REVIEW · 2019-03-13
Baba Is You
ルールを動かす者
第一印象
盤面に置かれた小さな白いキャラクター、Baba。画面の隅には言葉のブロックが並んでいる。『BABA IS YOU』『WALL IS STOP』『FLAG IS WIN』。これがルールを宣言している、と気づくのに数分かかりました。
言葉が一マス動いた瞬間、Baba は自分ではなくなった。フラグが自分になり、私は壁を歩いてフラグを動かしてゴールできました。3面目で声を上げて笑っていました。
Hempuli の Arvi Teikari は、Stephen's Sausage Roll の Lazo (Stephen Lavelle) と並んで Sokoban 系の二大巨頭です。ジャム作品『Baba Is You』の原型を、5年以上磨き上げてこの形にした執念が、最初の数面から透けて見えます。
メカニクスの言語化
画面上に置かれた『ルール文』を物理的に押し動かして書き換えます。WALL IS STOP の『IS』を押し飛ばせば、壁はもう止める存在ではなくなる。
チュートリアル文章はほとんどありません。ルールは盤面の中に置かれていて、押せる。それだけが提示される。
盤面上に置かれた名詞・動詞・形容詞のブロックを並び替えるだけで、勝利条件、移動可能体、衝突判定が全部書き換わる。プログラミング言語のメタ操作を、グリッドベースの倉庫番で実装した、と説明すれば技術屋には伝わるかもしれません。
このゲームの魅力
『ルールを動かす』という発明が、最後まで陳腐化しないことです。100面目でもまだ新しい言葉が並び、新しい書き換えのパターンが立ち上がる。新名詞、新動詞、新形容詞がじわじわと追加され、その都度プレイヤーの語彙が増えていく。
ジャンル史の中での位置は明確で、Stephen's Sausage Roll が『一つの動詞を極限まで深掘りした』作品なら、Baba Is You は『動詞そのものを操作する』方向に振った作品です。Snakebird が形態の問題なら、Baba は文法の問題。それぞれが Sokoban の別の地平を開拓しています。
そして発見の喜びが個人的に深い。新しい単語を一つ理解した瞬間に、過去の40面が全部別の解き方に見える、という体験は他のゲームでは難しい。プレイヤーの脳の中で世界が再構築される瞬間が、ゲーム全体に散らばっています。
ゲームデザインの工夫
教えることを徹底的に削った設計です。すべての概念は盤面の中で発見されます。失敗したら Undo で一手戻る寛容さが、思考のためらいを支える。これは『試行錯誤を奨励する』ことを最優先したルールセットで、Sokoban 系の他作品と同じく、Undo を寛容にする決断がゲームの呼吸を決めています。
もし Undo を制限していたら、Baba Is You は別物になっていたはずです。試行回数のコストが上がれば、プレイヤーは机上で完全に解いてから動かすしかなくなる。Hempuli は『手を動かしながら考える』スタイルを保証するために、Undo を無制限に開けました。これは Stephen's Sausage Roll の『一手単位の Undo』とほぼ同じ設計判断で、Sokoban 系の共通言語になっています。
もう一つは、面の構造そのものが文法書になっている点。各エリアの最初の数面で『新しい単語の意味』が体感で示され、次の数面で『応用』、最後の数面で『その単語ありきのパズル』が並ぶ。教科書としての面構成は、Patrick's Parabox と発想を共有していますが、Baba は教師の手をもっと早く離します。最終章では、プレイヤーが自分で文法を発明することすら要求されます。
難しさの手触り
序盤40面は穏やかですが、中盤で突然壁が立ちます。20分考えて一手動かして、5秒で間違いに気づく。Undo連打が儀式になります。最初の40面が穏やかなのは偶然ではなく、そこに『習得の踊り場』が意図的に作られている。
そこから先は、『解く』より『言葉の中に答えを見つける』感覚になる。私は紙にメモを取り始めました。終盤のメタ章は、Sausage Roll 級の重さです。
結論
25時間と書きましたが、そのうち15時間は『考えていた時間』です。動いていない時間の方が長い。言葉とルールを愛するなら、一度試す価値があります。Sokoban 系の最高峰として、Sausage Roll と双璧をなす一作。
制作者として何度でも見返したいのは、『チュートリアルを盤面に埋め込む』作家性です。テキストに頼らず、ゲームのルールがプレイヤーの目の前に物体として置いてある。これを自作で再現するのはとても難しい。けれど目指したい場所として、Baba は常に北極星のように立っています。
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メタパズルの系譜 — ルールが動くという発明
ルール自体を操作するという発想は、いつから可能だったのか。Sokoban の押す動詞から Baba Is You の言語まで、メタ的なパズルの系譜をたどる。
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