REVIEW · 2016-04-18
Stephen's Sausage Roll
Island of Wisdom にて
第一印象
Steam ストアの説明文には『A simple 3D puzzle game』と書かれています。これはほぼ嘘です。
1面目から既に詰まりました。フォークを倒さずに通路を抜けて元の場所に戻る、というだけの面で、私は20分使った。クォータービューの粗い島と、ぶつくさ唸るような効果音。
Stephen Lavelle (Lazo) は PuzzleScript の作者でもあり、Sokoban 系の現代的設計を理論面から支えてきた人物です。本作は彼のジャム作品群とは別格の、長期熟成された完成形です。
メカニクスの言語化
プレイヤーはフォークを持っており、グリッドに従ってソーセージを転がします。ソーセージには表と裏があり、グリル(焼き面)の上を通ると焦げる。同じ面が二度焦げると失敗。
ソーセージの6面を均等に焼きながら、フォークの向きと自分の進路を同時に管理する。書いていて頭が痛くなりますが、本当にそれだけのゲームです。
Undo は一手ずつ無制限。歩き直しのコストはゼロ。けれど一度焼けすぎたソーセージを戻すには、その地点までUndoし続けるしかなく、これが心理的なペナルティになります。
このゲームの魅力
解けた瞬間の充足感が異常です。盤面が頭の中で美しく回転する。地味なグラフィックの裏側に、これほどの設計が眠っている。これは『Sokoban の Dark Souls』と呼ばれる所以で、難しさの高さが体験の深さと一致しています。
演出はほぼ皆無。BGM は環境音、効果音は唸り声と擬音。けれどこの貧しさが、思考の純度を保ちます。Witness の島を最小化したとも言えるし、Baba の言葉を消したとも言える。設計者は『見せ場』を全部削り、考える時間だけを残しました。
そして、解いた時の喜びは個人的なものです。誰かに自慢しにくい。Twitter で解法を共有しにくい。けれど自分の中で『あの島を一つ越えた』という記憶だけが、何年も残ります。
ゲームデザインの工夫
ルールはレシピのように短い。けれど結論は森のように深い。少ない動詞から組合せ爆発を引き出す、Sokoban 設計の到達点です。動詞は『歩く』『フォークを向ける』の2つだけ。それでも7つの島で異なる問題系が展開する。
島構造そのものが学習設計です。各島で新しい『性質』が静かに導入される(レベルの高低差、傾斜、複数ソーセージ、向きの制約)。けれど一切説明されません。プレイヤーは島に入り、最初の面で詰まり、5-10分試行して『あ、ここにはこういう癖があるのか』と理解する。Patrick's Parabox が『1章で1概念』を明示的に教えるのに対し、Sausage Roll は『1島で1概念』を体で覚えさせる方を選んだ。
もし自分がこれを作るなら、ヒント機能を入れたい誘惑に絶対負けます。Lavelle はそれを一切やらず、難しさが高すぎる人は黙って離脱する設計を選びました。万人向けにする努力を放棄することで、Sokoban の『純度』を守った。Baba Is You が同じ系統で『多くに届く』方向に振ったのとは、対照的な選択です。
難しさの手触り
Jonathan Blow と Bennett Foddy が絶賛したと言われ、『Dark Souls of puzzles』と呼ばれています。誇張ではありません。1面に数日かかることが普通にあります。
島ごとに難しさの傾向が異なり、私はある島で5時間、別の島では10分で終わったこともある。これは個人の思考パターンとの相性で、誰でも詰まる『一番難しい島』は別々です。
結論
40時間で本編、100時間でも完走しない人が多い。万人向けではありません。けれど倉庫番というジャンルに少しでも興味があるなら、一度試す価値があります。Baba Is You と並ぶ Sokoban 系の双璧として、ジャンル史に永く残るでしょう。
制作者として真似たいのは、『説明を諦める勇気』です。プレイヤーが詰まることを前提に設計する。離脱率を恐れない。商業的にはリスクですが、表現の純度はここでしか得られない。Sausage Roll は、その極北として常に参照点になります。
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