REVIEW · 2024-06-25
Riven
27年後の再訪——観察解像度を試す Myst 系パズルのレビュー群を読む
第一印象
Steam のレビュー群を読み始めてまず気づくのは、この作品が「懐かしさ」と「難しさ」の二語で語られていることだ。1997年の名作を Cyan Worlds 自身が3Dで作り直した本作を、helpful 上位の positive レビューは「27年ぶりに帰ってきた島がそのままだった」と歓迎し、negative 側は「その島は相変わらず容赦がない」と警告する。同じ島を、片方は郷愁で、片方は不親切さで語っている。
数値を先に置いておく。英語レビュー2,229件中93%が好評、全言語では2,698件が集計され「非常に好評」に落ち着いている(2026-07-12 時点のスナップショット)。直近30日は38件中81%とわずかに下がるが、依然として高い。賛否が真っ二つというより、圧倒的多数が称賛し、少数が「詰まって投げた」と述べる構図だ。私はその少数の詰まり方に、この作品の設計がよく現れていると見る。
リメイク版 Riven のキーアート(Steam スクリーンショット)
世界観
positive レビューがほぼ例外なく差し出すのは「水」だ。「こんな水は見たことがない」という一文が繰り返し現れる。原作がフルモーションビデオで作り込んだ静止画の美しさを、リメイクは実時間3Dで、しかも自由に歩き回れる形で置き換えた。レビュアーが「vista(眺望)」という語を好んで使うのは、点と点を結ぶ移動から、立ち止まって見渡す移動へと、観察の姿勢そのものが変わったからだろう。
Puzzlebyrinth の語彙で言えば、これは観察解像度を上げるための空間設計だ。ヒント表示もインタラクト可能物のハイライトもない本作では、世界そのものが唯一の情報源になる。だから開発者は、プレイヤーが「見る」ことを苦にしないだけの美しさを島に与えねばならなかった。美しさは装飾ではなく、観察を持続させるための燃料として機能している。
テンプル島の眺望と光(Steam スクリーンショット)
メカニクスの言語化
レビュー群が繰り返し指摘するのは「パズルと物語が分離できない」という一点だ。専門メディアの言い方を借りれば plot と puzzle は inextricably linked で、島を渡り、装置を動かし、扉を開ける行為がそのまま物語を前へ進める。positive 側は、これを「メニューやインベントリに解答が畳み込まれていない」と歓迎する。
これは文法の在り処の問題だ。多くのパズルゲームは、解法の文法をUI——インベントリ、ヒントボタン、ハイライト——に預ける。本作はその文法を環境の側に置いた。歯車の音、水位の高さ、Gehn が島民に教える基数5の D'ni 数字の体系。プレイヤーは動詞を与えられるのではなく、世界を読んで動詞を発見する。positive が感じている「潔さ」の正体は、この UI 層の減算にほかならない。
一方で「数の体系が多すぎる」という声も複数のレビューにある。本作は D'ni 数字という新しい文法を、説明書き抜きで学ばせる。これは学習曲線の設計として大胆だが、そこで降りる人も出る。大胆さには必ず代償が伴う。
環境に埋め込まれた仕掛け(Steam スクリーンショット)
難しさの手触り
negative 側で最も繰り返される語は「guesswork(あてずっぽう)」だ。「論理ではなく、細部に気づけるかどうかの運ゲーだ」「詰まったまま進めない」という不満が並ぶ。対照的に positive 側は同じ体験を「careful observation(丁寧な観察)が報われる」と書く。同じヒントの少なさを、片方はあてずっぽうと呼び、片方は観察の報酬と呼んでいる。
私はこの割れ目を、難しさの質の違いとして三つに整理したい。第一に「情報を見落とす難しさ」——総当りではなく、島に散らされた手がかりを拾い集める設計で、一つ見落とすと詰まる。第二に「記憶の難しさ」——複数の島にまたがる情報を、頭の中だけでは保持できない。第三に「体系を学ぶ難しさ」——前述の D'ni 数字だ。
