SOUNDTRACK · 2026-07-01

Viewfinder のサウンドトラック — 写真を置く手つきに合わせて呼吸する音

Aether (Jason Taylor)

はじめに — 最初のラウンジに灯る、角の丸い電子音

一枚の写真を構え、世界のどこかへ貼りつける。すると写真に写った橋や壁が、そのまま立体になって足元に現れる。Komugi のレビューが扱ったこの一人称パズル Viewfinder で、最初に耳へ届くのは、拍を数えにいく前に角の取れた、温かいダウンテンポだ。柔らかいパッド、ぽつりと置かれるピアノ、息の混じった電子音。だいたいのテンポはゆっくりで、私の耳測りではおおよそ 70〜90 BPM のあたり、歩くより少し遅い脈である。

サウンドトラックは Aether——本名 Jason Taylor が手がけ、2023 年 10 月に全 19 曲で公開された。彼はスコットランド出身、ダウンテンポとアンビエントで数億回のストリーミングを重ねてきた電子音楽家だ。ここに派手なドラムの推進力はない。あるのは、写真を構えて息を止める、あの静かな一拍に寄り添うための、控えめで発光するような音色たちである。

Lounge と Domain — 曲名がゲームの骨格を明かす

このサウンドトラックの設計は、曲名の並びを見ただけで半分わかる。前半は Aharon's Lounge、Hiraya's Lounge、Chi Leung's Lounge、Mirren's Lounge、Fragmented Lounge。後半は同じ四人の名で Aharon's Domain、Hiraya's Domain、Chi Leung's Domain、Mirren's Domain。Viewfinder は四人の設計者それぞれの世界を巡る構造で、各人が『ラウンジ(拠点)』と『ドメイン(パズル本編)』の二つの音を持つ。音楽が人物ではなく、ゲームの空間構造に沿って割り当てられているのだ。

面白いのは、Lounge が短く(多くは 1 分前後)、Domain が長い(Mirren's Domain は 8 分を超える)ことだ。拠点では息を整えるだけの小さな調べ、パズルの本編では長く留まっても飽きの来ない持続的な広がり——留まる時間の長さに、そのまま曲の尺が対応している。そして CAIT's Theme(Jingle と Credits)。CAIT はプレイヤーを導く AI の猫で、こいつだけが名前を持ったモチーフを与えられている。地形の音は淡く広く、案内役の音は輪郭を持つ。役割の線がくっきり引かれている。

耳で組み上げた音 — 作曲者の制作環境という隠れた線

Viewfinder の音を語るとき、私はどうしても作曲者本人の話を飛ばせない。Aether は 17 歳で網膜色素変性症により法的盲と診断された。彼はそれで音楽をやめず、画面上で起きていることを音声で読み上げるツールや、自作の環境を使い、耳を頼りに制作を続けている(Forbes のインタビュー参照)。目で波形やミックスを『見て』整えるのではなく、聴いて、聴いて、決めていく。

これはただの美談ではなく、音そのものに効いている、と私は思う。目で確認できない制作は、余計な装飾をそぎ落とし、耳に届く手触りだけを信じる方向へ向かう。Viewfinder の音が、情報量を抑えた発光するパッドと、輪郭のやわらかい音色で出来ているのは、偶然ではない気がする。写真を『見て』解くゲームの傍らで、音は『目で見なくても効く』設計になっている。プレイヤーの視線は常に画面へ、そのぶん音は視覚の邪魔をしない位置に置かれている。

パズルとのアナロジー — 構える一拍と、鳴らさない一拍

私が何でも BPM で測る癖で言えば、Viewfinder を解くテンポは奇妙だ。動き回って角度を探す速い局面と、写真を構えてから貼るまでの、息を止めるような遅い一拍が交互に来る。ここでせっかちなビートを鳴らすと、あの静止の瞬間が台無しになる。Aether はテンポを緩め、拍の輪郭をぼかし、推進力をあえて抜くことで、『構える一拍』に音楽の側から沈黙に近い余白を差し出している。Baba Is You の試行錯誤に効くのが小刻みなチップチューンなら、Viewfinder の『構えて・貼る』に効くのは、鳴らしすぎないダウンテンポだ。

そして解法が訪れる仕方も音に似ている。写真という平面の断片を世界に差し込み、立体へ育てる——直線的に進むのではなく、視点と断片を噛み合わせて空間を組み直す。音楽もまた、劇伴の一本線ではなく、拠点と世界に紐づいた発光する層の集合だ。解く行為の構造と音楽の構造が、同じ『重ねて立ち上げる』文法でできている。そこに私はこのサウンドトラックの芯を見る。

聴くべきトラック

まずはサウンドトラック全編を、公式の自動生成プレイリスト(Aether - Topic 提供)で通して聴いてほしい。短い Lounge が世界を切り替え、長い Domain が留まる時間を支える——その流れそのものがこの音楽の設計だ。

個別では、長く留まるパズル本編の音として Mirren's Domain ↗(8 分超、留まっても飽きない持続の見本)を。案内役 CAIT の輪郭ある音は CAIT's Theme (Credits) ↗ で。淡い『世界の音』と、名前を持つ『案内の音』を聴き比べると、役割分担の設計がよく分かる。全曲は Aether の Bandcamp ↗ でも単曲から辿れる。

おわりに — 自分が作るなら盗む点

私が自分の曲作りに持ち帰るなら、盗むのは二つ。ひとつは『拠点は短く、本編は長く』という尺の設計だ。プレイヤーが留まる時間の長さを見積もり、そこへ曲の長さと情報量を合わせる。息を整える場所には一分の小曲を、長考する場所には八分の持続を。もうひとつは、耳を最終審級にすること。目で波形を整える前に、聴いて決める。視覚が主役のゲームで音が邪魔をしないのは、目に頼らず耳で組んだ結果でもあると思うと、制作の姿勢そのものが音に出ると腑に落ちる。

もう一度聴きたくなるのは、写真や図面を眺めて頭を使う作業の夜だ。せき立てず、視線の邪魔をしない。空間を組み替えるパズルの音が好きなら、Manifold Garden の落下と回帰の音や、Superliminal の遠近を弄ぶ音と聴き比べると、『視覚パズルに音をどう添えるか』の設計の幅が見えてくる。

参考リンク

Aether — Viewfinder (Original Soundtrack) Bandcamp

Steam: Viewfinder(Sad Owl Studios / Thunderful)

YouTube: Viewfinder (Original Soundtrack) 公式自動生成プレイリスト(Aether - Topic)

Forbes: Aether Releases 'Moonstone' And Talks Being Legally Blind

Wikipedia: Viewfinder (video game)

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