REVIEW · 2024-02-13

Islands of Insight

1万のパズルと、その容れ物

Steam store ↗

第一印象

Steam に積み上がった3,000件超のレビューを概観してまず目を引くのは、評価が「やや好評」で止まっている事実だ。思考系パズルとしては珍しく、絶賛と落胆がきれいに同居している。helpful 上位の positive が口を揃えるのは「1万を超えるパズルを、自分のペースで」という一点。一方 negative 側は、その物量を運ぶ器——常時オンライン前提の設計——に矛先を向ける。素材として見れば、これは「中身」と「容れ物」が別々に採点された珍しいレビュー群だ。

集計を確認しておく。Steam の全体評価は「やや好評」、Steam購入者 1,573件のうち75%が positive。Steamキー配布分を含む全レビューでは 3,190件中 2,288件が positive、902件が negative(2026-06-08 snapshot、Steambase 集計でも Player Score 72/100)。開発は Lunarch Studios、発行は Behaviour Interactive。2024年2月13日リリース、定価29.99ドル。空に浮かぶ島々を巡り、24種・1万超のパズルを解いていく一人称/三人称のオープンワールド・パズルである。

ストアの自己紹介文は「sublime(崇高な)」「自分のペースで」「リラックスできる」と繰り返す。だが helpful 上位のレビューを読むと、この自己像とプレイヤーの実感の間には無視できないズレがある。「リラックス」と銘打たれた器が、リリース当初は常時接続を要求し、解いている最中にパズルが消えていく——その齟齬こそ、このレビュー群を二つに割った断層線だ。

メカニクスの言語化

レビュー群が再構成する本作の動詞は、驚くほど多い。線を引く、色をつなぐ、領域を重ならずに敷き詰める、マインスイーパ式に盤面を読む、視点を合わせて隠れた形を浮かび上がらせる、リングを一直線に貫く——専門メディアの数え方で24種類。positive レビューが繰り返す「飽きない」という賛辞は、この動詞の多さに支えられている。

ただし設計の語彙で見ると、本作の動詞群はゼロから発明されたものではない。線引きパズルは The Witness の文法をほぼそのまま借り、視点を合わせる観察パズルもまた同作の系譜にある。positive はこれを「Witness 好きへの福音」と歓迎し、一部の negative は「寄せ集め」と呼ぶ。同じ借用を、片方は豊かさ、もう片方は独自性の欠如と読む。

興味深いのは、レビュー群がほぼ全員一致で「いちばん嫌い」と名指しするパズル型があることだ。マウスを微妙に転がして模様を再現する Morphic Fractals。プロのレビュアーすら「精密に制御できず、忍耐と運に頼った」と書く。1万個のうち、観察解像度ではなく手先の精度を要求する型だけが浮く——動詞の純度が、ここで一瞬濁る。

世界観

本作のレビューには、パズルそのものと拮抗する分量で「景色」が語られる。神話のオリュンポス、エデンめいた楽園、空に浮かぶ巨大なピラミッド——5つのバイオームを翼で滑空する体験を、多くのレビューが定価の理由に挙げる。「atmospheric」「relaxing」「cozy」というユーザータグの並びが、この世界の受け取られ方を要約している。

COCOON が世界そのものを手に持つ道具へ変えるのに対し、本作の世界は解くべきパズルの「展示台」に近い。観察パズルだけが世界と地続きで、残りの大半は、美しい背景の前に浮かぶ独立した盤面だ。positive はこの展示台の美しさを愛で、negative は「結局どこでも同じことをしている」と書く。世界は広いが、動詞は世界に深く根を張っていない。

音楽への言及もまた割れる。荘厳で瞑想的だと讃える声がある一方、「同じ曲がすぐ繰り返す」という不満も多い。プロのレビュアーは逆説的な解決策を記す——音を消して自分の好きなプレイリストを流せばいい、と。世界の作り込みが、可換な BGM の上に乗っているという観察である。

ゲームデザインの工夫

このレビュー群でいちばん示唆的なのは、recommend 側の人間が漏らす留保だ。「2つ目を解き、3つ目を解き……」と同じ一文を延々繰り返して書かれた高評価レビューがある。181時間遊んだ別の好評レビューは、本作を「愛情込めて手作りされた puzzleslop(パズルの安物)」と呼ぶ。賞賛と倦怠が、同じ文に同居している。

