REVIEW · 2021-09-17
TOEM
白黒の写真アドベンチャー、Steam 99% の内側を読む
はじめに
祖母から古いカメラを譲り受けた子どもが、家を出て北の山を目指す。道中の村や町で住人に声をかけられ、頼まれたものを写真に撮り、撮った一枚を見せて解決する。その繰り返しで得たスタンプが次の地域への通行証になり、最後に「TOEM」と呼ばれる現象を撮りに行く。白黒の手描き、2D のキャラクターを 3D 空間に立てた見下ろし視点。2021年9月17日発売、スウェーデンの Something We Made が制作し、同社と popagenda が発売した。
私はこの記事を、Steam に積み上がったユーザーレビュー群を読んで書いている。2026-08-09 時点の snapshot では、全言語 11,657 件のうち好評 11,555・不評 102。Steam 購入者に限った 9,239 件は「圧倒的に好評」、英語レビューは 3,177 件中 99%、直近30日の 408 件も 98% が好評だ。専門メディア側は Metacritic 79、OpenCritic は 41 媒体の集計で 80、推奨率 90% を示している。
99% は、ほとんど全会一致に見える数字だ。だが読み進めると、好評レビュー自身が同じ留保を何度も書き足していることに気づく。短い、簡単、依頼文が分かりにくい、操作が硬い——不評レビューが並べる不満と、語彙がほとんど重なっているのだ。つまりこの作品の賛否は「良い/悪い」で割れておらず、同じ観察結果をどちらの側に足すかで割れている。観察を遊びにするで扱った問題が、ここでは数字の内側に畳み込まれている。
カメラのファインダー画面。上部に CAMERA、右上に 26/126 の数字、画面右に FLIP と ALBUM のボタン。枠の中では室内でサングラスの人物がカメラを構えている(Steam スクリーンショット)
第一印象
helpful 上位の positive レビューを並べると、語彙が驚くほど揃う。cozy、chill、wholesome、charming、relaxing。ある英語レビューは、この作品の「小ささ」を、雪の積もった小屋や眠っている猫や小さく切り分けたチーズの皿の小ささに喩えていた。欠けているという意味の小ささではなく、全体が過不足なく閉じているという意味の小ささだ、という趣旨である。もう一方の定型は「一晩で終わる」で、これは短さを欠点としてではなく、通しで一度に味わえる長さとして書かれている。
negative 側の語彙も、同じくらい揃っている。surface level、tiresome、rinse and repeat、trivial、boring。最も引用しやすい一文は、この作品は報われるほど難しくもなく、無心になれるほど穏やかでもない、という指摘だった。ほかに繰り返されるのは、依頼文が意図的に回りくどい、世界が空っぽで撮る動機が続かない、PC の操作が硬い、20 ドルには見合わない、の四つである。
両者は同じ場所を指している。この作品は振れ幅を意図的に小さく取っている——失敗はなく、時間制限もなく、やり直しの罰もなく、正解に近づいたときの盛り上がりも小さい。撮り直しは何度でもきくし、間違った写真を見せても会話が一巡するだけだ。その低い振れ幅を、positive は「気が休まる」と呼び、negative は「手応えがない」と呼ぶ。同じ設計判断に、正反対の名前が付いている。以下では、その分岐点を設計の言葉に置き換えていく。
木の桟橋と階段が伸びる見下ろし視点の港。小さな人物の頭上に「HAVE YOU SEEN A DOG ANYWHERE?」という吹き出しが出ている(Steam スクリーンショット)
メカニクスの言語化
動詞は実質ふたつしかない。「見る」と「見せる」だ。歩く、視点を回す、ファインダーを覗く、シャッターを切る——手続きは分かれているが、どれも見るの下位項目にすぎない。positive レビューが繰り返す「カメラひとつで世界の見え方が変わる」という賛辞は、Puzzlebyrinth の言い方に置き換えれば、動詞の減算をぎりぎりまで進めた設計の効果にほかならない。動詞が少ないぶん、プレイヤーの注意はすべて対象の側へ向く。
重要なのは、正解判定が自動でないことだ。複数のレビュアーが同じ点を指摘している——ゲームは撮った写真を勝手に採点しない。アルバムからどれを見せるかはプレイヤーが選ぶ。だから解くべきものは二段になる。第一段は言葉から物への翻訳で、依頼人は「小さなランプを持った虫」や「小さな兵隊」といった謎かけで対象を指す。第二段はその物を画面のどこに置くか、つまりフレーミングだ。写真を名乗る作品の中でも、観察解像度そのものを操作対象に据えている点は珍しい。
そのうえで、道具は動詞ではなく通行証として配られる。レビュアーが列挙している範囲では、カモメを追い払うラッパ、風船を割る水鉄砲、水中に潜る道具、雪の坂を登る靴、ロープをつかむ道具。どれも新しい解き方を増やすというより、新しい撮影対象へ近づく権利を渡す。動詞は増えないまま、被写体だけが増える。この配り方が、組み合わせ爆発を起こさないまま遊びの面積を広げる仕掛けになっている。
カメラ画面の上に「COMPENDIUM UPDATED」「NEW COMPENDIUM PHOTO!」のポップアップが重なり、撮った一枚に TATO BUG という名前が付いている(Steam スクリーンショット)
世界観
白黒であることは、レビュー群で最も評価の割れる一点だ。positive は「限られた階調なのに情報が潰れない」「どの一画面にも書き込みがある」と書く。negative は「色があればもっと美しかったはずだ」「白黒の森や浜辺を歩くのは目に楽しくない」と書き、ある人は「カメラが主役のゲームなのに解像度が低い」とまで言う。面白いのは、不評側も街の区画だけは例外として褒めていることで、名前を挙げて「ここは白黒が効いている」と書き添えている。
