REVIEW · 2017-05-26

RiME

無言の島の一本道——「美しい」と「空っぽ」が同じ設計を指すとき

Steam store ↗

第一印象

RiME は、賛否を訊く器を変えると答えが変わる作品だ。Steam ストアの全レビュー表示は 3,234 件中 90% が好評で、ラベルは「非常に好評」(2026-08-20 snapshot)。英語レビューだけに絞れば 1,457 件中 88%。SteamDB の集計では 5,000 件のうち好評 4,359・不評 641 で 87.19%。どこを切っても、好意的な作品に見える。

ところが Metacritic では PC 版のユーザースコアが 7.3 で「Mixed or Average」に落ちる。内訳は好意的 138 件(61%)・賛否混在 56 件(25%)・否定的 32 件(14%)。批評家側は 78 点、19 本のうち好意的 12・混在 7・否定 0 だ。親指の上下という二択なら 9 割が上を向くのに、10 段階の数字を書かせると 4 割が positive の外に出る。この差が、この作品を読む入口になる。

helpful 上位の positive が繰り返す語は beautiful、gorgeous、emotional、moving、relaxing、そして「泣いた」。negative 側で反復されるのは misrepresented(誤って伝えられている)、linear(一本道)、too short、overpriced、performance、そして「パズルが易しすぎる」だ。同じ画面を、一方は「言葉のない語り」と呼び、他方は「中身の薄さ」と呼んでいる。

RiME のキーアートRiME(Steam ストア キーアート)

世界観

positive 側が実際に買っているものは、はっきりしている。音と光と、言葉のない語りだ。レビュー群で最も頻繁に引き合いに出される固有名詞は開発元の名前ではなく、Journey、Abzû、Ico、風のタクトである。音楽についてはジブリや指輪物語の劇伴を持ち出す評が複数あり、「今年いちばんのサウンドトラック」という書き方も見える。

興味深いのは、賛辞の多くが体験の質ではなく視線の状態を語っていることだ。「子どもに戻った気がした」「島の隅々まで見たくなった」「見えているものは、いずれ必ず辿り着ける」。Puzzlebyrinth の語彙で言えば、この作品は観察解像度を盤面ではなく風景の側に全振りしている。HUD も台詞もない設計は、探索の自由を約束するためではなく、視線を風景に留めるために引かれた線だ。

同じ線が、negative 側では「空っぽ」に反転する。「終盤の明かしまで、この島が何を意味しているのか分からない」「どの場面も、何を意味してもよく見えた」。手がかりをパンくずのように散らす語り方は、拾う気のある人には解釈の余地に、拾う気のない人には保留の連続に見える。優劣ではなく、作家が誰に向けて解像度を合わせたかという射程の問題だ。COCOON のような、空間そのものが規則を運ぶ作品と比べると、この差ははっきりする。

RiME のスクリーンショットRiME(Steam スクリーンショット)

メカニクスの言語化

動詞を棚卸ししてみる。走る、登る、泳ぐ、そして叫ぶ。環境に能動的に作用するのは最後の一つだけで、少年の声が石の仕掛けを開ける。パズルの内容についてレビュー群が挙げるのは、押す仕掛けと、光と影の仕掛けだ。時間制限はなく、戦闘はなく、ゲームオーバーもない。死んでも直前の位置の近くに戻る、と複数のレビューが書いている。

そして最頻出の不満が「パズルが易しすぎる」である。ここで見るべきは、positive 側も同じ事実を認めていることだ。「頭を使わされる場面はほとんどない」「難しくないから流れが途切れない」——事実の記述は一致していて、符号だけが逆を向いている。ある否定レビューが挙げた例が核心を突いている。昼夜の周期が球に作用する仕掛けが、一度きりで使い捨てられる、というものだ。

つまりこれは難しさの不足ではなく、規則が蓄積しない設計の帰結だ。章ごとに新しい仕掛けが置かれ、次の章では置き換えられる。学習曲線は積み上がる代わりに横に並ぶ。だから組み合わせ爆発が起きず、起きないから解の探索も発生しない。ChromaGun のレビュー群でも似た形の留保を読んだが、あちらは動詞を一つに絞ったうえで文法を積んでいた。RiME は逆で、動詞は四つあるのに文法が引き継がれない。

RiME のスクリーンショットRiME(Steam スクリーンショット)

操作の手触り

レビュー群でもっとも具体的に書かれている不満は、操作とカメラだ。登攀と潜水でカメラが自分の向きを見失う、画面では左に飛びたいのにスティックは右に倒さねばならない、キーボードとマウスの操作は勧められないのでパッドを使え——この三点は言語をまたいで繰り返される。振動を切れない、設定項目が少ないという指摘も添う。