三つのうち二つ目が決定的だ。helpful 上位のレビューはほぼ全員が同じ助言をする——「紙とペンを用意しろ」。この作品は記憶をプレイヤーの外部(ノート)へ追い出すことを前提に設計されている。それを「体験の一部」と受け取れるかどうかが、あてずっぽう派と観察派を分ける境界線だ。ゲーム内ノート機能が「使いにくい」と不評なのは、外部化を内部で肩代わりしようとして中途半端になったからだと私は読む。
島を渡る道中(Steam スクリーンショット)
系譜と位置づけ
レビュー群で最頻出の固有名詞は当然「Myst」だが、比較の相手はそれだけではない。「Myst 以来こういうゲームがなかった」という郷愁と、「The Witness 以来の観察パズル」という現代的な位置づけが同居している。私のコレクションでいえば、本作は Myst III: Exile の点と点を結ぶ移動と、The Witness のテキストなし観察の、ちょうど中間に立つ。
同じ Cyan Worlds の Obduction と比べると、本作は「作り直し」ゆえの強みと弱みが際立つ。物語の骨格が27年前に完成しているぶん、パズルと世界の噛み合いは新作より緊密だ。一方でキャラクターモデルの作りが環境ほど詰められておらず、レビュアーが「顔だけ浮く」と指摘するのは、既存の骨格に新しい肉を貼り直す作業の継ぎ目が見えているということだろう。
黄金のドームを望む風景(Steam スクリーンショット)
参照したレビュー群
本記事は 2026-07-12 時点での Steam ストアページのユーザーレビュー群を読んで書いた。レビュー本文の直接引用はせず、典型的な主張を再構成している。
・Steam: Riven(非常に好評 / 英語レビュー2,229件中93%が好評、全言語では2,698件、2026-07-12 snapshot)
・helpful 順の positive・negative 上位、および recent の数件を WebFetch で読了した。
・ユーザーとプロの力点の違いを見るため、RPGFan・PC Gamer・PCGamesN の評を参照した。
結論
開発者はストアで本作に「Relaxing」「Casual」というタグを与え、リラックスして探索できる世界として売っている。だが helpful 上位のレビュアーが口を揃えるのは「予想以上に脳を使う」「ノートが要る」だ。この売り文句と実感のズレは、本作が誰に向き誰に向かないかという設計の射程を示している。景色を眺めに来た人には優しく、パズルを解きに来た人には容赦がない。
Steam の overall は93%だが、私は設計の観点から8.5点を付ける。減算された UI 層と、環境に預けられた文法は見事だ。減点は、記憶の外部化を前提にしながらゲーム内ノートがそれを支えきれていない一点に尽きる。あてずっぽうと観察の境界線を、もう少し設計側から橋渡しできたはずだ、というのが私の読みだ。レビューで言及されたクリア時間は、おおむね12〜15時間に集まっている。
崩壊の縁にある世界 Riven(Steam スクリーンショット)
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関連レビュー
Myst
見知らぬ島に降り立ち、放棄された図書館と四つの Age を行き来しながら、装置と手記だけを手がかりに一族の裏切りの顛末を解く一人称パズルアドベンチャー。1993年の原作を Cyan Worlds 自身が Unreal Engine で作り直し、2D と VR の双方で歩けるようにした版で、パズル配置をランダム化するオプションも備える。
Firmament
Myst と Riven を生んだ Cyan Worlds による一人称のパズルアドベンチャー。腕輪型の道具『Adjunct』をソケットに差し込み、クレーンや発電機を動かしながら、打ち捨てられたスチームパンクの三つの realm を巡っていく。暗号もメモも要らない、瞑想的な一人称世界。
ANIMAL WELL
花の蕾から孵り、密に絡み合う2Dの地下迷宮を降りていくパズルボックス型メトロイドヴァニア。戦うのではなく、多用途の道具を組み合わせ、壁の穴や背景の絵を「観察」して仕掛けを解く。クリアの先には共同体でしか解けない秘密の層が沈む、Billy Basso のほぼ個人開発による一作。




