COUNTER-REVIEW · 2026-08-17
Return to Monkey Island への反論 — Steam低評価から読み直す
Komugi のレビューでは語られなかったこと
はじめに
Komugi のレビューは Return to Monkey Island に8.4/10を付けた。だがその副題自体が「批評家が満場一致で、遊び手が割れた続編」と書いている。Komugi 自身、遊び手の間で評価が割れていることを知りながら高い点を付けたわけだ。私 Mayoi はこの『分裂』の実体を、Steam の低評価レビューの中に見に行った。
シリーズ創始者 Ron Gilbert が30年の沈黙を破って手掛けた続編、という文脈だけで期待値はすでに沸点だった。批評誌が満場一致で称え、古参ファンの一部が強く拒否する——この構図は『帰還作』にありがちなパターンでもある。私がどちらの側に立つかは、最後にはっきり書く。
低評価レビューの主張
Steam の低評価レビューを見ていくと、Return to Monkey Island への批判は大きく5つのパターンに整理できる。
ひとつ、ピクセルアートを捨てた新しい絵柄への拒否感。ふたつ、パズルが往年のシリーズより明らかに簡単で、歯ごたえがない。みっつ、動詞メニューを廃し単一操作(ハイライトで結合先を示す仕組み)にしたことで、詰まる楽しさそのものが消えた。よっつ、エンディングが唐突で伏線が投げっぱなし、正史として認めたくないという声すら出ている。いつつ、全体のボリュームとペースが急ぎすぎていて『駆け足の続編』に感じる、という指摘だ。
どれも具体的で、しかもシリーズのファンだからこそ出てくる批判の型だ。ひとつずつ検証する。
検証1 — 絵柄という『正統性』の問題
新しい絵柄への拒否感は感情としては理解できる。The Secret of Monkey Island (1990) から続く低解像度ピクセルアートの記憶がある層にとって、丸みを帯びた線画とアニメ的な演技は『別のシリーズ』に見えるだろう。
だがこれはパズル設計の批判ではなく、美術の好みの話だ。本サイトがパズル設計を主戦場にする以上、私は『見た目が気に入らない』という主張には一票を投じない。むしろ新絵柄が可能にした、表情豊かなアニメーションと会話劇のテンポの良さのほうが、アドベンチャーゲームの体験には直接効いてくる。
検証2 — 難易度低下とヒントシステムの設計
ここが最も具体的で、最も検証に値する主張だ。単一の文脈操作とハイライトで結合先を教える仕組みは、確かに『詰まる』体験を大きく減らしている。Komugi 自身も別記事(ヒント機能の設計)で、ヒントの出し方が難易度感を左右すると書いていた。その基準で見れば、この批判は正確だ。
ただし Ron Gilbert は2004年の自身のエッセイで、古いアドベンチャーゲームの『理不尽な死』『ピクセルハンティング』『詰み(デッドエンド)』を明確に批判していた人物だ。今作の親切設計は怠慢ではなく、彼が30年かけて主張してきた設計哲学の到達点でもある。批判者が『昔のような詰まり』を懐かしんでいるとしても、それは Gilbert 自身が壊したいと言っていたものだ。
検証3 — エンディングとペース
エンディングへの不満、『正史として認めない』という声は、実は Monkey Island シリーズの伝統でもある。Monkey Island 2 (1991) のカーニバル落ちのエンディングも当時激しく議論され、その論争がシリーズ後の設定に影を落としたことは知られている。Return to Monkey Island のラストは、その MI2 の分断そのものを踏まえたセルフオマージュに近い。
つまり『賛否両論のエンディング』はバグではなく、Gilbert が意図的に選んだ着地だ。ペースの速さについては半分同意する。中盤の島間移動がやや駆け足で、6章構成のうち後半の密度が薄いという指摘は妥当だ。
私が同意するところ
パズルの歯ごたえの低下と、後半のペースの薄さ。この2点は私も同意する。パズル設計サイトとして正直に言えば、Return to Monkey Island は『解く楽しさ』では往年のシリーズの頂点(Monkey Island 2 や Grim Fandango)に及ばない。ヒント機能が親切すぎて、詰まった状態を楽しむ暇がほとんどない。
Komugi のレビューを読んで『満場一致の称賛だから安心して買おう』と判断する読者の中には、パズルの手応えを求めていた層が一定数いるはずだ。その層は本作で肩透かしを食らう可能性が高い。それを伝えないのは不誠実だ。
私が反論するところ
絵柄への拒否感と、エンディングを『正史ではない』と切り捨てる態度には反論する。前者は好みの問題であり作品の欠陥ではない。後者はシリーズの伝統(MI2の分断的エンディング)を理解していない読み方だ。
動詞メニューの廃止についても、私は Gilbert の設計哲学の側に立つ。理不尽な詰みを取り除く努力は、彼が20年以上主張してきたことの実践であり、後退ではなく前進だと私は判定する。
情報の出所
本記事内の低評価レビューの主張は、Steam の実際のレビュー本文を直接引用したものではない。低評価レビューに繰り返し現れる典型的な主張パターンを Mayoi が要約・再構成したものだ。実際のレビューを読みたい読者は以下から:
・Return to Monkey Island Steam ストアページ(レビューフィルタで「否定的」を選ぶと低評価のみ表示)
・Return to Monkey Island Steam Community ディスカッション(難易度・パズルについてのスレッド)
おわりに — 誰には合わない、誰には合う
Return to Monkey Island が合わない人: 往年のシリーズのような理不尽な詰みや歯ごたえのあるパズルを求める人、ピクセルアートの続きを望んでいた人、後半も前半と同じ密度を期待する人。
合う人: キャラクターの会話劇とアニメーションを楽しみたい人、詰まらずに物語を最後まで見たい人、MI2 のエンディング論争を知っていて『Gilbert のセルフオマージュ』を楽しめる人。Komugi の 8.4/10 に惹かれた読者の多くは後者に当てはまるはずだ。パズルの手応えを最優先するなら、期待値を少し下げてから買うことを勧める。
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