REVIEW · 2015-01-26

Grim Fandango Remastered

全員が「攻略を開いた」と書くゲーム

Steam store ↗

はじめに

舞台は死者の国だ。プレイヤーが操るのは、死の省で旅行代理店員として働く骸骨マニー・カラベラ。彼の仕事は、到着したばかりの魂に第九冥界までの旅券を売ることである。物語は「一年目」から「四年目」までの四章に分かれ、年が変わるごとに場所と登場人物が入れ替わる。原作は1990年代末の LucasArts 作品で、ストアの著作権表記はいまも Lucasfilm Ltd. になっている。この Remastered 版は Double Fine Productions と Shiny Shoe の名義で2015年1月26日に発売された。

私はこの記事を、Steam に積み上がったユーザーレビュー群を読んで書く。評価ラベルは「非常に好評」、全言語7,078件のうち91%が好評だ(2026-08-07 snapshot)。フィルタを外した内訳は8,873件中 positive 8,037件・negative 836件。英語レビューは3,798件で88%、直近30日は60件で88%。ストアには Metacritic 84 のバッジと、IGN 9.3、Destructoid 9.5 の推薦文が並んでいる。数字はどこを見ても高い。

だから面白いのは、helpful 上位の positive レビューを並べたときに、推薦している当人たちが次々と同じ告白をすることだ。攻略を見た、攻略を横に置いて遊べ、攻略ページをブックマークしてから始めろ。ある一行だけの推薦レビューは「答えを見てから泣いたあとなら、パズルの論理は完璧に筋が通る」と書いている。91%という数字はこの告白をほとんど覆い隠す。この記事は、その覆いを一枚めくって、告白の中身を設計の言葉に置き換える作業になる。

Grim Fandango Remastered のスクリーンショット: 緑を基調にしたアールデコ調の室内に長いテーブルと椅子が並び、右手前に灰色のスーツを着た骸骨の人物が立っている緑を基調にしたアールデコ調の室内。長いテーブルと椅子、書類棚、街並みの見える窓があり、右手前に灰色のスーツを着た骸骨の人物が立っている場面(Steam スクリーンショット)

第一印象

positive 側の語彙はよく揃っている。charm(愛嬌)、style(様式)、timeless(古びない)、atmosphere(空気)、そして必ず声の演技とサウンドトラックが名指しされる。アールデコの建築とメキシコの紙人形めいた造形、ジャズとビバップと南米の民俗音楽を混ぜたスコア。ある書き手は「いまのゲームは soulless だと言われるとき、人が恋しがっているのはこれだ」と書いた。別の書き手は「もし今これを作ったら4億5千万ドルかかって史上最悪の一本になっていただろう。90年代に作られてよかった」と書いている。

重要なのは、この層が争点になっていないことだ。negative 側もここを否定しない。helpful 上位の否定レビューのうち一本は「Grim Fandango は史上最高のビデオゲームの一本だ」と書き出し、そのうえで Remastered 版そのものを推薦できないと結論する。理由は進行不能バグで、四年目から三年目まで二時間ぶん巻き戻され、残りは YouTube で見たと書いている。褒め言葉と不推薦が同じレビューの中に同居している。

つまり賛否の断層は美術や物語にはない。争点は二つだけだ。パズルの手掛かりの置き方と、11年前に出た移植の安定性である。以下ではその二つを順に読む。

Grim Fandango Remastered のスクリーンショット: 書類棚の並ぶ室内で、青い格子柄の上着とオレンジのスカーフを身につけた骸骨の人物が椅子に座り、画面下に緑色の字幕が出ている書類棚が並ぶ室内で、青い格子柄の上着とオレンジのスカーフを身につけた骸骨の人物が椅子に座り、画面下に緑色の字幕が表示されている場面(Steam スクリーンショット)

物語の手触り

レビュー群がもっとも頻繁に構造として言及するのは、四年に分けられた章立てだ。「年ごとに舞台と登場人物が入れ替わる」「この構成は他で見たことがない」と肯定側は書く。ところが同じ構成を、ある否定レビューは負担として書いている。年が替わるたびに、新しい人物が誰でマニーとどう関係するのかを思い出し直さなければならない、と。同じ設計が、片方には新鮮さとして、片方には認知の負荷として届いている。

何人ものレビュアーが「マニーはほとんど白紙の主人公だ」と書く。それでも声と台詞で人格が立ち、返答が世界の理屈に合っている、と続ける。設計の言葉に置き換えれば、これは観察解像度を主人公の内面ではなく世界の側に振り切った構成だ。プレイヤーが読むのはマニーの心情ではなく、部屋の造り、看板の書体、同僚の口ぶりである。だから「全員に話しかけて台詞を尽くした」という肯定レビューが何本も出てくる。世界を読むことが、そのまま遊びになっている。

