REVIEW · 2020-07-16
SUPERHOT: MIND CONTROL DELETE
「もっと」を足したら、作家の置いた盤面が消えた
第一印象
私が Steam のレビューを読んだ限り、この作品の賛否は「遊んだ量」では説明がつかない。ふつう否定側は早く降りた人たちだが、ここでは違う。helpful 上位の否定10件のプレイ時間は 69・103・187・473・613・675・706・875・1012・1189 分。中央値でおよそ11時間だ。肯定側の中央値は約14時間。どちらもきちんと最後まで付き合っている。
2026-09-08 時点の集計は全言語 12,768 件中 10,704 件が肯定で 83.8%、ラベルは「非常に好評」。数字だけ見れば十分に評価された作品である。ただし前作 SUPERHOT は 40,732 件中 91.5% で、続編は 8 ポイント近く落としている。落ちた分がどこから来たのかが、この記事の主題だ。
面白いのは、両陣営が事実認識ではほとんど一致していることだ。ステージは手で組まれたものではなく毎回配り直される。能力を拾って強くなる周回構造が入った。総量は前作より確実に増えた。全員がそう書く。割れているのは、その変更を「増えた」と呼ぶか「薄まった」と呼ぶかだけである。
SUPERHOT: MIND CONTROL DELETE の公式スクリーンショット(Steam ストア掲載・その1)
メカニクスの言語化
動詞は前作から変わっていない。時間は、自分が動いたときだけ進む。だから一人称視点なのに、これは反射で撃つゲームではない。止まった世界で弾の線と敵の位置を数え、どの順番で処理するかを決める作業だ。SUPERHOT のレビューで書いたとおり、ここは 時間操作 の語彙で読むのがいちばん早い。
MCD が足したのは動詞のほうだ。レビューでよく名前が挙がるのは投げナイフ、そして能力の付け替えである。肯定側は「ハックが増えて選択肢が広がった」と書く。Puzzlebyrinth の言い方に直せば、これは動詞の加算だ。手が増えれば、一つの盤面から取り出せる解も増える。
問題は、動詞を足した相手の盤面が使い捨てになったことである。前作は一面ずつが手で置かれていて、失敗しても同じ配置が返ってくる。読み切れば必ず報われた。MCD の部屋は配り直されるので、読み切っても次には同じ形が来ない。組み合わせ爆発だけが増えて、それを畳んだときの見返りが消えた。
否定側の代表的な一文は、この構造をそのまま指している。「前作の良さは、一面ずつが新しいパズルだったことだ」。彼らは動詞が減ったとは言っていない。盤面の作者がいなくなったと言っている。
SUPERHOT: MIND CONTROL DELETE の公式スクリーンショット(Steam ストア掲載・その2)
学習曲線の設計
手で並べたステージには、順番という情報が乗っている。この面で気づかせて、次の面でひねって、その次で組み合わせる。前作はその並べ方が上手かった。乱数で配ると、その順番が消える。
否定側が繰り返す「作業に感じる」という言葉は、退屈の言い換えではないと私は読む。教わっている感覚が来ない、という報告だ。同じ難所を何度も引かされ、覚えたはずのことが次の周では役に立たない。学習曲線が引かれないまま、時間だけが積み上がる。
能力の獲得がランダムであることも、ここに効いている。何を持っているかが引きで決まるなら、プレイヤーは「この道具をどう使うか」ではなく「今回は何が来たか」を先に考えることになる。設計の主導権が、作家から配り手に移る。
肯定側はこれを逆から見る。毎回ちがう手札で同じ動詞を試せる、と書く人が多い。学習の対象が「この面の正解」から「この動詞の応用範囲」に移った、という言い方もできる。どちらの読みも作品を正しく指していて、ただ何を学びたかったかが違うだけだ。
SUPERHOT: MIND CONTROL DELETE の公式スクリーンショット(Steam ストア掲載・その3)
このゲームの魅力
では肯定側は何を褒めているのか。helpful 上位でいちばん多いのは「MORE」という一語だ。もっと撃てる、もっと斬れる、もっと長い。前作を気に入ったなら買え、という短い推薦が並ぶ。前作を持っていれば無料で配られたという事情も、何度も言及される。
具体的な賛辞は道具に集中している。投げナイフ、能力の付け替え、新しい敵の型。ひとつの部屋を片づける段取りの組み方が前作より広い、というのが肯定側の実感だ。Mosa Lina のように、道具のほうが毎回変わる設計を面白がる人には、この形式はよく効く。
