意しておく、という方向だったと読める。挑戦の純度を守りつつ、入口を広げる——その折り合いの付け方に、彼の現在地が表れている。
影響源 — SpaceChem、English Country Tune、そして仲間たち
本人が名前を挙げた影響源は具体的だ。パズルというジャンルを意識し始めた頃の記憶として、彼は2010年代初頭の作品から「Manufactoria、SpaceChem、English Country Tune」を挙げている(TouchArcade, 2024 ↗)。とりわけ English Country Tune は increpare(Stephen Lavelle)の作で、Lavelle が作ったツール PuzzleScript は、Hazelden が『A Good Snowman』のレベルエディタとして実際に使ったものでもある(Draknek Talks, GDC 2016 ↗)。影響は思想だけでなく、道具のレベルでつながっている。
もう一つの「影響源」は、彼が能動的に作り出した同時代の仲間たちだ。彼は自分のニュースレターで Hempuli の多産を称え(Thinky Third Thursday, 2024-03 ↗)、Discord やショーケースを通じて若い作家を後押ししている。一方的に受ける影響だけでなく、影響が循環する場そのものを設計している点で、彼は珍しいタイプの作家だと整理できる。
Kizuki の読み
ここからは私 Kizuki の解釈である。2010年の Hazelden は「優れていないゲームを大量に作れ」と説き、失敗をためらわない若い量産主義者だった。だが2024年の彼が口にするのは「近づきやすさ」であり、出した後に「ヒントを最初から入れておけば」と悔やむ、プレイヤーを取りこぼすまいとする慎重さだ。私はここに矛盾ではなく、重心の移動を読む。かつては「自分が何本作れるか」に賭けていた人が、いまは「プレイヤーが何本最後まで遊べるか」に賭けている。量の哲学はそのまま、パブリッシャーとしての他者支援や、コミュニティという「みんなで量を出す装置」へと外部化された。Hazelden を私は、孤独な作家というより、パズルというジャンルの新陳代謝そのものを設計しようとした「庭師」として読む。彼の最良の一手は、たぶん特定の一作ではなく、thinky という言葉と、その言葉が育てた界隈のほうだ。
おわりに — どこから触れるか
Hazelden を理解したいなら、まず『A Monster’s Expedition』から入るのがいい。ヒントと近づきやすさを巡る彼の現在の答えが、最も素直に形になっている作品だからだ。仕組みの教え方の妙を味わいたいなら『Sokobond』、優しさと難しさの同居を見たいなら『A Good Snowman Is Hard To Build』を勧める。
関連デザイナーへの導線も置いておく。彼が影響源に挙げ、ツールまで借りた Stephen Lavelle(increpare)、そして彼が最も熱心に応援する Arvi Teikari(Hempuli)——本サイトには Teikari の考察もある。量と仲間という補助線を引くと、この三人は同じ星座の中にいると見えてくるはずだ。
参考文献
本記事で参照した一次資料:
・TouchArcade: “Draknek Interview: Alan Hazelden on Thinky Puzzle Games…”(本人インタビュー, 2024-07-19)
・Draknek “Learning through failure”(本人講演スライド/概要, 2010–2011)
・Draknek’s Domain — Talks(本人の講演一覧。GDC 2016 “Putting the ‘game’ in ‘edi-game-tor’” 等)
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