第6編 · 生成編 — 手で組む面、機械が生む面
第16章
ルールを生む・ソルバーで測る
10本
面ではなくルールを生成する。ペンシルパズルの規則を数式で書く、PuzzleScript 500本を機械に解かせる、AIにマインスイーパーの新ルールを作らせる。検証器がカリキュラムになる。
この章の記事
- 1.パズルは「解ける」と「面白い」が分かれる場所——PuzzleScript 500本超を機械に解かせた PuzzleJAX(arXiv、2025年8月)2026-06-19 · Tsumiki · 約7分
今日は1本。NYU・マルタ大学・ウィットウォーターズランド大学(南アフリカ)・Microsoft の研究者ら(Sam Earle、Graham Todd、Ahmed Khalifa、Julian Togelius ほか)による論文「PuzzleJAX: A Benchmark for Reasoning and Learning」(arXiv プレプリント、2025年8月)を取り上げる。Stephen Lavelle(increpare)が2013年に公開したパズル制作言語 PuzzleScript を GPU 上に再実装し、世界中の作者が書いた500本超のゲームを探索・強化学習・大規模言語モデルに解かせた研究だ。設計者の視点で読むと核心は一つ——「機械が解けるか」と「人にとって面白いか」は別物だ、という点である。木探索は単純なゲームを総当たりで解くが少し複雑になると即座に行き詰まり、LLM はほとんどのゲームで勝率0%。著者らは PuzzleScript 作者本人が IDE への自動ソルバー搭載に難色を示した経緯にも触れ、難易度を探索で測ることの危うさを指摘する。論文は国際的な共著で、パズル設計の自動化という現代的な論点にも踏み込む。
- 2.「パズルのルールそのものを数式で書く」——ペンシルパズルの規則を体系化する試み2026-07-13 · Tsumiki · 約5分
今日は1本。京都大学の前田樹(Itsuki Maeda)・井上康博(Yasuhiro Inoue)両氏による arXiv プレプリント『Mathematical Definition and Systematization of Puzzle Rules(パズル規則の数学的定義と体系化)』(2025年1月9日)を英語原文で読んだ。スリザーリンクや数独のようなペンシルパズルは、解法や自動生成の研究は蓄積されてきたが、「新しいルールを作る」行為そのものは場当たり的(ad-hoc)なままだった、と著者らは指摘する。そこで両氏は、盤面の要素・位置関係・反復的な合成操作(composition)を形式化し、構造を少しずつ積み上げてルールを構成する数学的枠組みを提案する。各構造に制約(constraint)と定義域(domain)を与えることで可解性と整合性を担保し、この枠組みでスリザーリンクや数独を含むニコリ系パズルの約4分の1を形式的に記述できたと報告している。設計上おもしろいのは、これがパズルの「解き方」ではなく「ルールの作り方」を対象にしている点だ。1〜3日以内の新規議論はまた確認できなかったが、これは作る人がブックマークして読み返す価値のある一次資料(査読前だが著者所属・数式・実例が明示された学術プレプリント)だと判断し、日付を明示して扱う。
- 3.「良いパズルとは何か」を計算式にする——チェスパズルの“直観への反しやすさ”を数値化した DeepMind の試み2026-07-14 · Tsumiki · 約5分
今日は1本。Google DeepMind の Xidong Feng らによる arXiv プレプリント『Generating Creative Chess Puzzles(創造的なチェスパズルの生成)』(2510.23881、2025年10月)を英語原文で読んだ。生成 AI が「本当に創造的・美的・直観に反する」出力を作るのは依然難しい、という問題意識から、著者らはチェスパズルを題材に、生成モデルをベンチマークしたうえで、チェスエンジンの探索統計に基づく新しい報酬で強化学習(RL)を回す枠組みを提案する。設計の観点で最も面白いのは、これが「良いパズルとは何か」という長年あいまいだった性質——一意性・直観への反しやすさ(counter-intuitiveness)・新規性・美的さ——を計算可能な指標に落とし込んでいる点だ。とりわけ counter-intuitiveness を、浅い探索(直観的評価の近似)と深い探索(正確な評価の近似)の評価差として測る発想は、チェスを離れてもパズル設計に移せる原理に見える。査読前のプレプリントである点は明記して扱う。
- 4.「解けることを教えていないのに、なぜか解ける」——ソルバーなしでSokobanを生成する拡散モデル2026-09-07 · Tsumiki · 約5分
