SOUNDTRACK · 2026-06-30

Carto のサウンドトラック — 地図を並べ替えると、音楽も並べ替わる

Eddie Yu

はじめに — 紙細工の島に最初に灯る音

嵐ではぐれた祖母を探して、女の子カルトが見知らぬ島に降り立つ。Komugi のレビューが扱ったこの作品で、最初に耳へ届くのは、輪郭のやわらかいアコースティックの小さな調べだ。水彩の飛び出す絵本のような世界に、Eddie Yu の音楽はぴたりと寄り添う。聞こえてくるのは、軽い撥弦と、息の混じった笛のような音色、控えめな打楽器。だいたいのテンポはゆっくりで、拍を数えにいく前に角が取れている。

サウンドトラックは Eddie Yu(Bandcamp では soymilkmusic 名義)が手がけ、2020 年 10 月に全 31 曲で公開された。一曲一曲は短く、多くが 1〜2 分で閉じる。派手なオーケストラもドラムの推進力もない。代わりにあるのは、世界の手触りに合わせて選ばれた、生楽器寄りの小さな音色たちだ。

タイルを置く、音が変わる — 場所に紐づいた音楽

Carto のパズルは、断片化した地図のタイルを拾い、回転させ、自然につながるように並べ替えて世界を成立させる仕組みだ。ビーチのないタイルをいきなり海の隣には置けない。ボードゲームの『カルカソンヌ』に近い、置き場所の論理である。そしてこの島はバイオームごとに姿を変える。森、草原、砂漠、雪原——その一つひとつに固有の小曲が割り当てられている。

ここに、このサウンドトラックの設計の核がある。普通のゲーム音楽は時間に沿って進む。だが Carto の音楽は『場所』に紐づいて鳴る。プレイヤーがタイルを組み、新しく出来上がった土地へ歩み入ると、音楽はその土地の音色へ切り替わる。曲名がそのまま地形と心情の地図になっているのも示唆的だ——Prairie(草原)、Wind(風)、Dust(砂)、Lava(溶岩)、Dew(露)、Tunnel(坑道)。音楽が時系列ではなく空間配置で呼び出される設計は、タイルを並べ替えるという中核メカニクスの、もう一つの表現になっている。

そしてもう一本、隠れた線が通っている。祖母とはぐれ、また出会う物語の弧だ。Bond(絆)、Reunion(再会)、Mother(母)、Goodbye(別れ)、Finale。並べ替え可能な小曲群の中に、これら数曲だけが感情の重みを担って置かれている。地形の音は淡く広く、物語の音は名前を持って深い。役割がはっきり分かれている。

長考に耐える短いループ — 考える時間と音の摩擦

タイルパズルは、置いては下がって眺め、回しては置き直す——その繰り返しだ。プレイヤーは地図とにらめっこをして、長い『考える時間』をその場で過ごす。ここで音楽が情報量を多く持ちすぎると、思考の邪魔になる。Carto の小曲が一様に短く、メロディの密度を抑え、角の丸い音色で出来ているのは、この長考に音で寄り添うための選択に見える。

ループの作り方も慎ましい。曲の頭とお尻が強く主張しないので、プレイヤーがどれだけその土地に留まっても、繰り返しが『また始まった』と意識に上りにくい。アンビエントの無音に逃げるのでも、チップチューンの推進で急かすのでもない。ここにあるのは、留まることを許す音だ。パズルの解法が見えない数分間、音はそっと背景に沈み、ひらめいて歩き出すと、次の土地の音色がまた迎えてくれる。

パズルとのアナロジー — 並べ替えのテンポ

私が何でも BPM で測る癖で言えば、Carto を解くテンポは『置く・眺める・回す・置き直す』というゆったりした往復で、だいたい歩く速さに近い。せき立てる拍はいらない。Eddie Yu の音はその往復に合わせて、推進力を抜き、テンポを緩め、拍の輪郭をぼかしている。Baba Is You の試行錯誤に効くのが小刻みなチップチューンなら、Carto の『並べ替え』に効くのは、息をするように緩やかなアコースティックだ。

面白いのは、解法が空間の組み替えで訪れる点だ。直線的に進むのではなく、断片を回し、噛み合わせ、世界の形を作り直す。音楽もまた、直線の劇伴ではなく、場所ごとに呼び出される断片の集合になっている。解く行為の構造と、音楽の構造が、同じ『並べ替え』の文法でできている——私はそこに、このサウンドトラックの一番の美点を見る。

聴くべきトラック

まずはサウンドトラック全編を、公式の自動生成プレイリストで通して聴いてほしい。短い小曲が次々に土地を切り替えていく流れそのものが、このゲームの音楽の設計だ。

個別では、地形の音として ExplorePrairieWind を。淡く広い、留まることを許す音の見本だ。物語の音としては BondReunion、そして幕を引く Finale。同じ作曲家の手による『淡い地形の音』と『名前を持つ感情の音』を聴き比べると、役割分担の設計がよく分かる。各曲は Eddie Yu の Bandcamp ↗Steam の公式 OST ↗ でも単曲から辿れる。

おわりに — 自分が作るなら盗む点

私が自分の曲作りに持ち帰るなら、盗むのは『音楽を時間ではなく場所に紐づける』発想だ。プレイヤーが同じ画面に長く留まる設計のゲームでは、劇伴を一本の線で書くより、短く・低情報・角の丸い断片を土地ごとに用意し、移動で呼び出す方が、長考に寄り添える。そしてその淡い地形の音の中に、名前を持った数曲だけを感情の錨として沈めておく——Bond、Reunion、Finale のように。淡さと深さの配分こそが効く。

もう一度聴きたくなるのは、作業中に BGM が欲しい夜だ。せき立てず、留まることを許してくれる。地図やタイルを並べ替えるパズルが好きなら、COCOON の生成音や A Monster's Expedition の歩行の音と聴き比べると、『考える時間に音をどう添えるか』の設計の幅が見えてくる。

参考リンク

Eddie Yu — Carto (Original Game Soundtrack) Bandcamp

Steam: Carto (Original Game Soundtrack) 公式 DLC

YouTube: Carto (Original Game Soundtrack) 公式自動生成プレイリスト

Wikipedia: Carto (video game)

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