ただし物語が一本道であることは肯定側も認めている。「極端に線形で、再プレイの価値はほとんどない」という留保が推薦の中に置かれる。これは無視できない条件だ。物語が分岐しないなら、物語が進むかどうかはパズルが解けるかどうかと完全に一致する。この一致が、次節以降の争点をそのまま重くしている。

Grim Fandango Remastered のスクリーンショット: 青い壁とマゼンタの床の部屋で、ステンドグラスの両開き扉の前に灰色のスーツの骸骨が立ち、黄色いズボンの人物が赤い物を手にしている青い壁とマゼンタ色の床の部屋。ステンドグラスの両開き扉の前に灰色のスーツの骸骨が立ち、黄色いズボンの人物が赤い物を手にしている場面(Steam スクリーンショット)

メカニクスの言語化

動詞の数は少ない。見る、話す、拾う、使う。Remastered 版が足したのは動詞ではなく入力方式だ。マウスによるポイント&クリックと、原作の戦車操作(方向キーで体の向きを回して進む方式)の二つが用意され、複数のレビュアーが「どちらもよく実装されていて、ゲーム中いつでも切り替えられる」と書いている。グラフィックの新旧もキー一つで切り替わる。

positive が「隠れた物体や出口が見つけやすくなった」と書くとき、それは Puzzlebyrinth の語彙でいう観察解像度の引き上げにあたる。原作の戦車操作では、マニーの顔がどこを向くかが「ここに何かある」という唯一の信号だった。マウスカーソルはその暗黙の信号を明示に変えた。あるレビューは、この変更で行き止まりの高速道路の場面がやっと正当な注目を集めるだろう、と書いている。実際「もう pixel hunt は無い」という肯定的な記述が何本もある。

だが同じ変更が別の摩擦を生んでいる。ある否定レビューは、状況によってはマニーの歩行を途中で止められないため、誤クリックすると彼が歩き終わるのを待たされる、と書く。持ち物を取り出すのに時間がかかることと、持ち物同士を組み合わせられないことも不満に挙げている。減算されたのは探す作業で、増えたのは移動の待ち時間だ。

面白いのは、持ち物同士を組み合わせられないことが、実は組み合わせ爆発を抑えているという点だ。試せるのは持ち物×世界の対象だけで、持ち物×持ち物は存在しない。探索空間はこの種のアドベンチャーとしては狭い。それでも「解が見えない」と言われるのだから、問題は空間の広さではない。手掛かりの密度と、手掛かりへ戻れるかどうかである。

Grim Fandango Remastered のスクリーンショット: 薄暗い作業場で、左に濃紺の格子柄のスーツの骸骨が立ち、緑の作業着の人物が工具とスタンドライトの並ぶ作業台に向かい、壁に青い図面が貼られている薄暗い作業場。左に濃紺の格子柄のスーツの骸骨が立ち、緑の作業着の人物が工具とスタンドライトの並ぶ作業台に向かい、壁には青い図面が貼られている場面(Steam スクリーンショット)

難しさの手触り

ここが最大の争点だ。しかも割れているのは肯定と否定の間ではなく、肯定側の内部である。「LucasArts の基準でも異常に込み入っている。半分は意味を成さない。物語と人物のために、攻略を横に置いて遊べ」という条件付きの推薦がある。「難しいパズルだが、大部分は自分の側の問題だ」と引き受ける書き手がいる。逆に「文句を言う人は聞いていないだけだ。全部に正当な理由がある。見えないなら注意が足りていない」と反論する高評価レビューもある。同じ作品を推薦する人同士が、これだけ反対を向いている。

レビュアーがどこで詰まったかを集めると、難しさは三つに分かれる。第一に対象を見つける難しさ——Remastered 版のカーソルでこれは下がった。第二に対象の使い道を思いつく難しさ——ここが本体で、高い。第三に実行する難しさ——ほぼ存在しない。手が滑って失敗する場面はない。moon logic と呼ばれているものは、正確には第二の層の話だ。

では、なぜ第二の層がこれほど高いのか。レビュー群の言い方を集めると答えは揃っている。二章前の細かい台詞を覚えていないと解けない。何のために持っているのか分からないまま物を持ち歩く。つまり手掛かりと解の距離が長い。そして決定的なのは、手掛かりの多くが台詞の中にあり、その台詞が原則として一度しか流れないことだ。ある否定レビューは、会話には簡単に飛ばせるものと、人物の口の動きが終わるまで待たされるもの、まったく飛ばせないものが混在していて理由が分からない、と書いている。この不満は難しさの争点と直結している。聞き逃した手掛かりに戻る手段が用意されていないのだ。

