REVIEW · 2023-04-19
Teslagrad 2
磁力が「読む対象」から「押す道具」に変わった続編
第一印象
Steam のラベルは「やや好評」。585 件のうち 447 件が肯定で 76% だ(2026-09-12 時点)。英語だけで数えると 292 件中 216 件、74% になる。言語で割ってもほとんど景色は変わらない。
面白いのは、肯定側と否定側が同じ一つのものを指していることだ。物理で動く体である。
helpful 上位に並ぶ肯定レビューは、口を揃えて movement を褒める。滑りの勢いが途切れない、走り回っているだけで楽しい、と書く。一方、否定側の helpful 最上位(33 票)は、スライドと地面叩きつけが同じボタンに乗っていて意図せず穴に落ちる、と書く。
どちらも操作の話をしている。褒めている対象と、貶している対象が同じなのだ。
前作 Teslagrad は、止まって部屋を読むゲームだった。続編は走りながら読ませる。賛否はこの切り替えに、きれいに沿って割れている。
メカニクスの言語化
前作の動詞は事実上二つだった。極性を切り替える。短く跳ぶ。どちらも静止した部屋を観察してから使う動詞である。
続編はここに「滑る」「叩きつける」「投げた斧に反発する」を足した。動詞が増えたように見えるが、起きたことは置換に近い。観察の動詞が、運動量の動詞に置き換わった。
肯定側が繰り返す語を並べると、その置換がそのまま見える。fluid、flow、momentum、a blast。ある肯定レビューは Ori の途切れない運動を引き合いに出している。彼らが褒めているのは解法ではなく、速度が止まらないことだ。
否定側は同じ場所を別の言葉で指す。「見た限りこのゲームにパズルは無い」と書いた者がいる。言い過ぎではあるが、指している構造は正しい。磁力は解くための文法ではなく、進むための推進力になった。
磁力を思考の道具として扱ってきた系譜は 磁力と重力 に整理してある。続編はその系譜から、意図的に半歩外へ出た作品だ。
操作の手触り
割れ目の中心はここにある。物理で動く体は、同じ挙動を「気持ちいい」とも「信用できない」とも呼ばせる。
肯定側は「走り回るだけで楽しい」と書く。否定側は、壁をかすめただけで明後日の方向に吹き飛ぶ、箱を持つと壁に食い込む、床を抜けてソフトロックする、と書く。どちらも同じ物理を触っている。
否定側 helpful 最上位の指摘は、設計批評として最も鋭い。スライドと地面叩きつけが同じボタンに乗っていて、押した瞬間にも離した瞬間にも発火しうる。滑って、跳んで、指を離すと、自分から罠に叩き落ちる。
これは物理が粗いという話ではなく、動詞が衝突しているという話だ。一つのボタンに二つの動詞を載せた時点で、プレイヤーの意図と盤面の解釈がずれる余地が生まれる。減らすべきだったのは動詞の数ではなく、ボタンの兼任のほうだった。
ボスも同じ構造で嫌われている。一撃死、予告のない攻撃、飛ばせない演出、途中のチェックポイントなし。ある否定レビュアーは、最終盤の戦いで開始前の演出を十五回から二十五回見た、と書いている。
学習曲線の設計
Teslagrad の看板は「文字で教えない」だった。前作ではそれが成立していた。動詞が二つしかなく、部屋がそのまま教室として働いていたからだ。
続編は、文字を使わない方針だけを残したまま、動詞と組み合わせを増やした。その結果、教えない設計が美学から負債に変わる箇所が生まれている。
名指しされるのは「斧を投げて、その斧に磁力で反発する」という組み合わせだ。ここで詰まったと書いているのが否定側だけではない点が重い。肯定レビューの一本も、自分がソフトロックしたと本気で思った、と告白している。
地図も同じ問題を抱える。未探索の領域はぼかして描かれるが、行けるところを全部回ってもぼかしが消えない。行けない場所と、まだ行っていない場所が、同じ見た目のまま残る。
減算が美徳になるのは、残したものが自分で教えられるときだけだ。Fez や INSIDE が文字なしで成り立ったのは、説明を消した代わりに、部屋が一つずつ教えていたからである。
系譜と位置づけ
批評家の集計も同じように割れている。OpenCritic の上位批評家平均は 72 点、推薦率は 59%(30 レビュー)。同じ作品に 8/10 と 50/100 が並んでいる。
ただしユーザーと批評家のズレは小さい。両者は同じ線で割れている。絵と移動を見た人は高く付け、構造と終盤を見た人は低く付ける。
差が一番大きいのは、開発元のストア説明との間だ。ストアは「新しいパズル解決の道具」と「壮大なボス戦」を売りとして挙げている。ところがレビュー群では、その二つがそろって弱点として扱われる。褒められているのは、説明文がほとんど触れていない移動のほうだ。
前作は 2013 年に出た。十年を挟んで、同じスタジオが同じ素材から別の種類のゲームを作ったことになる。続編として不誠実かどうかではなく、素材の使い道を変えた作品として読むほうが正確だろう。
参照したレビュー群
本記事は 2026-09-12 時点での Steam ストアページのユーザーレビュー群を読んで書いた。レビュー本文の直接引用はせず、典型的な主張を再構成している。
・Steam: Teslagrad 2(やや好評 / Mostly Positive、全言語 585 件中 447 件 = 76%。英語のみでは 292 件中 216 件 = 74%)
・helpful 順の肯定レビュー上位 10 件、否定レビュー上位 10 件、recent 順の上位 8 件(英語)と全言語 6 件を読了した。
・批評家側の集計は OpenCritic(上位批評家平均 72、推薦率 59%、30 レビュー)を参照した。
・開発元・発行元・配信日・ストア説明文は Steam の appdetails API(2026-09-12 取得)による。クリア時間はレビュー中の自己申告に基づく概算で、一次資料での裏取りはしていない。
結論
私の点は 7.0 だ。Steam の 76% とほぼ同じ高さに落ち着いたが、理由は違う。
私が評価するのは、磁力を推進力として読み替えた判断そのものである。極を「読む対象」から「押す道具」へ移すのは手抜きではなく、素材の再定義だ。減点はその判断ではなく、判断を最後まで通さなかったところに入る。
ボスは、移動の楽しさを一度も使わせない。ある否定レビュアーが書いた「磁力で色玉をよけるボスがあれば良かった」という空想は、ほとんどそのまま正しい設計批評になっている。この作品が一番得意なことが、一番大きな山場で使われていない。
レビューで言及されるクリア時間は、本編でおよそ 3〜4 時間。収集要素と真エンディングまで追うと、その倍以上になる。難しさは人によって体験が割れる。移動は前作より易しく、ボスは前作より理不尽に感じられている。
前作の「止まって考える」を期待して買うと外れる。絵の美しい北の塔を気持ちよく登りたいなら当たりだ。The Swapper のように静かに解かせる作品を探しているなら、行き先はこちらではない。
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