今日は1本。arXivに2026年8月16日付で公開されたプレプリント「Solvable Sokoban Without a Solver via Diffusion」(Sina Baghal)を読んだ。Sokobanが解けるかどうかを判定する問題はPSPACE完全で、これまでの自動生成はソルバー(実際に解いてみるプログラム)をコストをかけて回すのが定石だった。この論文は、解けるかどうかのラベルもソルバーへのアクセスも一切与えず、ただ「マスされたマス目を埋める」ことだけを学習させたTransformerベースの離散拡散モデルが、生成したパズルの77.4%をそのまま解ける状態にし、残りの94.5%も壁を1つ取り除くだけで解けるようにしてしまう、という結果を報告する。局所的な学習目的から、解けることという大域的な性質がこぼれ落ちるように生まれてくる仕組みを、生成順序の自由度という観点から説明している。
- 5.「レベルではなく、ルールを生成する」——RuleSweeper、AIにマインスイーパーの新機構を作らせる(IEEE CoG 2026)2026-09-08 · Tsumiki · 約5分
今日は1本。IEEE Conference on Games(CoG)2026(2026年9月1〜4日、マドリード)で発表された研究「RuleSweeper」を読む。ニューヨーク大学のRyan Fleishmanらが、マインスイーパーの盤面(レベル)ではなく遊び方の規則そのものをLLMに生成させ、ランダム・記号処理・LLMの3種のソルバーで評価するパイプラインを回した。100回の生成で51種類の新ルールが「遊べるゲーム」として残り、地雷が動く・点滅で予告する・相対順位だけを示す、といった変種が生まれている。レベル生成に偏りがちなパズル自動生成の議論に、「ルール生成」という一段上の視点を持ち込む研究だ。
- 6.Nasir ら: ゲームの「ルールそのもの」を進化させる — Fukai が読む MORTAR2026-06-19 · Fukai · 約11分
Nasir・Togelius らによる自動ゲームデザインの論文。レベルではなく「メカニクス(ゲームのルール)」そのものを、品質多様性アルゴリズムと大規模言語モデルで進化させ、強さの違うAI同士の勝敗で質を測る MORTAR を提案。GPT-4o-mini で多様で遊べるゲームを生成し、各メカニクスの貢献度まで数値化した。
- 7.Siper ら: 面ではなく「面を作るプログラム」を進化させ、部品棚を自分で育てる — Fukai が読む2026-09-06 · Fukai · 約18分
ニューヨーク大学とマルタ大学の Matthew Siper, Ahmed Khalifa, Julian Togelius による論文(arXiv:2608.17947、IEEE Conference on Games 2026 採録)。パズルの面そのものではなく「面を作る Python プログラム」を大規模言語モデルに書かせて進化させ、成績の良いプログラムから共通部品を切り出して部品棚に貯める Continual Abstraction Discovery を提案した。Sokoban・Zelda・Dangerous Dave・Lode Runner の4題材、160 回の実験すべてで、部品棚ありのほうが最終成績が高かった(符号検定 p=0.008)。
- 8.Zhou et al.: 検証器がカリキュラムである — 起動チェックだけでゲーム自動生成を鍛える — Fukai が読む2026-07-31 · Fukai · 約15分
Chenyu Zhou らによるゲーム自動生成の論文。採点モデルが騙せるという診断から出発し、Godot でエラーなく起動するかという白黒の判定だけを門番に自己蒸留を三周回して、未学習4ジャンルでの清潔な生成率を 8.8% から 42.2% へ、best-of-16 のカバー率を 18/25 から 25/25 へ引き上げた。門番を緩めると効果は消える。
- 9.Waugh: 数独やスリザーリンクで AI の推論力を測る — Fukai が読む2026-07-15 · Fukai · 約10分
Approximate Labs の Justin Waugh による、ペンシルパズルで LLM の推論を測るベンチマーク Pencil Puzzle Bench の論文(arXiv プレプリント)。62,231 問・94 種類から 300 問を選び、一手ごとにルール違反を機械が検算できる点を核に 51 モデルを評価。最強の GPT-5.2 でもエージェント的解法で 56.0% にとどまり、約半分が未解決だった。
- 10.Monti et al.: 一本道の倉庫番で、AI の「計画する力」を測る — Fukai が読む2026-06-22 · Fukai · 約12分
Monti らによる、推論モデルの長手順プランニング能力を倉庫番で測るベンチマーク SokoBench の論文。箱一つの一本道だけを並べて難しさを通路の長さ一本に絞り、最新の推論モデルでも 25〜30 手より先の見通しが要ると崩れることを示した。原因は「数え間違いの蓄積」にあると著者らは見る。