設計として読むと、白黒は減算の一種だ。色を抜くと、物を見分ける手がかりが線とシルエットだけになる。依頼人の謎かけに合う被写体を探し出すという課題に対して、これは近道を潰す判断である。同時に、その減算は「ただ眺めているだけで気持ちがいい」という報酬も一緒に削っている。人工物が密集した街ではシルエットの情報量が高く、自然の区画では低い——賛否が街で一致し、森や浜辺で割れるのは、そのためだと私は読む。
もうひとつ、3D 空間に 2D のキャラクターを立てる構造がある。positive はこれを「どの角度から撮っても絵になる」と評価する。一方、直近のレビューには「自分のキャラクターが板なので、どちらを向いているのか分からなくなる」という不満があり、視点を回して隠れた物を探す遊びと、板が常に正面を向く表現とが、狭いところで衝突していることが分かる。
数階建ての建物と階段、ベンチや植え込みが並ぶ見下ろし視点の町の広場。人物が点在している(Steam スクリーンショット)
テンポと尺
レビューに現れるプレイ時間はよく揃っている。本編だけなら 3〜4 時間、ひととおり遊んで 5〜6 時間、実績まで含めても 6〜9 時間に収まる報告がほとんどだ。数字そのものには争いがない。争われているのは、その数字にいくら払うかだった。発売当初の不評レビューでもっとも票を集めたのは「内容は悪くないが 20 ドルではない」という主旨のもので、価格を理由に推奨しないと明言している。ただしこの論点は時間が薄めた。直近の好評レビューは「セール中なら外れようがない」という書き方に変わっており、2026年8月の時点で定価から 90% 引きの $1.99 という記録的な値が付いている。中身が同じでも、値札が変われば賛否の軸がひとつ消える。
尺を支えているのは、地域ごとのスタンプ台紙だ。次の地域へ進むのに必要なスタンプ数は、その地域に用意された依頼数より少ない。つまり解けなかった依頼を置き去りにする権利が、最初から渡されている。詰まったら先へ行ってよい、と盤面のほうが宣言している形だ。減算の設計としてはきれいで、遊びの総量を落とさずに、詰まりを苦痛にしないための標準的な手当てになっている。
その手当てが効かなくなるのが完全走破の側だ。ある好評レビューは、収集要素と実績の存在に気づいた瞬間から義務感で遊びはじめ、楽しくなくなったあとも長く続けてしまったと書き、攻略を見ずに全部埋めるのは勧められない、と結んでいる。ここには構造上の穴がある——謎かけで対象を指す設計なのに、段階的なヒント層が用意されていない。分からない人に次の一歩を渡す仕組みがなければ、残る手は総当たりか外部の攻略記事になる。A Little to the Left や Unpacking のように「終わりを自分で決められる短編」と比べると、この作品は終わりの線が実績の側に引かれてしまっている。
「OAKLAVILLE」の COMMUNITY CARD。BECOME A SCOUT 0/3、PHOTO CHALLENGE #1・#2、CAPTURE THE HOTEL'S BEAUTY などの依頼が並び、右側に 6/14 のスタンプ台紙がある(Steam スクリーンショット)
参照したレビュー群
本記事は 2026-08-09 時点の Steam ユーザーレビュー群を読んで書いた。レビュー本文の直接引用はせず、繰り返し現れた典型的な主張を再構成している。
・Steam: TOEM: A Photo Adventure(圧倒的に好評 / Overwhelmingly Positive、全言語 11,657 件で好評 11,555・不評 102、英語 3,177 件中 99%、直近30日 408 件中 98%)
・helpful(全期間)順の positive 上位 10 件前後、negative 上位 10 件、および recent 上位 10 件前後を読了(長文レビュー 3 件を含む)
・(専門メディア)OpenCritic(41 媒体で 80、推奨率 90%)、Metacritic の総合 79、IGN 8/10、Eurogamer の Essential、Rock, Paper, Shotgun のレビューを参照
結論
Steam の総評は 99% 好評、私の設計批評としての採点は 7.5 だ。差の大半は、好評レビュー自身が書き添えていた留保と同じ場所を向いている。第一に、謎かけで対象を指す設計でありながら段階的なヒント層がないこと。第二に、PC の操作割り当てが変更できず、カメラの開閉すら切り替え式になっていないこと——くつろぎを売りにした作品で、指の側の摩擦が残っているのは惜しい。逆に、動詞をふたつまで削り、道具を通行証として配り、進行に必要なスタンプを依頼数より少なく置いた配分は、短編パズルの手本として素直に強い。
レビューが示すクリア時間の中央値はおよそ 5 時間で、実績まで含めても 9 時間に届かない。向くのは、目の解像度を上げる遊びそのものを報酬と感じる人だ。手応えの山を登りたい人、色のある景色を眺めたい人、そして攻略を見ずに全項目を埋めたい人には、たぶん射程の外にある。99% という数字が示しているのは全会一致ではなく、この作品が誰に向いているかをレビュアーたちが正確に言い当てている、という事実のほうだと思う。Hidden Folks の探す楽しさと、FEZ の視点を回す楽しさを、いちばん穏やかな配合で混ぜた一本、という位置づけになる。
見下ろし視点の屋外。針葉樹に囲まれた木造の小屋と柵、岩が並び、小道を小さな人物たちが歩いている(Steam スクリーンショット)
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