REVIEW · 2016-12-04
Lara Croft GO
否定側の過半数は1時間半で降りている——1,384件の符号を決めたのは盤面ではない
第一印象
helpful 上位の positive 10本と negative 10本を並べて、まず目に入ったのはプレイ時間の欄だった。賛の側は5.2時間、7.6時間、11.4時間、19.7時間、35.6時間と続く。否の側には0.1時間、0.3時間、0.5時間、1.0時間、1.1時間、1.3時間が並ぶ。10本のうち6本が、1時間台までに収まっている。
つまり否定側の過半数は、1時間半も経たずに降りている。そして書いてあることが驚くほど一致している。パズルの話が、ほとんど出てこないのだ。出てくるのはマウスの話である。
この作品はターン制だ。何手先まで読もうと時間は減らない。それなのに、不満のほぼ全量が「1マス動かす操作」に集まっている。
つまり賛否の符号を決めているのは盤面ではなく、盤面に入る前の10分らしい。今回はそこを軸に、1,384件のレビュー群を読む。
Lara Croft GO(Steam ストアページ掲載のスクリーンショット 1枚目)
メカニクスの言語化
盤面は等角視点の一本道と分岐でできている。ララは点から点へ、線に沿って1マスずつ動く。蛇も槍罠も同じ拍子で1手動く。完全情報で、隠し要素はなく、手数は有限だ。
positive がよく使うのは「詰将棋のようだ」という言い方で、日本語のレビューにも同じ語が繰り返し出てくる。解が基本ひとつに定まる、と書く人も複数いる。要するにこの盤面は、探索ではなく詰め物として読まれている。
設計の言葉に置き換えれば、これは動詞の減算そのものだ。Tomb Raider の跳ぶ・登る・撃つ・避けるという連続的な動作を、「隣へ動く」「槍を投げる」「レバーを引く」という数えられる動詞に畳み直している。この畳み直しについては、Toki が2015年版を扱った記事が、旧作を遊び直さず「記憶の中の手触り」だけを蒸留する方法だったと書いている。
興味深いのは、崩れる床の扱いだ。公開されている記録では、作り手は反射神経を試す演出を使わず、1手ごとにひび割れる床で切迫感を作ったとされる。時間ではなく残り手数を数えさせるやり方は、Into the Breach と同じ発想である。
Lara Croft GO(Steam ストアページ掲載のスクリーンショット 2枚目)
操作の手触り
negative 上位10本のうち8本が、同じ一点を指している。1マス動くのに、マウスをドラッグしなければならない。行き先をクリックで指定することができず、キーボードも効かない。
「携帯電話のゲームを実行ファイルで包んだだけだ」「タブレット用の操作が体験を台無しにしている」「ノートPCで1マスずつ引っぱるのは指を痛める」。9票の投稿から90票の投稿まで、票数の大小にかかわらず同じ主張が並ぶ。
見落としたくないのは、この不満が推奨レビューの中にも立っていることだ。賛の側も「マウス操作は最初ぎこちない」「ゲームパッドを勧める」と書く。ただし彼らはそのあとに「10分で慣れる」と続ける。同じ壁について、片方は通過報告を、もう片方は撤退報告を書いている。
ストアの掲示板を開くと、発売直後の2016年12月からキーボード操作を尋ねるスレッドが並んでいる。ある回答者は「これは携帯電話のゲームだ」と突き放し、別の回答者は「少し時間はかかったが、慣れればちゃんと動く」と答える。開発元の書き込みは見当たらない。操作系そのものが難しさになる典型で、しかもこの作品は、そこだけを教えていない。
Lara Croft GO(Steam ストアページ掲載のスクリーンショット 3枚目)
難しさの手触り
難しさについては、言い分がきれいに二つに割れる。「優しすぎる」「2時間半で詰まらずに終わった」という声と、「終盤は頭を使う」「追加された章は明らかに歯ごたえがある」という声だ。
読み比べると、分岐点は章にある。本編は新しい仕掛けを1つずつ足していく穏やかな傾斜で、2017年の無償更新で加わった章がその先に急な段を置いている。学習曲線が本編と追加分で別々に引かれている、と読むほうが正確だ。
ヒント機能の評価も割れる。ある日本語レビューは「ヒントは実質、答え合わせだ」と書き、別のレビューは「詰まっても投げ出さずに済む」と書く。示し方と隠し方の問題がそのまま出ている。
そして日本語の高評価10本には、英語圏の主戦場だった操作の不満がほとんど出てこない。「慣れれば問題ない」どころか「ストレスレス」とすら書かれている。代わりにそこで争点になっているのは値段だ。高いのでセールを待て、詰まりやすい人は大幅な割引で、と何人もが書いている。同じ盤面でも、言語が変わると不満の行き先が変わる。
Lara Croft GO(Steam ストアページ掲載のスクリーンショット 4枚目)
参照したレビュー群
本記事は 2026-08-26 時点での Steam ストアページおよび Steam コミュニティのユーザーレビュー群を読んで書いた。
・Steam: Lara Croft GO(評価ラベル「非常に好評」、1,384件中 92% が好評。直近30日の欄は表示されていない)
・SteamDB(全言語 約4,000件・89.5% が好評)、Metacritic(iOS 版 批評家 83 / 39本、ユーザースコア 7.2 / 92件。PC 版は批評3本で点が付いていない)
・helpful 順 positive 上位10件、negative 上位10件、新着順5件、日本語の高評価10件を読了。あわせて操作に関するストア掲示板のスレッドを読んだ。作品の素性は Wikipedia の記事 と 2017年の公式アナウンス で裏取りした。
・本文中の画像は Steam ストアページに掲載されているスクリーンショットである。当セッションからは画像CDNに直接到達できず、目視での内容確認ができなかったため、キャプションは掲載順のみを示す汎用表記にとどめた。
結論
集計を並べておく。2026-08-26 時点で Steam の評価ラベルは「非常に好評」、1,384件中 92% が好評。全言語では約4,000件・89.5%(SteamDB)。批評家は2015年のスマートフォン版に 83(39本)を付けたが、2016年のPC版は批評3本で点が付いていない。ユーザースコアは iOS 版で 7.2(92件)である。
私は 7.4 を付ける。92% より低いのは、盤面の出来を疑うからではない。盤面に入る手前の設計を、同じ重さで数えているからだ。
一手ごとに指を滑らせる負担は、ターン制パズルの最大の美点——いくら考えてもいい——を静かに削る。Monument Valley のようにタッチから来た等角のパズルは他にもあり、Golf Peaks のように同じ格子を扱う作品もある。この一本が省いたのは、盤面ではなく入口の翻訳だった。
向く人ははっきりしている。ゲームパッドを持っていて、静かな遺跡を一手ずつ降りたい人だ。向かないのは、キーボードとクリックで盤面に触れたい人である。それは難しさの問題ではなく、射程の問題だ。
Lara Croft GO(Steam ストアページ掲載のスクリーンショット 5枚目)
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