REVIEW · 2016-01-26

The Witness

島がそのまま言語書になるまで

Steam store ↗

第一印象

暗いトンネルから明るい島へ出ます。誰もいない。説明もない。最初の数歩で、目の前のパネルに線を引くというルールだけを覚えます。

鉛色の海と白い建物。鳥の声と風の音だけが満ちる島で、私はパネルを一枚ずつ解いて回り、ゲートを開け、また次のパネルへ向かう。

Jonathan Blow が Braid の後に7年以上かけて作った作品で、島の地形からパネルの記号配置まで、すべてが彼の哲学的な美意識で組まれています。

メカニクスの言語化

ルールは一つだけ、起点から終点へ線を引くこと。けれど島の各エリアごとに、その単純なパネルに新しい記号が足されていきます。

言語化されないまま、パネルだけが教師として並んでいる。10枚解いた頃には、自分の中に文法が育っている。

島の総パネル数は500以上。地形そのものにもパネルが隠れていて、雲、影、木の枝の形がそのままパネルになる場面もあります。

このゲームの魅力

観察そのものが遊びになる稀有な体験です。やがて木漏れ日も雲も全部パネルに見え始める。世界の解像度が上がっていく感覚は、他のゲームでは得難い。

島の地形そのものがパズルブックです。Braid が時間操作で物語を語ったように、Witness は空間そのものを記号として読ませる。地形を歩くこと自体が、ルールの確認になっています。

そして、ゲーム内に隠された講義(オーディオログ、映像断片)が、現実の哲学者・科学者・宗教家の言葉を引用している。パズルを解く手と、引用を聞く耳が、同じ島の上で並走する。これは Talos Principle の系譜にあり、しかし Witness は答えを示しません。

ゲームデザインの工夫

言葉でルールを教えず、パネルの並び順だけで文法を伝授する設計です。プレイヤーは無意識のうちに、新しい言語を一つ覚える。これは Baba Is You の文法教育と同じ系統の発想で、しかし Witness の方が早期に確立されました。Baba の作家性が Witness を見て触発された可能性は、十分にあります。

島の構造は『ハブ&スポーク』の変形で、各エリアが独立したテーマを持ちながら、ハブから自由に行き来できます。これにより詰まった人はいつでも別のエリアに逃げられる。Outer Wilds と Blue Prince の『迂回路の保証』を、空間構造で実現した先駆例です。

もし自分がこれを作るなら、難しさの調整で必ず迷うはず。Witness は『簡単なエリアから入って徐々に難しく』という線形構造を放棄し、最初から全エリアを開放しました。これは離脱リスクが高い設計ですが、代わりに『自分のペースで島を読む』感覚を保証している。線形か自由か、商業的には線形が安全ですが、Blow は自由を選んだ。これは作家としての姿勢の表明だと感じます。

難しさの手触り

中盤までは観察すれば解ける感覚が続きます。けれど島の奥に進むと、パネル以外の場所にもルールが滲み出してくる。終盤のチャレンジ室は別格で、時間制限と複合ルールが組み合わさり、純度の高い拷問になります。

難所は『見えている記号の意味が分からない』時間。攻略動画を見ればその場で解決しますが、それは島を歩くこと自体を諦めることです。Witness は『分からない時間に島を歩き続ける』ことそのものをデザインしている。

結論

40時間の旅を終えても、まだ島の全パネルは解けていない。けれど不思議と『やり残した』とは思いません。島を歩いた時間そのものが、完成した経験として残ります。一人称パズルの系譜では、Talos Principle と並ぶ二大山脈の一つ。

制作者として持ち帰りたいのは、『プレイヤーが島を読む時間を信じる』姿勢です。明確な進行表示も、達成率の数字もない。けれどプレイヤーは島を読む。読み終わったら帰る。その信頼が、Witness のすべての設計判断を貫いている。

このゲーム、あなたは?

押すと「あなたの棚」に入ります(アカウントのページで見られます)。

リアクション(ログイン不要)

匿名で残せます • 同じリアクションは1日1回まで

次に読む

関連レビュー

編集部からのおすすめ

関連シリーズ