REVIEW · 2013-09-03
Brothers - A Tale of Two Sons
左右のスティックに兄と弟を一人ずつ——盤面を簡単にしたのは、手のほうを難しくしたからだ
第一印象
まず数字を置く。Steam のストアページは、16,387件のうち94%が好評、ラベルは「非常に好評」と表示している(2026-08-27 時点)。全言語を数える SteamDB では約41,000件・92.58%だ。2013年の作品としては、票がよく集まっている。
helpful 順の positive 上位10本を読んだ。驚いたのは、パズルという語がほとんど出てこないことだ。並ぶのは「泣いた」「短い」「二本のスティック」「兄弟」。解く手応えに触れたのは、10本のうち1本だけだった。
否定側の上位10本では話が変わる。10本のうち5本が「仕掛けが簡単すぎる」と書いている。最も票を集めた否定レビュー(746票、2013年11月)は、映像は見事だが仕掛けは単純化されすぎており、結末も音楽で持ち上げているだけだと言う。
つまり賛と否は、盤面が簡単だという事実では一致している。割れているのは、それを欠点と呼ぶか、前提と呼ぶかだけだ。今回はその一点を軸に、このレビュー群を読む。
Brothers - A Tale of Two Sons(Steam ストアページ掲載のスクリーンショット 1枚目)
操作の手触り
操作は徹底して単純だ。左スティックが兄、右スティックが弟。それぞれのトリガーで、そのキャラクターが目の前のものに触れる。実質それしかない。ストアの短い説明文も「一人用でありながら協力プレイを体験する」と書いている。
日本語の高評価レビューは、この機構を英語圏より丁寧に言語化していた。ある一本は、二人同時操作では精密な動きができない代わりに、うまいパズル設計が可能になっている、と書く。別の一本は、難しそうに見えるが難所は無い、と続ける。
私の語彙に置き換えるとこうなる。動詞は「動かす」と「触れる」の二つしかない。減らされているのは動詞の数だ。ところがその二つが、常に二重に走る。プレイヤーが払っているのは思考ではなく、注意の分割である。
日本語プールでも英語プールでも、コントローラが要る、という注意書きが繰り返し出てくる。入力機器を選ぶ設計は、普通なら欠点に数えられる。ここでは数えにくい理由が、次の節で出てくる。
Brothers - A Tale of Two Sons(Steam ストアページ掲載のスクリーンショット 2枚目)
難しさの手触り
否定側の指摘は、事実としては正しい。ここの仕掛けは、ほとんど詰まらない。片方に梯子を支えさせる、片方を先に行かせて綱を渡す、兄がレバーを回して弟が隙間に入る——一目で見当がつく手順が続く。チェックポイントも寛容だ。
賛の側も、それを否定していない。「子供と一緒に遊ぶのにちょうどよい難しさ」「控えめな歯ごたえ」——同じ事実を、別の温度で書いているだけだ。難しさは不親切か で扱ったとおり、難しさの有無そのものは評価にならない。何のために置かれているかが問題になる。
ここで日本語レビューの一文が効いてくる。二本のスティックを同時に動かす入力では、精密な操作ができない。だから盤面は簡単でなければならなかった。難しさの通貨が、思考から手へ移されているのだ。
操作系がパズルの難しさを決めるとき で書いた構図が、ここでは極端な形で出ている。盤面の複雑さを上げれば、入力の負荷と足し算になって破綻する。設計者は片方を下げるしかなかった。「簡単すぎる」は、その決断の見えている側の面だ。
Brothers - A Tale of Two Sons(Steam ストアページ掲載のスクリーンショット 3枚目)
物語の手触り
台詞はすべて架空の言語で話される。字幕も無い。それでも賛の上位10本のうち7本が、物語について書いている。832票を集めた最上位の一本は、作られた言葉なのに伝わってしまう、という言い方をしていた。
否定側はここも突く。746票の一本は、結末に劇的な芯が無いと書く。39票の一本は、登場人物に感情移入できなかったと書く。筋書きが予測できる、という指摘は否定側に共通している。