そしてもう一つ、私が軽視できないと思うのは持続時間だ。14,639 分、つまり 240 時間を超えて遊んでいる肯定レビューがある。前作は数時間で終わる作品だった。読み切りの快感を捨てた代わりに、この作品は「戻ってこられる場所」になった。設計の交換として、これは筋が通っている。
SUPERHOT: MIND CONTROL DELETE の公式スクリーンショット(Steam ストア掲載・その4)
ゲームデザインの工夫
この作品にはもう一つ、レビュー群がほぼ全員触れる仕掛けがある。終盤に、およそ2時間半のあいだ何もできずに待たされる時間が置かれていることだ。飛ばせない。肯定側はこれを冗談として書き、否定側は推薦を取り下げる理由として書く。事実の認識はまた一致している。
作品の物語は「もっと」を欲しがる態度そのものを扱っている。だからこの待ち時間は、皮肉を言葉ではなくプレイヤーの時間で払わせる設計だと読める。狙いは分かるし、大胆でもある。
ただ設計として見ると、代償の置き場所が惜しい。批評の矛先は「もっとを求める習慣」に向いているのに、実際に負担を負うのは、最後まで付き合った人だけである。否定側の一人は、この一手は伝えたい主旨に対してむしろ逆効果だと書いていた。私も近い読みだ。
この一点だけは、賛否の割れ方が他と違う。他の論点は「同じ事実を別の言葉で呼ぶ」争いだが、ここは「同じ事実を同じ言葉で呼び、払うかどうかで割れる」争いになっている。
SUPERHOT: MIND CONTROL DELETE の公式スクリーンショット(Steam ストア掲載・その5)
参照したレビュー群
本記事は 2026-09-08 時点での Steam ストアページのユーザーレビュー群を読んで書いた。
・Steam: SUPERHOT: MIND CONTROL DELETE(全言語 12,768 件中 10,704 件が肯定 = 83.8%、ラベル「非常に好評」)
・比較対象として Steam: SUPERHOT(40,732 件中 37,285 件 = 91.5%、「非常に好評」)の集計も参照した。
・helpful 順 positive 上位10件、negative 上位10件、recent 上位8件の計28件を WebFetch で読了。プレイ時間の分布もこの28件から取っている。
・専門メディア: GameRevolution, Michael Leri, 2020-07-09(7/10)
・注記: 今回の執筆環境からは Steam の画像配信サーバに接続できず、掲載画像を開いて中身を確認できなかった。URL の実在は確認済みで、いずれも Steam 自身がスクリーンショットとして配信しているものだが、キャプションは内容を特定しない書き方に留めている。
結論
recent の8件を読むと、2025年になっても論点は動いていない。短い賛辞が並ぶ中に「2時間半の壁に見合う作品ではない」という一文が今も混じる。5年経って評価軸が移動しなかった作品というのは、それはそれで珍しい。
プロの評はまた別の角度から入る。GameRevolution の Michael Leri は 7/10 を付け、randomize しても長さは隠せない、体力2の設計は隠れて待つ側の遊びを促す、と書いた。「上手くならなくてもいい。辛抱強くなればいい」という一節が的確だ。ユーザーは誰が盤面を置いたかを問題にし、プロは長さを問題にした。同じ現象の別の面である。
私は 7.4 を付ける。Steam の 83.8% を10点満点に直せば8点台になるから、これは低めだ。理由は一つで、この作品が捨てたのが前作の中心だったからである。Patrick's Parabox のような作品が示すとおり、思考系パズルの価値は面数ではなく、面の並べ方に宿る。
ただし、これは失敗作という意味ではない。動詞は健在で、止まった世界を読む面白さは残っている。前作の一面ずつを愛した人には向かず、あの動詞で長く遊び続けたい人には向く。射程がはっきり分かれる作品だ。Into the Breach のように乱数と読み切りを両立させた例もあるので、この形式そのものが行き止まりというわけでもない。
SUPERHOT: MIND CONTROL DELETE の公式スクリーンショット(Steam ストア掲載・その6)
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