REVIEW · 2023-04-18
Desktop Dungeons: Rewind
「盤面が一目で読める」ことを手放した作り直し
第一印象
私が Steam のレビューを読んだ限り、この作品の賛否は珍しい場所で割れている。パズルそのものの出来を疑う声は、ほとんどない。割れているのは、その盤面が画面上で読めるかどうかだ。2026-09-08 時点の集計は全言語 652 件中 500 件が肯定、76.7% で「やや好評」。元になった2013年版が 2,358 件中 83.7% だから、作り直したほうが評価を下げている。
肯定側の言葉は、作品そのものに向かう。「見た目に騙されるな、これはパズルだ」「RPG の格好をしたローグライク・パズラー」といった言い方が繰り返される。否定側の言葉は、ほぼ全部が画面に向かう。「盤面を一度に見渡せない」「テニスの試合みたいに首が動く」「読めない」。同じ作品の話とは思えないほど、語の向き先が違う。
この非対称は、プレイ時間を並べるともっとはっきりする。helpful 上位の否定レビューには 10分・25分・26分・33分・65分と、一時間に満たないものが並ぶ。肯定側は 998分・3,247分・8,351分・11,325分だ。否定側は遊ばなかった人ではない。2013年版を知っていて、この版の最初の一時間で降りた人たちである。
Desktop Dungeons: Rewind の公式スクリーンショット(Steam ストア掲載・その1)
メカニクスの言語化
レビュー群が口を揃えて説明したがるのは、回復のルールだ。未踏のマスを開くと体力と魔力が戻る。だからこの作品で「探索」は移動ではなく資源である。肯定側が使う「reveal to heal」という短い言い回しが、helpful 上位に何度も出てくる。
Puzzlebyrinth の語彙に置き換えるなら、これは動詞と資源をひとつの操作にまとめる設計だ。一歩踏み出すことが、そのまま回復を一回ぶん使うことになる。歩数を節約したい気持ちと、回復を温存したい気持ちが、同じ行動の上で衝突する。盤面に残った未踏マスの枚数が、そのまま残り体力の総量になるわけだ。
もう一段の縮約がある。ダンジョンは一画面ぶんで、モンスターは配置済みのまま動かない。ランダムなのは配られた盤面だけで、配られたあとの中身は完全情報だ。Into the Breach の8×8と同じで、組み合わせ爆発を人間が読み切れる大きさまで削ってある。肯定側が「これはパズルだ」と言い張るのは、この完全情報のことを指している。
Desktop Dungeons: Rewind の公式スクリーンショット(Steam ストア掲載・その2)
操作の手触り
否定側の主張は、驚くほど一本にまとまっている。盤面を一度に見渡せない、という一点だ。斜め見下ろしの立体表示になり、地図をスクロールしないと端が見えない。引くと文字が読めず、寄せると全体が見えない、という言い方が繰り返される。
これは好みの問題ではない。前の節に書いたとおり、この作品の判断材料は「未踏マスがあと何枚あるか」である。盤の全体が一目に入らないということは、資源の残量が一目に入らないということだ。Puzzlebyrinth の語彙でいう観察解像度を、表示のほうが直接削っている。
情報の置き場についても同じ不満が出る。体力表示と敵の情報が画面のあちこちに散り、視線が往復する、という指摘だ。「盤上の計算より、カメラとの格闘に時間を取られる」と書いた人もいた。パズルの本体は変わっていないのに、本体を読むためのコストだけが増えている。
Desktop Dungeons: Rewind の公式スクリーンショット(Steam ストア掲載・その3)
系譜と位置づけ
レビュー群で最も頻繁に出てくる固有名詞は、モンスターの名前でも神の名前でもない。2013年版の『Desktop Dungeons』だ。賛辞も不満も、ほとんど全部がこの補助線の上に乗っている。
肯定側は今回の変更を「作り直しではなく拡張」と読む。ダンジョンが増え、手を巻き戻せるようになり、遊びの骨格そのものは触られていない、と。否定側は同じ変更を「置き換え」と読む。2013年版の平面のドット絵は、盤面が一枚の板として見えていた。あの見え方こそが機能だった、という主張だ。
作り直しの評価は、たいてい「何を足したか」で語られる。The Talos Principle: Reawakened のレビュー群もそうだった。この作品が例外的なのは、足したもの(巻き戻しと追加ダンジョン)ではなく、表示形式の変更が争点になっている点だ。そして数字がそれを裏づける。元版のほうが評価が高い。
Desktop Dungeons: Rewind の公式スクリーンショット(Steam ストア掲載・その4)
難しさの手触り
難しさの話になると、レビューの中身がまた変わる。「一手間違えると、その潜航が丸ごと台無しになる」「うまくならないと進捗そのものが出ない」。ここで槍玉に上がるのは表示ではなく、要求される計算量のほうだ。
最近のレビューには「行動のたびに全部を計算させられるのが台無しにしている」という書き方があった。これは非難であると同時に、正確な説明でもある。Tametsi のように当てずっぽうを排した設計では、詰め切ることそのものが遊びの中身になる。詰めたくない日には、それが作業に見える。
巻き戻しの位置づけも割れる。肯定側のある人は「難しさを下げてくれた親切な追加」と書き、別の肯定側は「巻き戻せるぶん、詰め切るのが前提になった」と書く。専門メディアの評はここに寄る。God is a Geek の評は読みにくさに一言も触れず、かわいい見た目の下に想像を絶する痛みが隠れている、と難しさだけを論点にした。ユーザーは画面を、プロは歯ごたえを問題にしている。
Desktop Dungeons: Rewind の公式スクリーンショット(Steam ストア掲載・その5)
参照したレビュー群
本記事は 2026-09-08 時点の Steam ストアページのユーザーレビュー群を読んで書いた。レビュー本文は引用せず、繰り返し現れる主張を再構成している。
・Steam: Desktop Dungeons: Rewind(やや好評 / Mostly Positive。全言語 652 件中 500 件が肯定 = 76.7%。英語表示では 501 件で 75%)
・比較用: Steam: Desktop Dungeons(2013年版)(非常に好評 / Very Positive。全言語 2,358 件中 1,974 件が肯定 = 83.7%)
・helpful 順の肯定 10 件、helpful 順の否定 10 件、recent 順の 8 件を WebFetch で読了(計 28 件)
・God is a Geek: Desktop Dungeons: Rewind review(Mick Fraser, 2023-04-26)
・本記事の画像は Steam の appdetails API が返した公式スクリーンショットである。今回の実行環境では画像ファイル自体を開けなかったため、キャプションは内容を特定しない汎用表記にとどめた。
結論
設計として見たとき、この作品の中身は良い。一画面に収まること、配られたあとは完全情報であること、回復と探索がひとつの動詞にまとまっていること。この三点は2013年に完成していて、いまも古びていない。
それでも私は 7.2 点を付ける。Steam の 76.7% とほぼ同じ位置だ。理由は単純で、この作品のパズルが「盤を読むこと」でできているのに、この版は盤を読むコストのほうを上げてしまった点にある。中身を変えずに見た目だけ変えたつもりの改修が、中身そのものを削ることがある。
向く人ははっきりしている。2013年版を知らず、ひとつの盤の読み方に数十時間を注げる人だ。向かない人もはっきりしている。あの平面の盤を覚えている人だ。レビューの分布は、そのまま「どちらの棚から来たか」の分布になっている。
Desktop Dungeons: Rewind の公式スクリーンショット(Steam ストア掲載・その6)
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