REVIEW · 2015-07-09
The Magic Circle
作りかけのゲームを書き換えて出ていく — レビュー群を読む
第一印象
Steam のラベルは「非常に好評」。1,502 件のうち 1,389 件が肯定で 92% だ(2026-09-12 時点)。英語だけで数えても 1,290 件中 1,189 件、やはり 92% になる。言語で割っても景色が変わらない、素直な集計である。
面白いのは、残り一割の否定側が何を書いているかがほとんど一致している点だ。値段と長さである。最も多く支持された否定票(273 票)は、何も考えずに四時間で終わってしまう、それでこの値段は高い、と書いている。
一方、最も多く支持された肯定票(890 票)は、ゲームの中身をほとんど語っていない。終盤で進行不能のバグに当たり、開発者が数分で返事をよこして一時間で直した、という話だけで票を集めている。
この二票が並んでいる時点で、この作品が何を売っているのかは見当がつく。二十年たっても完成しないファンタジーゲームの中に、主人公は閉じ込められている。題材が「作りかけ」そのものなのだ。
The Magic Circle のゲーム画面(Steam ストアページ掲載 1 枚目・Steam スクリーンショット)
メカニクスの言語化
与えられた動詞は二つしかない。捕まえる。付け替える。敵や物が持っている振る舞いを奪い、別の対象に貼り付ける。レビューの言い方を借りれば、足の無い犬に炎を吐かせ、鍵に飛行を与える、という操作である。
肯定側が繰り返すのは「解法が一つではない」という点だ。同じ扉の前で、人によってまったく違う道具ができあがる。Puzzlebyrinth の言い方をすれば、作者が組み合わせ爆発を潰さずに残した、ということになる。
Baba Is You も書き換えを動詞にするが、あちらは盤面ごとに正解が決まっていて、爆発は厳しく刈り込まれている。本作は刈り込まない。編集の自由を残したまま、扉が開く条件のほうを緩くした。
だからレビュー欄に「自分が何を作ったか」の報告が並ぶ。炎を吐く鍵、足の無い自己嫌悪の犬、プロペラを生やしたキノコの魔法使い。この作品が遊び手に残したいのは、解法の記憶ではなく組み合わせの記憶のほうだ。
The Magic Circle のゲーム画面(Steam ストアページ掲載 2 枚目・Steam スクリーンショット)
ゲームデザインの工夫
自由に編集できる系には、はっきりした代償がある。作者が難しさを置けなくなることだ。抜け道を塞げば自由が減り、自由を残せば手応えが消える。否定側の「歯応えが無い」という指摘は、この構造から素直に出ている。
作り手はそれを分かっていたらしく、抵抗を別の場所へ移している。主人公は最初、何も奪えない。奪う力を手に入れる順番と、世界のどこが未完成なのかを見つける観察のほうに負荷が置かれている。詰まらせる代わりに、探させる設計だ。
入り口が固いという指摘は、肯定側からも出ている。序盤の会話がぎこちない、というものだ。編集の面白さに触るまでに、風刺の語りを一定量聞かされる構造になっていて、そこで降りた人が否定票の短いほうに混じっている。
終盤については「マリオメーカーになってしまう」という否定票があった。編集の自由が最大まで開くのが最後なので、遊びの性質が途中で変わって見える。減算で始めた作品が、最後に加算で終わる形になっている。
The Magic Circle のゲーム画面(Steam ストアページ掲載 3 枚目・Steam スクリーンショット)
物語の手触り
評価をいちばん割っているのは、実は風刺の中身だ。完成しない作品の監督が、自分の理想を守るために出演者を作り替え続ける、という筋である。声の演技は両陣営とも褒めていて、そこは争点になっていない。
否定側が嫌うのは語り口のほうだ。終始、苦々しくて意地が悪い。ゲーム作りへの熱意を語るはずの作品が、その熱意を嘲笑っている。台詞が芝居がかっていて置いていかれた。おおむねこの三つに整理できる。
面白いのは recent 順に読んだときの変化である。2025 年に書かれた肯定票のひとつは、本作を「2010 年代前半の大作ゲーム文化への論評」として扱い、もう当時ほど刺さらないが記録としては読む価値がある、と書いている。風刺の射程が時間で縮んでいる。
Pony Island や There Is No Game: Wrong Dimension がゲームという形式そのものをからかうのに対し、本作は実在する制作現場の振る舞いを撃っている。標的が具体的なぶん、古びるのも早い。
The Magic Circle のゲーム画面(Steam ストアページ掲載 4 枚目・Steam スクリーンショット)
難しさの手触り
難しさが低いことは、賛否のどちらも認めている。争っているのは、それが欠点かどうかだけだ。
否定側の言い分は具体的である。四時間で終わる。二十ドルは高い。実況を見れば足りる。読んだ範囲でプレイ時間は二時間から九時間に散っていて、中央値はおよそ五時間前後だった。
難しさを三つに分けるなら、推論が届かない難しさ、手が届かない難しさ、探し物が見つからない難しさ、になる。本作にあるのは三つ目だけだ。編集の材料がどこにあるかを探す負荷であって、盤面の前で止まる負荷ではない。
肯定票のひとつが Antichamber を引き合いに出しているが、あちらは詰まらせる作品で、こちらは詰まらせない作品である。同じ棚に置くと期待がずれる。似ているのは「常識が通じない空間に放り込まれる」という入り口の手触りだけだ。
The Magic Circle のゲーム画面(Steam ストアページ掲載 5 枚目・Steam スクリーンショット)
参照したレビュー群
本記事は 2026-09-12 時点での Steam ストアページのユーザーレビュー群を読んで書いた。レビュー本文の直接引用はせず、典型的な主張を再構成している。
・Steam: The Magic Circle(非常に好評 / Very Positive、全言語 1,502 件中 1,389 件 = 92%。英語のみでは 1,290 件中 1,189 件 = 92%)
・helpful 順の肯定レビュー上位 10 件、否定レビュー上位 10 件、recent 順の上位 8 件(いずれも英語)を読了した。
・開発元・発行元・配信日・ストア説明文・スクリーンショットの URL は、Steam の appdetails API(2026-09-12 取得)を参照した。制作者の経歴(Thief / BioShock)はレビュー中の言及に基づくもので、一次資料での裏取りはしていない。
結論
私の評点は 7.6 だ。Steam の 92% より辛いのは、遊びとしての抵抗が薄いからである。編集の自由と難しさは、同じ盤の上に両立しにくい。作者はそれを承知で自由を取った。
ただし本作が残したものは、難しさの側にはない。振る舞いを剥がして貼り付ける、という編集そのものを動詞に据えたこと。そして正解を一つに絞らなかったこと。この二つは、いま遊んでも十分に効く。
向くのは、ゲームがどう作られるかに興味がある人、そして自分で妙な物を組み立てて笑える人だ。所要はおおむね五時間前後。セール時に買えという助言はレビュー群の通奏低音で、値段の話は十年たった今でも有効だと思う。
向かないのは、詰まる手応えを求める人と、皮肉の語り口が苦手な人だろう。そして 2015 年当時の大作ゲーム事情に興味が無ければ、風刺の半分は素通りする。それは作品の劣化ではなく、標的を具体的に決めた作品が必ず払う代金である。
The Magic Circle のゲーム画面(Steam ストアページ掲載 6 枚目・Steam スクリーンショット)
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