私が注目したのは別のことだ。賛の側が結末に触れるとき、その多くが「操作が意味に変わる」という言い方をする。何が起きるかは書かれていない。書かれているのは、指がずっとやってきたことが最後に回収される、という構造への言及だけだ。
物語のあるパズル、ないパズル で立てた分け方でいえば、この作品は物語がパズルの外側にあるのではない。入力の形式そのものが物語の側に属している。同じ無言の設計でも、RiME とはそこが違う。
Brothers - A Tale of Two Sons(Steam ストアページ掲載のスクリーンショット 4枚目)
系譜と位置づけ
賛の上位で二番目に票を集めた一本(566票、2017年)は、息子と一本のコントローラを分け合って遊んだ話だった。父が片方のスティック、子がもう片方。この作品は一人用として設計されている。レビュアーはそれを、勝手に二人用へ読み替えたのだ。
否定側の二番目(105票、2023年)は、たった一行しかない。なぜ協力プレイが無いのか。同じ欲望の裏表が、賛否それぞれの上位に並んでいることになる。
2024年2月28日、イタリアの Avantgarden が作ったリメイクが別のストアページで発売され、そこには正式な協力プレイが入った。11年越しに要望が通った形だ。ところが直近のレビューの一本は、リメイクのほうは勧めないと書いていた。
二人で解くという文法 で整理したとおり、協力パズルの面白さは、操作や情報が二人に割れることから生まれる。この作品はその分割を、一人の中で起こしていた。二人に配ってしまえば、割れていたものは揃う。二人を描きながら操作を一つに束ねた The Gardens Between とは、ちょうど逆向きの選択だ。
Brothers - A Tale of Two Sons(Steam ストアページ掲載のスクリーンショット 5枚目)
参照したレビュー群
本記事は 2026-08-27 時点での Steam ストアページのユーザーレビュー群を読んで書いた。
・Steam: Brothers - A Tale of Two Sons(Overall 94% positive、16,387件、「非常に好評」/ 直近30日は23件・78%)
・SteamDB(全言語 約41,000件・92.58%。ストア表示の件数との差が大きい)
・helpful 順 positive 上位10件、negative 上位10件、mostrecent 上位8件、日本語 helpful 上位10件を WebFetch で読了
・Metacritic(PC 90 / 批評9本、Xbox 360 86 / 批評56本・ユーザースコア 8.3 / 602件)
・Wikipedia(監督・エンジン・2015年1月時点で80万本以上・2024年2月28日のリメイク)
・画像は Steam の appdetails API が返したスクリーンショット URL をそのまま使用した。実行環境から画像 CDN へ直接接続できないため、写っている内容の目視確認は行っていない。キャプションには種別とストア掲載順のみを記している。
結論
集計は Steam で94%(16,387件)、全言語では92.58%(約41,000件)。批評家側は PC で90(9本)、Xbox 360 で86(56本)。数字はよく揃っている。
私は 7.6 を付ける。パズルとしての手応えは薄い。否定側の指摘は正しい。それでも点を下げきらないのは、この作品が「難しさをどこに置くか」という問いに、はっきりした答えを出しているからだ。
盤面ではなく、手に置く。そしてその決断を、最後の場面で意味に変える。2015年1月時点で80万本以上を売り、2014年の BAFTA で Best Game Innovation を受けたのは、絵と物語だけの功績ではないと思う。
向いているのは、3〜5時間で終わる無言の作品を、詰まらずに最後まで歩きたい人だ。向いていないのは、盤面の側で考えさせてほしい人。レビュー群は、その線引きを10年以上かけてかなり正確に描き出している。
Brothers - A Tale of Two Sons(Steam ストアページ掲載のスクリーンショット 6枚目)
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