登攀そのものについては、Uncharted に似ているがもっと遅く、もっと現実的だ、という評があった。何かを操作したあと、カメラが対象を一瞥してから少年の背後に戻るまでの間が長すぎる、という指摘も同じ評者から出ている。動作の正確さの話ではなく、待たされる時間の話だ。

没入を設計の目的に据えた作品では、操作が意識に上がった瞬間そのものが失点になる。風景を見せるためにカメラを演出側に寄せ、その同じカメラが入力の基準にもなっている——構造としてここが弱点だ。ただし 2025 年に書かれたレビューでは「細かい操作は期待より噛み合っていた」とあり、一度きりの体験でどこまで慣れるかにも左右される、というのが読んだ限りの印象である。

RiME のスクリーンショットRiME(Steam スクリーンショット)

ゲームデザインの工夫

レビュー群でもっとも多くの支持を集めた否定的評価(381票)は、遊びの中身ではなく売り方を撃っている。曰く、スクリーンショットどおりに美しいが、ストアページが作品を誤って伝えている。自由な探索の話ではまったくなく、パズルとプラットフォームと演出の、きわめて直線的な連なりだ、と。選べるのは最大4区画の攻略順だけだという。実際ストアの紹介文は「謎めいた島を探索し、塔の頂に至れ」と書き、タグには Open World も Walking Simulator も並んでいる。

収集物の扱いにも同じねじれがある。癒しの作品を名乗りながら、見えているのに今は取れない収集物が焦りを生む、と高評価のドイツ語レビューが書く。しかも物語の一部が収集物に載っているので、拾わない人は物語を取りこぼす。クリア後に章選択で回収できる、という救済はある。癒しと収集は、同じ設計の中では引き合わない二つの要求だ。

この作品が引き算したものは多い。戦闘、HUD、台詞、ゲームオーバー。減算そのものは見事に効いていて、レビュー群に「苛立つ瞬間がなかった」という記述が並ぶのはその成果だ。問題は、引いた跡地に置かれたのが規則ではなく風景と音だったことにある。The Sexy Brutale——同じ Tequila Works が同じ 2017 年に出した作品——を引いて「あちらは伏線を前半に配れていた」と書くレビューがあり、この比較は的を射ている。RiME の失点は設計の粗さではなく、期待値の設計、つまり分類にある。

RiME のスクリーンショットRiME(Steam スクリーンショット)

参照したレビュー群

本記事は 2026-08-20 時点の Steam ストアページのユーザーレビュー群を読んで書いた。レビュー本文の直接引用はせず、典型的な主張を再構成している。

・Steam: RiME(全レビュー 3,234 件中 90% が好評・「非常に好評」。英語レビューは 1,457 件中 88%)

・helpful 順の上位を英語・ドイツ語・スペイン語・韓国語のロケール別に読了(否定的評価 4 件を含め、重複を除いて計 26 件前後)。加えてストアの「About This Game」本文・タグ順・価格表示を参照した

・SteamDB: RiME(5,000 件中 好評 4,359 / 不評 641、87.19%)、Metacritic: ユーザーレビュー(7.3 / 好意的 138・混在 56・否定 32)、Metacritic: 批評家レビュー(78 / 好意的 12・混在 7・否定 0)

・本文に掲げた画像は Steam ストアページが実際に配信している公式アセットのみを用いたが、今回の実行環境からは画像CDNに到達できず内容を目視で確認できなかったため、キャプションは作品名と素材種別のみの汎用表記に留めている

結論

Steam の 90% に対し、設計の観点から私は 7.5 を付ける。減点は難しさの不足そのものではなく、規則が章をまたがない構造にある。加点は、引き算の徹底ぶりだ。戦闘も HUD も台詞もゲームオーバーもなく、それでも六時間ぶんの場面を持たせた設計は、そう簡単に真似できるものではない。Metacritic のユーザースコアが 7.3 で「混在」に落ちるのは、この作品が「好きか」ではなく「何点か」を訊かれた瞬間に、遊びの側の薄さが数字に現れるからだと私は読む。

向いているのは、風景と音を目当てに来る人、無言の語りを自分で編める人、そして一度きりの通り抜けを買う人だ。向いていないのは、手応えを買いに来た人、タグの Open World を字義どおりに読んだ人である。レビュー群がほぼ一致しているのは尺と価格の話で、本編は六時間前後、収集物まで含めて八〜九時間、定価 $29.99 に対して「セールを待て」という助言がほとんど合唱になっている。

少年は走り、登り、泳ぎ、そして叫ぶ。四つの動詞のうち世界に届くのは声だけで、島はそれに一度ずつしか応えない。応え方の設計を惜しんだ作品だが、応えられる島を作った手つきは残る。

RiME のスクリーンショットRiME(Steam スクリーンショット)

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