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REVIEW · 2019-11-12

Superliminal

見え方が、大きさになる

Steam store ↗

第一印象

目を覚ますと、淡い緑の待合室にいました。Pierce 研究所の SomnaSculpt という夢療法のプログラムに参加している、という設定です。指示に従って床のチェスのコマほどの立方体を拾い上げ、顔を上げてから手を離す。すると立方体は、私が手元で見ていた見かけの大きさのまま、部屋の奥に等身大で着地しました。

開発は Pillow Castle Games。Carnegie Mellon 大学の Entertainment Technology Center に在籍していた Albert Shih を中心とする少人数チームが、2013年の東京ゲームショウで披露した技術デモ『Museum of Simulation Technology』を出発点にしています。Epic Games Store 版が2019年11月、Steam 版は2020年11月5日に配信されました。クリアまではおよそ3〜4時間ほどの短い作品です。

最初の数分で思い出したのは Antichamber でした。Shih 自身も Antichamber と Portal から影響を受けたと語っており、本作はその二本が育てた『見えているものを疑わせる一人称パズル』の系譜にまっすぐ連なっています。ただし武器はポータルでも非ユークリッド空間でもなく、遠近法ひとつだけです。

メカニクスの言語化

中心にある動詞はただひとつ、『つかんで、見て、置く』です。物をつかむと、その時の見かけの大きさが固定される。視線を遠くへ移してから手を離すと、物はその距離に合わせて拡大・縮小して着地します。膝ほどの高さの箱を、天井を見上げながら置けば見上げるほど巨大な足場になり、足元を見ながら置けば豆粒になる。

後半では、壁や床に二次元の絵として描かれた物体が登場します。正しい角度から覗き込むと絵が立体として『そろい』、つかめるようになる。三次元を二次元へ畳み、また三次元へ戻す。遠近法という一語が、寸法・位置・存在の有無まで書き換える文法へと育っていきます。

巧いのは、ジャンプを与えていないことです。開発者インタビューによれば、拡大縮小とジャンプの相性が悪く、プレイヤーが『できそうでできない』解に迷い込むため、よじ登り(マントリング)に置き換えたとされます。動詞をひとつに絞り、できることを削ることで、解の探索範囲をプレイヤーが見通せる大きさに保っている。減算の設計です。

系譜と位置づけ

観察を疑わせる一人称パズルには、いくつかの先行作があります。Portal は空間の論理に『なるほど』の瞬間を仕込み、Antichamber は見えているものを信じるな、と繰り返し教えました。重力を一語で書き換える Manifold Garden も近い場所にいます。Superliminal はこの系譜の中で、賭け金を遠近法ひとつに絞った作品だと位置づけられます。

絞ったぶん、限界もはっきりしています。Portal や The Witness が終盤まで文法を増やし続けるのに対し、本作の中心トリックは序盤でほぼ出尽くします。中盤以降は新しい規則よりも、舞台演出と空間の異化で驚きを供給する比重が増える。批評の多くが指摘した物足りなさは、ここに根があります。

それでも、たった一語で『見え方が寸法になる』という発見をこれほど素直に体験させる作品は多くありません。学習曲線は短く、頂はそれほど高くない。けれども、その一語の手触りの良さは、系譜の中でも際立っています。

テンポと尺

尺は3〜4時間、夢の階層を降りていく構成です。短さは批評で繰り返し突かれた点ですが、私はむしろ、一語のアイデアを引き延ばさずに畳んだ潔さだと受け取りました。同じ一人称でも、長尺の The Witness とは正反対の身の丈です。

終盤、夢が壊れて Whitespace と呼ばれる白い無の領域に投げ出される一幕は、テンポの設計として効いています。Steam 版には開発者コメンタリーとチャレンジモードが付属し、後日には協力プレイなどの追加もありました。本編を解いたあとに遊びを足せる構造です。

弱点を挙げるなら中盤です。トリックを覚えきったあたりで、解く快感より進む作業感が前に出る区間があります。締めくくりの『見方が変われば現実も変わる』というメッセージはやや直截で、人を選ぶでしょう。

結論

Superliminal は、ひとつのアイデアを澄んだ手つきで提示した一人称パズルです。遠近法を寸法へ翻訳するという発見は、遊んだあともしばらく現実の物の大きさを疑わせるほど印象に残ります。一方で尺と物語は、その発見の鋭さに完全には追いついていません。

ひらめきの瞬間が好きな人、一晩で気持ちよく解き切りたい人に薦めます。逆に、終盤まで難しさが積み上がっていく登攀型の歯ごたえを求める人には、物足りなく映るはずです。

スコアは7.5。発見の鋭さと、それを支えきれない尺との差し引きです。それでも、箱を持ち上げて見上げた最初の一回の驚きには、自分で確かめる価値があります。

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