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REVIEW · 2023-10-17

Mosa Lina

「解けない盤面がある」と宣言したパズルを、レビュー群はどう受け止めたか

Steam store ↗

はじめに

ステージに散らばったフルーツを集め、出口に戻る。それだけのルールを、物理演算に丸投げした2Dのパズルプラットフォーマーだ。プレイヤー自身にできるのは左右の移動とジャンプのみで、あとは面ごとにランダムに配られる3つの道具を転用するしかない。2023年10月17日、Stuffed Wombat が Silkersoft、Lukke、Rollin'Barrel との連名で公開した。ストアページの自己紹介は「イマーシブシムを意地悪に解釈した作品」である。

私はこの記事を、Steam に積み上がったユーザーレビュー群を読んで書いている。集計は overall 95% positive(1,987件、評価ラベル「圧倒的に好評」/ 2026-08-04 snapshot)、直近30日は89% positive(19件)で「非常に好評」。数字だけ見れば議論の余地がないほど支持されている作品だ。

だが同じストアページに、開発者はこう書いている——全ての道具の組み合わせで全ての面が解けるかは、自分にも検証できない。解の存在を保証しないパズルが、なぜ95%を取るのか。レビュー群が何を賛辞の言葉にしているのかを読むと、その仕掛けが見えてくる。

Mosa Lina のキーアートMosa Lina ストアヘッダー用キーアート(Steam ストア キーアート)

第一印象

helpful 上位の positive レビューを読んで最初に気づくのは、賛辞がゲームの出来ではなく「許可されていない感覚」に向いていることだ。ずっと何かをやり過ごしているような気がする、死ぬたびに自分が書いた覚えのないジョークのオチがつく——そういう言い方が繰り返される。上位レビューの一行要約に、他作品の「正しくない遊び方」を引くものが多いのも特徴だ。山に向かってジャンプを連打して登った経験、祠を意図しない手順で突破した経験が、そのまま推薦文になっている。

negative 側は、同じ性質を別の名前で呼ぶ。曰く、これはゲームではない(un-game)、勝ちも進行もゲームデザインもない、RNG に由来する雑味が遊びの割合を食っている。慣習を壊しているつもりだろうが、慣習が存在する理由を確認しただけだ——という趣旨の批判が、negative の中では最も筋の通った形になっている。

つまり賛否は、作品の性質そのものについては一致している。ランダムで、荒く、保証がない。争点は、それを設計の到達点と読むか、設計の放棄と読むかだけだ。私はこの一致を、評価が割れていない作品ほど読み解く価値がある理由だと考えている。

Mosa Lina のキーアートMosa Lina ストアカプセル用キーアート(Steam ストア キーアート)

メカニクスの言語化

レビュー群の説明を突き合わせると、構造はこうなる。ランを始めると盤面が9面選ばれ、道具プールから9種が選ばれる。各面への挑戦時には、その9種から3種だけが配られる。道具の使用回数は固定で、面をやり直すたびに配り直される。死んでも即座に別の面へ回され、未クリア面は後で戻ってくる。最終面だけは通常面を拡張した形になっており、道具の入れ替え箱が置かれている。

positive レビューが最も嬉しそうに書くのは「自キャラは移動とジャンプしかできない」という一点だ。これは Puzzlebyrinth でいう動詞の減算そのものである。プレイヤー本体の動詞を極限まで削り、表現力の全部を道具側に外出しした。だから道具が3つ替わるだけで、同じ盤面が別の問題になる。「同じ面でも配られた道具で解法が一変する」というレビューの実感は、動詞を固定して文法だけ差し替える構造の副産物だ。

そしてこの作品が独特なのは、組み合わせ爆発を検証しないと明言している点にある。道具は初期の24種から、2025年のアップデートで48種に倍増したとされる。48種から9種、そこから3種——手作りの盤面と手作りの道具を掛け合わせた空間は、作者が全通り確かめるには広すぎる。ふつうのパズル設計は、この爆発を刈り込んで「解が存在する」という文法を保証する仕事だ。Stephen's Sausage RollPatrick's Parabox が積み上げているのはその保証である。Mosa Lina は逆に、保証を外すことで生まれる余白を商品にした。

Mosa Lina のスクリーンショットMosa Lina のプレイ画面(Steam スクリーンショット)

難しさの手触り

レビュアーがどこで詰まったかを集めると、難しさは3種類に分けられる。ひとつは発想の難しさ——手元の3種で何ができるかを思いつけない。ふたつめは実行の難しさ——思いついた手順を、跳ねやすい物理と粗いキャラコンで通しきれない。みっつめは引きの難しさ——配られた3種がその盤面と噛み合っていない。

positive と negative が同じ言葉で違うものを指しているのは、この3つめだ。positive 側は、噛み合わない引きは「すぐ死んで次に行けばいい」と処理する。解けない可能性が公言されているからこそ、自分の力不足として抱え込まずに手放せる、という言い方が繰り返される。negative 側は同じ場面を、費やした時間が設計によって無効化された瞬間として書く。どちらも正確な報告であり、違うのは失敗の帰属先だけだ。