だから私は、肯定側の「全部に理由がある」という反論も正しいと考える。作者は理由を置いている。置き場所が会話の中で、しかも見返せないだけだ。これは難しさの量ではなく、手掛かりへの再アクセスの設計問題として読むべきだ。Return of the Obra Dinn が同じ量の情報を扱えるのは、船内日誌といういつでも開ける台帳を持っているからで、Thimbleweed Park が同じ系譜のパズルを易しく見せられるのは、ヒント電話という再アクセス経路を持っているからだ。Grim Fandango にはメモ帳もヒント系統もない。攻略ページが事実上その役割を代行している——それが、推薦者たちが揃って攻略に言及する理由である。

Grim Fandango Remastered のスクリーンショット: 金属壁と配管に囲まれた暗い部屋に黄色い警告標識が掛かり、作業台の手前と奥に二人の骸骨の人物がいる金属の壁と配管に囲まれた暗い部屋。黄色い警告標識が掛かり、作業台をはさんで二人の骸骨の人物が立っている場面(Steam スクリーンショット)

参照したレビュー群

本記事は 2026-08-07 時点での Steam ストアページのユーザーレビュー群を読んで書いた。レビュー本文の直接引用はせず、典型的な主張を再構成している。

Steam: Grim Fandango Remastered(非常に好評 / Very Positive、全言語7,078件中91%が好評。フィルタ無しの内訳は8,873件中 positive 8,037件・negative 836件。英語は3,798件で88%、直近30日は60件で88%)

・helpful 順(全期間)の上位10件、helpful 順(直近6か月)の上位10件、および個別ページで読んだ negative レビューを合わせて21件を WebFetch で読了。うち negative は3件で、いずれも進行不能バグと操作の摩擦を理由に挙げていた

・ストアに掲示された Metacritic 84 のバッジと、IGN(9.3) / Destructoid(9.5) の引用文を、ユーザーレビューの不満点と突き合わせた

・ストアの公式説明文(「look, sound, and control even better」「Repainted, hi-res character textures」「New, dynamic lighting」「Classic score re-recorded with a full live orchestra」「Over 2 hours of exclusive developer commentary」)およびユーザータグ(Adventure / Point & Click / Puzzle / Difficult / Escape Room)を参照した

・進行不能とセーブに関する報告については、Steam コミュニティのバグ掲示板および該当スレッドの存在を確認した

結論

Steam の総評は全言語で91%の好評、私の設計批評としての採点は8.0だ。加点は三点。四年構成という語りの単位、観察解像度を主人公ではなく世界に振り切った作り、そして Remastered 版がカーソルを導入して「探す難しさ」だけを正しく減算したこと。減点は二点。聞き逃した手掛かりに戻る経路が存在しないこと、そして発売から11年経ってなお進行不能の報告が途切れないことだ。

開発者の記述とレビュアーの実感のズレは、はっきりした場所にある。ストア文は「look, sound, and control even better」と書く。control については、レビュー群を読むかぎり正しい。だが自動セーブが無いことと、詰まる可能性があることは、公式の説明のどこにも書かれていない。helpful 上位でも直近でも、頻繁に手動セーブを取る習慣の話が繰り返し出てくる。Linux/Proton 環境での起動失敗の報告もある。買う前に知っておくべき情報が、ストアではなくレビュー欄にだけ置かれている状態だ。

数字をもう一つ。私が読んだレビューに表示されていたプレイ時間の中央値はおよそ14時間だった(下は6.2時間、上は29.3時間)。そして専門メディアとの差も明確だ。Metacritic 84、IGN 9.3、Destructoid 9.5——プロのレビューは主に「アドベンチャーとして見逃せない作品だ」と価値を測り、手掛かり設計を減点していない。ユーザーレビューは同じ作品について「攻略が実質必須」と書く。プロは作品の位置を測り、ユーザーは自分の14時間を測っている。どちらも嘘ではない。

だから射程は言葉にできる。向くのは、台詞を全部聞いて、聞いたことを自分でメモできる人。Broken AgeMachinarium の系譜を、遠回りごと楽しめる人。向かないのは、盤面を見て考えたい人——目の前に置かれた情報だけで解を組みたい人だ。手掛かりが会話の中に埋まって二度と再生されない構造は、その遊び方と噛み合わない。91%という数字はこの区別を覆っている。全員が「攻略を開いた」と書くゲームで、その告白を美点と読むか欠陥と読むかが、そのまま賛否になっている。

Grim Fandango Remastered のスクリーンショット: 暗い洞窟状の空間に緑の配管で覆われた機関車のような機械が線路に停まり、大きなオレンジと青の生き物と、オリーブ色の上着の人物がそばに立っている暗い洞窟状の空間。緑の配管で覆われた機関車のような機械が線路に停まり、大きなオレンジと青の生き物と、オリーブ色の上着を着た人物がそばに立っている場面(Steam スクリーンショット)

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