REVIEW · 2021-10-07

The Last Campfire

消えかけた火が、消えかけた火を起こす

Steam store ↗

第一印象

全言語のレビューは 20,547 件、うち 20,032 件が肯定で 97%。ラベルは「圧倒的に好評」だ(2026-09-16 時点)。英語だけに絞っても 6,717 件中 6,506 件で、やはり 97% になる。数字の上ではほぼ満場一致の作品である。

ところが helpful 順に否定側を開くと、上位10件がほとんど同じことを言っている。パズルが簡単すぎる、というものだ。「30個のうち面白いのは3つか4つ」「あとは味のない詰め物」「これはパズルゲームではない」。語気は強い。

面白いのはここからで、肯定側も実は同じ性質を指している。彼らの語彙は「のんびり」「肩の力が抜ける」「座って眺めていられるパズルゲーム」だ。同じ一つの手触りを、片方は物足りなさとして、もう片方は居心地の良さとして受け取っている。この記事はその一点を追いかける。

世界観

舞台は地下である。遊び手はエンバーという小さな火の粉を動かし、森と沼と洞窟をつないだ一本道を降りていく。絵柄は絵本に近い。輪郭が丸く、色数が絞られ、影がやわらかい。語り手の声が終始かぶさる。

肯定側がこの画面を語るときの語彙は驚くほど揃っている。美しい。穏やか。少しの憂い。Gorogoa のような手描きの密度とは違い、こちらは引き算で作られた見やすさだ。何が触れるもので何が背景かが、ひと目で分かる。

これは観察解像度を意図的に下げた設計と言っていい。装置と機構を扱う作品の多くは、盤面のどこに情報があるかを探させることで難しさを作る。この作品はそこを最初から明かしてしまう。景色は見るためのもので、探すためのものではない。

物語の手触り

道の途中には、希望を失って動けなくなった魂——フォーロン——が座っている。一人ずつ短い身の上話があり、その先に一つの仕掛けがある。解けば相手が立ち上がる。これが最後まで繰り返される。

肯定側の反応はしばしば個人的だ。「必要だった抱擁だった」「子どものように泣いた」「自分の火も暗くなりかけていた」。作品の側から見れば、短い挿話を何度も積むという形が効いている。一話が長くないぶん、失敗しても次で取り返せる。

否定側が繰り返すのは語り手のことである。「感情のない語り手」「五歳児に話しかけてくる」「延々しゃべり続ける」。日本語レビューにも「翻訳周りがかなり直訳気味」で話が入ってこない、という指摘があった。

これはIn Other Waters で見たのと同じ形の躓きだ。遊び手が意味に手を伸ばす前に、語り手が意味を置いていってしまう。感じ取る時間を奪われると、残るのは確認作業になる。効く人には深く効き、効かない人には何も残らないのは、この時間差の有無による。

難しさの手触り

難しさについて、レビュー群は三つの別々のことを「難しさ」と呼んでいる。分けておきたい。

一つ目は仕掛けそのものの手強さで、これは全員が低いと認めている。否定側は「極端に簡単」と書き、肯定側は「易しいか中くらい」「良い塩梅」と書く。評価は割れるが、観測は割れていない。

二つ目は移動の負荷だ。日本語レビューが正確で、「移動に時間かかるのがネック」「とんでもない道のりを歩いて戻る」。ワープ地点がなく、ダッシュも速くない。詰まるのは頭ではなく足である。

三つ目は語りの速度。何度も出てくる「間延びしている」「眠くなった」は、思考の負荷ではなくテンポの話をしている。この三つを混ぜて一つの点数にするから、賛否が真っ二つに見える。探索空間の広さで難しさを作るA Monster's Expedition のような作品と、同じ物差しに載せても仕方がない。

ゲームデザインの工夫

この作品には、詰まった仕掛けを飛ばすための選択肢がある。解かずに先へ進める。日本語レビューの一つが「詰まってもスキップできる」を美点として挙げていた。ここに設計の重心が露出している。

図にすると分かりやすい。物語は一本の実線で、仕掛けはその上に並ぶ点だ。そして点ごとに破線の迂回路が引いてある。パズルは道そのものではなく、道の脇に置かれた立ち寄り先である。

The Last Campfire の進行構造の図解: 物語の一本道の上にパズルが並び、各パズルを迂回する破線の経路が描かれている物語の一本道(実線)の上にパズル(ひし形)が並び、それぞれに迂回路(破線)が用意されている。パズルは道の上ではなく、道の脇にある(図解)

この形が意味するのは、作り手が設計の射程を先に宣言している、ということだ。Stephen's Sausage Roll のように仕掛けを道の上に置く作品なら、飛ばせる仕組みは自己否定になる。こちらは最初から重心が物語側にある。

だから「パズルゲームではない」という否定側の指摘は、事実としては正しい。ただし告発にはならない。ヒント設計の観点で言えば、迂回路を最初から見せることは、遊び手に「ここは詰まってよい場所ではない」と伝える一種の表示でもある。

参照したレビュー群

本記事は 2026-09-16 時点での Steam ストアページのユーザーレビュー群を読んで書いた。レビュー本文の直接引用はせず、典型的な主張を再構成している。

Steam: The Last Campfire(全言語 20,547 件中 20,032 件が肯定 = 97%、ラベルは「圧倒的に好評」。英語のみでは 6,717 件中 6,506 件)

・helpful 順の肯定レビュー上位10件、否定レビュー上位10件、recent 6件、日本語レビュー4件を読了

・クリア時間は上記レビュアーの playtime の散らばり(おおむね5時間前後〜13時間前後)から見積もった

画像について: この実行環境からは Steam の画像配信ホストへ到達できず、公式スクリーンショットを実際に見て確認することができなかった。内容を確かめずにキャプションを書くことはしないため、本記事には Steam 画像を掲載していない。掲載している図は進行構造を示すために自作したものである。

結論

Steam の集計は 97% 肯定。私が付ける点は 7.5 である。集計より低いが、作品を責めているわけではない。この作品が引き受けている仕事の範囲が狭く、その範囲では十分に良い、という評価だ。

最近のレビューは6件とも肯定で、「短くて良い」「安く買えた」という言葉が並ぶ。値下げで入ってきた層が、短さを欠点ではなく利点として受け取っている。同じ作品の同じ性質が、価格帯を変えるだけで評価を変える——という、よく起きるが記録されにくい現象がここに出ている。

向いているのは、考え込まされるより、静かな話を一本読み終えたい人だ。仕掛けの手強さを買いに来た人には、この作品は最初から手を振って迂回路を指している。

火の粉が一つ、座り込んだ誰かの前に立ち、火を移して去っていく。それが何度も繰り返される。繰り返しそのものが主題であると気づいたとき、簡単さは欠落ではなく、意図した通り道の広さに見えてくる。

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