最終面については、賛否の外側からも不満が出ている。専門メディア側の一本(Electron Dance)は、いちばん苦戦している面をわざわざ拡張して最終面に据える構造を名指しで嫌い、そこでリロールを選ぶのは屈辱的だと書いている。難しさのが最後に切り替わる点は、私も設計上の弱点だと思う。9面ぶんの「気楽に手放す」練習をさせてから、手放しにくい一点を置いているからだ。

Mosa Lina のキーアートMosa Lina ヒーローカプセル用キーアート(Steam ストア キーアート)

系譜と位置づけ

レビュー群に登場する固有名詞を並べると、この作品の座標が見えてくる。もっとも多いのは物理で嫌がらせをする系譜、つまり Bennett Foddy の作品群だ。次に、素材の相互作用を売りにしたローグライト(Noita)、言葉から物を出すサンドボックス(Scribblenauts)、そして自由な解法を建前にした大作アクションアドベンチャーの祠が続く。専門メディア側の読みも近い場所に着地しており、Electron Dance は Foddy 的な世界への入口と呼び、同時に Miguel Sicart の「abusive game design」の枠を持ち出している。

一方でユーザーレビューとプロのレビュアーは、同じ場所を見ながら評価の重心が違う。ユーザー側は道具の語彙が増えていく手応え——最初は不要枠だと思った道具が主力になる、職人になっていくようだ——を推薦理由の中心に置く。これは学習曲線が盤面の並びではなく、プレイヤー側の道具リテラシーに移された設計だ。プロ側はその学習が進行として保存されないこと、つまり報酬構造の不在を論点にする。長時間プレイのレビューが少なくないのは、前者の読みが実際に機能している証拠だろう。

私の位置づけはこうだ。Mosa Lina は物理サンドボックスのふりをした観察解像度のゲームである。上達とは、跳ねる物体と粗い当たり判定を「今この盤面で何に使えるか」の解像度で見直せるようになることだ。Baba Is You がルール文の読み替えでそれをやるのに対し、この作品は物理挙動の読み替えでやる。読み替える対象が言語ではなく物質なので、同じ発見が笑いになる。

Mosa Lina のキーアートMosa Lina ライブラリヒーロー用キーアート(Steam ストア キーアート)

参照したレビュー群

本記事は 2026-08-04 時点での Steam ストアページのユーザーレビュー群を読んで書いた。

Steam: Mosa Lina(モザ・リナ)(Overall 95% positive、1,987件、評価ラベル「圧倒的に好評」/ 直近30日 89% positive、19件)

・helpful 順(全期間)の英語レビュー上位11件、日本語レビュー上位8件(投稿日 2023年10月〜2025年6月)を WebFetch で読了。negative 側の典型主張は、レビュー検索経由で確認できた範囲(un-game / RNG 由来の雑味 / 慣習の再確認)にとどまる

Steambase: Mosa Lina Reviews(月次の positive/negative 推移。negative は2024年2月の37件から2026年1月の84件へ、比率はほぼ一定)

Electron Dance「King Mosa」(Joel Goodwin, 2023-11-26)

SteamDB: Mosa Lina(リリース日・開発元表記・対応言語・アセットURLの裏取り)

結論

Steam の overall は95% positive だが、設計の観点から私が付けるのは8.0点だ。差の理由は難しさの三分類の3つめ、引きの難しさにある。解の保証を外したことで生まれた自由は本物で、動詞の減算と物理の読み替えという組み合わせは、この価格帯の作品としては異例に鋭い。ただしその自由は、噛み合わない引きを気楽に手放せる人にだけ配られる。最終面で手放しにくさが戻ってくる構造も、私の減点に含まれる。

誰に向くかについては、日本語レビューの一本がいちばん簡潔に書いている。解法が確実に存在するゲームを遊びたい人には向かない、と。これは欠点の指摘ではなく設計の射程の記述だ。同じ性質を positive は「潔い」と呼び、negative は「投げやり」と呼ぶ。どちらの語も、保証を外すという一つの選択から出ている。

レビューで言及されたプレイ時間には2時間台から300時間超までの幅があり、中央帯は5〜10時間あたりに集まる。エンドレスモードとレベルエディタ、ワークショップがあるので、上限は各自の粘りしだいだ。付記すると、2025年の大型アップデートで道具が倍増し日本語表示にも対応したとレビューは伝えており、直近のレビューはその変化への礼として書かれているものが目立つ。射程は当初より少し広がっている。

Mosa Lina のキーアートMosa Lina ライブラリカプセル用キーアート(Steam ストア キーアート)

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