RETRO-REVIEW · 2026-08-15

Lara Croft GO(2015) — 蒸留された記憶が動く盤上

旧作を再プレイせず「感触」だけを掘り出したSquare Enix Montrealの方法論、その行方

はじめに

2015年8月27日、iOSとAndroidに一本のパズルゲームが配信された。『Lara Croft GO』。前年に完成した『Hitman GO』(2014)がスタジオSquare Enix Montrealにとって初めての完成作だったのに対し、本作は二本目にあたる。一本目が「たまたま」の成功ではなく、方法論として繰り返し使える「型」であることを証明した一本だった。舞台はノードと線で構成された盤、そこを進む駒として動くのは、1996年に生まれた冒険家その人の記憶である。

私がここで掘り返したいのは、単なる続編の話ではない。開発チームが選んだのは、旧作を再プレイして正確に再現することではなく、「記憶の中で理想化された感触」だけを取り出し、盤上のロジックへ移し替えるという、いささか大胆な歴史の扱い方だった。実機の忠実な復元でもなければ、懐古の羅列でもない。これは記憶を素材にした一種の考古学であり、その記録が今どこまで残っているかを追うところまでが、本稿の射程である。

盤上に立ち上がる駒のようなシルエットの(AI生成)廃墟の間に立つ、名もなき駒のイメージ(イメージ・AI生成)

その時代の文脈

Square Enix Montrealは2011年11月、コンソール向け大作開発を掲げて設立された。しかし2013年6月、親会社の方針転換によりモバイル開発への移行を命じられ、開発中だった大作『Hitman』計画は頓挫する。この混乱から生まれたのが『Hitman GO』であり、その成功を受けて着手されたのが本作だった——課題は、1996年のオリジナル『Tomb Raider』が持つローポリゴンの美学を、2015年のタッチスクリーンの上でどう再構成するか、というものである。

2015年当時、プレミアム価格(買い切り)のモバイルゲームは、まだ商業的に成立しうる最後の時代を生きていた。本作は配信直後からApple「今年のiPhoneゲーム」、The Game Awards 2015「Best Mobile/Handheld Game」、翌2016年のApple Design Award、IGN「Mobile Game of the Year」などを受賞し、批評的には高く評価された(Metacritic: iOS版83点、後のPS4版84点)。しかし後述の通り、この評価の高さと商業的な持続可能性は、必ずしも一致しなかった。

コンソールからスマートフォンへ移り変わる時代の(AI生成)2011年から2015年、開発方針が転換した時代のイメージ(イメージ・AI生成)

メカニクス

リード・エンジニアのAntoine Routonは、開発手法をこう語っている——「A Go game is a process of trying to boil down those old games(Goシリーズの一作を作るとは、昔のゲームを煮詰めて蒸留する作業だ)」。チームは旧作の印象的な場面を付箋に書き出し、当時5人、最盛期でも15人という制作規模の中で実装可能な範囲までそれを絞り込んでいった。さらに踏み込んだ発言として、Routonは「昔のゲームを再プレイしなかった。最初の『Tomb Raider』の最良のバージョンは、私の心の中にあると感じているから」とも述べている。老朽化した実機の粗を見てしまうことで、記憶の中の理想像が汚れることを恐れたのだという。

実装面では、前作『Hitman GO』のボードゲーム然とした見た目を意図的に排し、人間の敵を一切登場させない設計を選んだ。代わりに配置されたのは蛇・トカゲ・蜘蛛といった環境そのものの脅威、転がる岩、回転する刃といった仕掛けである。カメラも、『Hitman GO』の俯瞰的で覗き見るような視点から、主人公と共に環境を発見していく追従型へと変更された。全5章40レベルの中で崖を飛び移り、レバーで足場を操作する——1996年の「アドベンチャー」という感触を、盤上のロジックへ置き換える作業だった。

盤上のノードと駒、迫る仕掛けの(AI生成)ノードと線、迫る岩と刃のイメージ(イメージ・AI生成)

現代への系譜

本作はSquare Enix Montrealが手がけた「GOシリーズ」——『Hitman GO』(2014)、本作(2015)、『Deus Ex GO』(2016)——の中間に位置する。興味深いのは、2016年12月にPlayStation 4/Vita版が配信された際、独占の追加ステージ「Mirror of Spirits」を手がけたのが社内チームではなく、独立系スタジオKO_OPだったという事実である。大作ブランドの周縁に、インディーのパズル設計者が招き入れられていたことになる。

だが「蒸留する」という方法論そのものは、長くは続かなかった。2018年、スタジオ責任者Patrick Naudは「プレミアム価格のモバイル市場は縮小し続けている。無料の良質なタイトルが増えるほど、5ドルであっても試そうとする人は減っていく」と語り、GOシリーズの新作打ち切りを認めている。2022年8月、親会社はスタジオをEmbracer Groupへ売却、10月に「Onoma」への改称を経て、同年11月に閉鎖された。翌2023年1月、姉妹作『Deus Ex GO』とライブサービス型の『Hitman Sniper: The Shadows』は完全に遊べなくなっている。一方で本作と『Hitman GO』は、サーバーに依存しない買い切りソフトであるがゆえに、開発元と会社そのものが消えた後も、本稿執筆時点でなおSteamや各ストアに残っている。「蒸留された記憶」を運ぶ器の形式そのものが、生き残りを分けたことになる。

並び立つ三本の石柱、一本は砕けて散る(AI生成)2014年から2022年へ連なる三本の柱、一本は砕けていくイメージ(イメージ・AI生成)

参考文献

本記事で参照した情報源:

・Wikipedia: Lara Croft Go

・Wikipedia: Square Enix Montreal

・Wikipedia: Go (series)

・Square Enix North America Press Hub「Lara Croft GO Coming First to PlayStation 4 and PlayStation Vita」2016-12-03

・PocketGamer.biz「An athletic aesthetic: The making of Lara Croft GO」

・Game Developer (Alex Wawro)「Lara Croft Go dev: Remake how you felt playing a classic game, not the game itself」2015-09-11

・PocketGamer.biz「Square Enix Montreal no longer working on the Go series」2018

・GamesRadar+「Former Square Enix Montreal games including Deus Ex Go and Hitman Sniper are shutting down」2022

おわりに

開発者はもういない。スタジオの名も、Onomaという最後の呼び名すら、2022年に消えた。それでも盤の上では、あの駒が今も静かに一マスずつ進む。これは実機の精密な再現ではない——後から誰かが心の中の記憶だけを頼りに彫り直した、一つの写し絵である。だからこそ、この作品が歴史として面白いのだと私は思う。ゲームの保存とは、コードやディスクの保存だけを意味しない。「こう感じた」という記憶を、別の誰かが別の形式でもう一度彫り直す——その営みが、パズルというジャンルの中で幾度となく繰り返されてきたことの、一つの標本として本作は盤の上に残っている。

誰もいない盤の上に一つだけ残る駒の、静かな(AI生成)誰もいなくなった盤に、駒だけが残る静かなイメージ(イメージ・AI生成)

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