REVIEW · 2022-09-08

Isle of Arrows

看板は「引きに勝て」と書いてある——1,100件の不満がそろって求めているのは、引きに打てる手のもう一本だ

Steam store ↗

第一印象

数字を先に置く。ストア表示は 936件中 80% が肯定で「非常に好評」、SteamDB の全言語集計は 1,000件・75.6%(いずれも 2026-09-04 時点)。全言語で数えると帯が一つ下がって「やや好評」になる。投稿数が少ないため、直近30日の欄はそもそも表示されない。

私が読んだ helpful 上位の顔つきは、この数字から想像するものと違っていた。推奨側の上位10本のうち7本に、要望か不満が書き込まれている。取り消しボタンが欲しい。次のタイルを見せてほしい。1枚だけ手元に置けるようにしてほしい。塔がまるで来ない。推奨の列が、ほとんど要望書として機能している。

否定側は逆に一点へ収束する。上位10本のうち8本が、原因を「引き」に置いている。最上位(13.4時間)は「この作品の乱数は容赦がない」と書き、6時間を超えても第1面を突破できないと述べる。2位(6.9時間)は「見た目も出来も申し分ない。だが遊んだ中でいちばん満たされないタワーディフェンスだ」。

つまり賛否は、難しさの有無で割れているのではない。両側とも、引きが結果を支配していることは認めている。分かれているのは、それを設計と呼ぶか破綻と呼ぶかだけだ。そしてどちらの側も、敵を弱くしてくれとは書いていない。要求はそろって、配られた1枚に対して打てる手のほうへ向かっている。この非対称が、本稿でいちばん面白い点だ。

Isle of Arrows のスクリーンショット: Steam ストアページ掲載の1枚目Isle of Arrows のプレイ画面。Steam ストアページ掲載の1枚目(Steam スクリーンショット)

メカニクスの言語化

動詞は「置く」ひとつに見えて、実際は二つある。置くと、飛ばす。毎ターン提示されるタイルは1枚だけで、要らなければコインを払って飛ばせる。塔は攻撃し、道は敵の通り道になり、旗は島を広げ、庭はコインを生み、酒場は隣の弓塔を強める。ストアの説明はこの5種を明記している。

日本語 helpful 上位の一本(48.5時間)が、この構造を過不足なく言い直している。カードは1枚しか提示されず選択肢は skip のみ、建てる余地は旗や拡張で作るしかなく、水タイルは障害と条件を兼ね、爆弾で上書きができ、収入は貯蓄に比例する。ストアの紹介文より正確な機構の記述だ。

英語側は別の言葉で同じところを指す。「極端に制限された資源と純粋な偶然を相手にしていて、敵と戦っている感じがしない」(25.3時間)。「カードは大量に解放されるのに、実際に見るのは毎回同じ一握りだけだ」(18.0時間)。前者は入力の細さを、後者は分布の偏りを言っている。

Puzzlebyrinth の語彙で言えば、この作品は動詞を2本に減らし、そのうち1本(飛ばす)にコインという値札を付けた。減算そのものは潔い。問題は、減算した先に残った弁が1個しかないことである。Dorfromantik がタイル1枚の置き場所だけを問うのに対し、こちらは置き場所と引き直しを同じ財布から払わせる。

Isle of Arrows のスクリーンショット: Steam ストアページ掲載の2枚目Isle of Arrows のプレイ画面。Steam ストアページ掲載の2枚目(Steam スクリーンショット)

難しさの手触り

難しさの質は、否定側の記述から3つに分けられる。第一は枯渇で、「攻撃できる塔が7〜8ラウンド続けて来ないことが普通に起きる」(13.4時間)という訴えがこれにあたる。第二は分散。同時に増えていく侵入経路が、ただでさえ足りない資源をさらに割る。そして第三が、先読みの不在である。この3つは、どれも盤面の複雑さの話ではない。

三番目を最も端的に書いたのは日本語の否定レビュー(15.5時間)だった。見た目の自由に対して本当の選択肢は少なく、先を読めないまま置かされ、取り返す手段も限られる、という趣旨である。英語側の「1枚先を見せてほしい」という要望と、符号を変えただけで同じことを指している。

90時間の否定レビューは分布まで書く。よく引けた者が15%、辛くも通る者が15%、残りの7割は押し切られる、と。数字の出どころは示されていないので体感の表現として読むべきだが、この作品の難しさが分散として経験されていることは伝わる。運で勝った勝利は「自分の」勝利かで扱った論点が、ここでは苦情の形で現れている。

一方で推奨側の一本(53.0時間)は、その分散こそ主題だと言う。悪い選択肢ばかりを差し出すのが設計の中心なのだから、批判は前提を読み違えている、という主張である。私はこの読みを支持する。ただし前提が正しいことは、弁が1個で足りることの証明にはならない。

Isle of Arrows のスクリーンショット: Steam ストアページ掲載の3枚目Isle of Arrows のプレイ画面。Steam ストアページ掲載の3枚目(Steam スクリーンショット)

ゲームデザインの工夫

作者は隠していない。ストアページは「引きに勝てるか」と読者に問いかけ、難しさについては「容赦のない難関」と自称する。さらに配布の仕組みまで明記している。順序と種類は乱数だが、Xタイルごとに塔・道・建物が一定数は必ず配られる、と。盤上遊戯の引き運を模したものだと説明されている。

