REVIEW · 2020-08-06

There Is No Game: Wrong Dimension

ヒントを断れない設計——598 件の否定が全部おなじ場所を指している

Steam store ↗

第一印象

Steam のレビューは 26,062 件あり、そのうち 25,464 件が肯定だ。97.7% で「圧倒的に好評」(2026-09-09 時点)。数字だけ見れば、議論の余地がないように見える。

ところが helpful 順に肯定側を開くと、様子がおかしい。上位の半分近くが「レビューは無い」「ここには何も無い」と、作品の口調をまねた冗談で書かれている。批評の器そのものが作品に乗っ取られている。高い点が付いているのはわかるが、何を評価したのかは読み取りにくい。

対照的に、598 件しかない否定側は驚くほど揃っている。helpful 上位 10 件のうち 9 件が、同じ一点を指していた。案内役がしゃべりすぎる、という不満である。

つまりこの作品の評価は「面白いかどうか」では割れていない。割れているのは、常時ついてくる案内役をどう受け取るかだ。設計として読む価値があるのは、そこだと私は考える。

There Is No Game: Wrong Dimension のスクリーンショット『There Is No Game: Wrong Dimension』のプレイ画面(Steam スクリーンショット)

メカニクスの言語化

肯定側が繰り返す語は creative、clever、meta、そして think outside the box だ。褒め言葉としては漠然としている。何を指しているのかを、こちらで言い直す必要がある。

指されているのは、動詞の置き場所だと私は読む。ふつうのパズルは、盤面の内側にコマがあり、プレイヤーは盤面を操作する。この作品は盤面をひとつ外側にずらした。タイトル画面、ロードバー、メニュー、そしてカーソル自身が、動かす対象になる。

プレイヤーが持つ動詞は「クリックする」と「つまんで動かす」の二つしかない。減算は徹底している。増えていくのは名詞の側だ。ふつうのパズルが動詞を絞って盤面を増やすのに対し、この作品は盤面の定義そのものを増やしていく。

だから要求されるのは推理よりも観察解像度である。画面の隅、ふだん見ない部品を見る癖が付いた人ほど早く進む。Pony IslandInscryption と同じ棚に置ける発明だ。

There Is No Game: Wrong Dimension のスクリーンショットSteam ストアに掲載されたプレイ画面(Steam スクリーンショット)

学習曲線の設計

否定側の中心はほぼ一点に集まる。案内役の声だ。「解いている最中に答えを言われる」「自分のジョークを自分で説明する」「満足を吸い取っていく」。表現は違っても、指している場所は同じである。

厄介なのは、肯定側が褒めているのも同じ声だという点だ。演技、掛け合い、終盤の情感。肯定側にとって、この声は作品の主役そのものである。同じ部品が、片方では魅力、もう片方では欠点になっている。

設計として見ると、この作品ではヒント層と娯楽層が同じ物体でできている。案内役は攻略の補助であり、同時に登場人物でもある。だからヒントだけを切ることができない。設定で黙らせれば、物語も一緒に消える。

結果として学習曲線はほとんど水平に均される。詰まる時間が生まれる前に先回りされるからだ。これは失敗ではなく選択だと私は読む。喜劇のテンポを守るために、詰まりを設計から追い出したのだ。

そのぶん射程は狭くなる。笑いと驚きを求めて来た人には正しく届き、詰まって解けた瞬間を報酬と考える人からは報酬そのものが消える。どちらの読み方も誤読ではない。

There Is No Game: Wrong Dimension のスクリーンショット本作のプレイ画面のひとつ(Steam スクリーンショット)

テンポと尺

否定側の第二の柱は、飛ばせない演出である。drag、slog、flow-breaking といった語が並ぶ。ある一件は「尺を五割ほど水増ししている」とまで書いていた。

構造を見ると理由がわかる。本作は章ごとに別ジャンルのパロディを仕掛ける。否定側の複数が「最初の二、三章が最良で、その後は落ちる」と同じ形で書いていた。肯定側の一部も「少し長居しすぎる」とは認めている。

ここにはパロディという形式の構造的な弱みがある。退屈なものを笑うには、退屈さを一度こちらに再現して見せなければならない。再現が長いほど、笑いより疲労が残る。ある否定レビューの「馬鹿にしている当の体験を、こちらにやらせてくる」という一文は、この構造を正確に突いている。

尺そのものは長大ではない。レビューの playtime の中央値はおよそ 5 時間半で、ストアの記載ともほぼ一致する。Please, Don't Touch Anything のような小品と比べれば、笑いを一定の密度で保つには長い部類だ。

There Is No Game: Wrong Dimension のスクリーンショットSteam ストアに掲載されたプレイ画面(Steam スクリーンショット)

参照したレビュー群

本記事は 2026-09-09 時点の Steam ストアページのユーザーレビュー群を読んで書いた。レビュー本文の直接引用はせず、繰り返される主張を再構成している。

Steam: There Is No Game: Wrong Dimension(圧倒的に好評、26,062 件中 25,464 件が肯定 = 97.7%)

・helpful 順の positive 上位 10 件、negative 上位 10 件、recent 上位 8 件の計 28 件を WebFetch で読了

Wikipedia: There Is No Game: Wrong Dimension(原型となったゲームジャム作品、制作体制、Metacritic の集計)

・画像について: 今回の実行環境では Steam の画像配信サーバーに到達できず、掲載した画像を開いて中身を確認することができなかった。そのためキャプションは、写っているものを特定しない汎用的な表記に留めている。

結論

専門メディアの集計は Metacritic で 89(PC)と発表されている。プロの評価軸は驚きと笑いに寄っていた。一方、ユーザー側の不満は、5 時間付き合わないと表に出てこない層——ヒントの押し売りと、飛ばせない演出——に集中している。短い試遊では見えない種類の不満だと言える。

出自も効いている。本作は 2015 年のゲームジャム作品を原型とし、そこから長編化されたと発表されている。十数分の小品を 5 時間へ伸ばしたという経緯は、否定側が使う「水増し」という語と、悔しいほどきれいに重なる。

私は 8.0 を付ける。Steam の 97.7% より低い。理由は一つだけで、ヒントを断る手段が用意されていないことだ。盤面の定義をずらす発明は本物で、そこは OneShot と同じく、画面の外側を触らせる設計として長く参照されるだろう。ただ、その発明の面白さを味わう速度を、プレイヤー側が決められない。

勧める相手ははっきりしている。笑いと驚きを求める人、画面の仕組みそのものをいじる感触が好きな人。勧めない相手もはっきりしている。詰まって、悩んで、自分で抜ける時間を報酬と考える人だ。この作品は、その時間を意図的に取り除いてある。

There Is No Game: Wrong Dimension のスクリーンショット本作のプレイ画面のひとつ(Steam スクリーンショット)

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