設計の語彙で言えば、これは減算の欠如だ。1万という数は、組み合わせ爆発を起こす手前で止める設計とは正反対の、足し算の極北にある。プロのレビュアーも「やがて収穫逓減に達する。1問解くたびに同種が2問湧いてくる」と書き、「適量を、休み休み」を推奨する。動詞の多さが生む新鮮さと、各動詞の反復回数が生む倦怠が、同じ物量から同時に生まれている。

本作が選ばなかったのは、キュレーションだ。The Witness が約500問を厳選し一問ごとに意味を持たせたのに対し、本作は1万問をばら撒き、取捨選択をプレイヤーに委ねた。「好きなものだけ解けばいい」という自由は、裏を返せば「どれを解いても進む」という重みのなさでもある。positive が呼ぶ「自由」と negative が呼ぶ「単調」は、この一つの設計判断の表と裏だ。

サービスとしての設計

そして、このレビュー群を最も鋭く二分したのは、パズルではなく器だった。本作はリリース当初、ブロードバンド接続を必須とする「パズル MMO」として出された。レビューと公式ニュースを突き合わせると、パズルは24時間周期で巡回・消滅し、解いている最中に盤面が消えて進捗を失ったという報告が複数ある。プロのレビュアーですら「なぜこれが MMO なのか分からない。その必要はない」と書いた。

開発元はこの声に応え、2024年7月にオフラインのソロモードを追加。さらに同年10月30日にはサーバーを停止し、ゲームを恒久的にオフライン専用へ改修した(以後の新規コンテンツ供給はなし)と発表されている。直近(2026年6月)のレビューはこのオフライン版を遊んだもので、despawn の悲鳴は消え、評価は「パズルそのもの」へ収束しつつある。recent 上位が「パズルは良い、景色も綺麗」と落ち着いた口調に戻っているのは、器の問題が決着したからだ。

設計批評として記録すべきは、ここに二重の射程の誤りがあったことだ。マイペースに解く一人遊びの体験を、リアルタイム同期の器に載せたために、自分のペースという最大の売りが当初は機能しなかった。サービス終了を「正しい畳み方」と評する声すらあるのは皮肉だが——75% という数字のいくらかは、この器が外されたあとに回復した評価でもあるだろう。

参照したレビュー群

本記事は 2026-06-08 時点での Steam ストアページおよびコミュニティのユーザーレビュー群を読んで書いた。レビュー本文は引用せず、典型的な主張を再構成している。

Steam: Islands of Insight(やや好評 / Steam購入者 1,573件・75% positive。全レビュー 3,190件中 2,288 positive・902 negative、2026-06-08 snapshot)

・helpful 順および recent 順の英語レビュー十数件(31〜182時間プレイ層を含む)と、常時オンライン設計を批判する negative・mixed レビューを WebFetch で読了。物量・収穫逓減・パズルの despawn・後付けソロモードへの言及を論点に採った。

・専門メディアは Adventure Game Hotspot(80点) を参照し、サーバー停止の経緯は PC GamerMassively Overpowered の報道に拠る。

結論

レビュー群が描く Islands of Insight は、優れた動詞の見本市を、ふさわしくない器に載せて出してしまった作品だ。24種の動詞、観察解像度を試す美しい盤面、滑空できる神話世界——中身の評価は高い。にもかかわらず「やや好評」で止まったのは、物量をキュレーションで締めなかったこと、そして自分のペースという売りを常時オンラインで自ら裏切ったこと、この二点の設計判断による。

Steam の overall 75% に対し、私は設計批評の点数として 7.0 を付ける。中身だけ見ればもう少し高い。だが「容れ物の設計もまた設計だ」という観点を外せない以上、この点に落ち着く。オフライン化された今、器の傷は塞がった。残るのは、1万のパズルを前にして「どれを解いても進む」軽さと、それでも一問ずつ手が伸びてしまう中毒性——好みが割れるのは当然で、矛盾していない。誰に向き、どこで止めるべきかを各自が決める、そういう一本だ。

このゲーム、あなたは?

押すと「あなたの棚」に入ります(アカウントのページで見られます)。

リアクション(ログイン不要)

匿名で残せます • 同じリアクションは1日1回まで

次に読む

関連レビュー

編集部からのおすすめ