つまり救済は最初から入っている。天井付きの乱数であり、無制限の不運ではない。看板と実装のあいだに落差は無く、否定側が怒っている対象は、看板に書いてあることそのものである。落差から不満が生まれる作品は多いが、ここはそうではない。それでも不満が消えないのは、看板が最初から約束していないものが一つあるからだ。

約束されていないのは、乱数と戦うための道具の本数である。skip はコインを払う1個の弁で、庭を建てないとコインは増えず、庭を建てる場所は塔の場所と競合する。介入手段を資源とトレードオフにする設計は筋が通っているが、弁が1個のままだと、不運の局面で打てる手が「払う」しか残らない。

推奨側の要望は、この空席を正確に指している。取り消し、1枚保持、次の可視化。ヒント機能の設計の言葉で言えば、彼らが求めているのは難しさの緩和ではなく観察解像度の引き上げだ。Undoでやり直せる世界で、選択に意味はあるかで書いたとおり、取り消しを断る設計には理由が要る。この作品の理由は資源側にあり、そこは一貫している。

Isle of Arrows のスクリーンショット: Steam ストアページ掲載の4枚目Isle of Arrows のプレイ画面。Steam ストアページ掲載の4枚目(Steam スクリーンショット)

系譜と位置づけ

配置パズルの近縁と並べると、この作品の位置がはっきりする。Dorfromantik は手札が尽きることで終わり、ISLANDERS は点数が足りないことで終わる。どちらにも敵は出てこない。負けの形が、勝敗の判定ではなく残量メーターとして書かれている。だから失敗はいつも、じわじわと近づいてくる。

Isle of Arrows は、その判定を盤の外に置いた。波が来て、通り抜けられれば負ける。だから置き間違いが、数値の伸び悩みではなく明確な失点として返ってくる。手応えは鋭くなり、うまくいった局面の輪郭もはっきりする。そのぶん、引きの偏りがそのまま結果へ直結する。

完全情報のパズルと比べると差はさらに明確だ。Into the Breach は次に何が起きるかを全部見せてから選ばせる。同じように狭い盤で、隠されているものが何も無い。Isle of Arrows は逆に、盤面は完全に見えるのに手札だけが見えない。難しさの置き場所が、読みから引きへ移されている。

直近レビューは落ち着いた評価に寄っている。428.8時間の一本は「繰り返し遊べて、戦略があり、ミニマルな画で、落ち着く」と書く。52.4時間の一本は「気持ちのよいタワーディフェンス。操作はもう少し詰められる」。長時間側の語り口は静かで、集計の割れ方とは温度が違う。

Isle of Arrows のスクリーンショット: Steam ストアページ掲載の5枚目Isle of Arrows のプレイ画面。Steam ストアページ掲載の5枚目(Steam スクリーンショット)

参照したレビュー群

本記事は 2026-09-04 時点での Steam ストアページのユーザーレビュー群を読んで書いた。

Steam: Isle of Arrows(936件中 80% 肯定・「非常に好評」。投稿数が少なく、直近30日の欄は表示されない)

SteamDB の全言語集計は 1,000件・75.6%。ストア表示は英語相当の件数のため併記した。

・helpful 順の positive 上位10件、negative 上位10件、最新順8件、日本語上位10件を読了(計38件)。

・批評家側は薄い。OpenCritic は批評1本(GameBlast 7/10。乱数への依存が状況を理不尽にしていると書く)。Metacritic は iOS 版のみで批評2本、いずれも80だが本数不足でスコアは未確定。

・画像はすべて Steam ストアページ掲載のスクリーンショットで、URL の実在は確認済み。ただし今回の実行環境から画像ファイル本体を取得できなかったため、キャプションは掲載順のみを記し、写っている内容の説明は行っていない。

結論

私はこの作品に 7.2 を付ける。ストア表示の 80% よりわずかに厳しく、SteamDB の 75.6% よりは高い。混血としての完成度は高い。盤上遊戯の引き運をタワーディフェンスへ持ち込むという着想も、天井付きの配布まで含めて、細部まで筋が通っている。塔と道と旗の役割分担にも無駄がない。

減点は一点だけだ。引きを難しさの通貨に選んだのに、その通貨に対して打てる手が skip 一つしかない。難しさは不親切か——公正(フェアネス)の哲学で整理した条件に照らすと、不運そのものは許容できても、不運に対する手数の不足は納得を得にくい。要望が集中しているのは、まさにそこである。

向く人と向かない人は、はっきり分かれる。1回の run を偶然の配当として楽しめる人には、長く遊べる作品だ。逆に、1回の run を自分の判断の答案として読みたい人には、答案用紙が毎回違う紙で配られてくるように感じられるだろう。この線引きは好みの問題で、優劣の問題ではない。

レビューで100%達成に25時間と書いた一本があり、キャンペーンと挑戦モードを合わせた実質は20時間前後に見える。価格は $12.99。そして本稿に書いたことのほとんどは、作者がストアページに先に書いていた。買う前に読んで、自分で決められる作品である。

Isle of Arrows のスクリーンショット: Steam ストアページ掲載の6枚目Isle of Arrows のプレイ画面。Steam ストアページ掲載の6枚目(Steam スクリーンショット)

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