REVIEW · 2018-10-18

Return of the Obra Dinn

60人の死、それぞれの一瞬

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第一印象

1ビット風モノクロームの幽霊船 Obra Dinn に乗り込みます。私は保険調査官、5年前に消えたこの船と、60人の乗員乗客の運命を記録する役目を持ちます。

甲板で懐中時計が震えると、目の前で時間が逆回しに巻き戻り、死の瞬間の一枚絵に入り込む。叫び声と銃声。誰がどこにいて、誰を撃ったか。

最初の5-6シーンを見るあいだ、ただ呆然と歩き回ることになります。これは何を観察すべきゲームなのか、初見では分からない。けれど10シーン目あたりで、自分が『顔と声と死因と犯人』の4変数を同時に管理していると気づきます。

メカニクスの言語化

60人の身元と死因を、声・服装・武器・なまり・配置から推理し、台帳に記入します。3人正解で確定、間違いは何度でもやり直せる。

正解判定が3人単位という設計が、確信のない推理にも前進感を与えます。手応えがあるのに、絶対の論理性を要求しない。

得られる情報は『その瞬間の一枚絵』と『その直前の音声』のみ。前後の文脈はプレイヤーが想像で接続するしかなく、その想像こそがパズルそのものです。

このゲームの魅力

凍結された死の瞬間を巡り歩き、声と顔と物を結びつける推理の快感。観察と推論が積層していく、複合観察パズルの極致。

実は Obra Dinn は『情報の総量』をプレイヤーに与えた状態でゲームが始まります。60人分の絵画と名簿が冒頭で開示されている。けれどそれを『誰が誰か』に結びつけるのはプレイヤーの仕事で、これが推理ものの本道と完全に一致しています。証拠は揃っている、足りないのは結びつけだけ。

もう一つの魅力は、3人単位の正解判定が生む独特の手応えです。1人ずつ判定では確信のない推理が止まり、6人単位では運任せに近づく。3人単位という中央値が、『一人は推測でも残りで補正できる』というぎりぎりの安心を提供しています。

ゲームデザインの工夫

1ビット風グラフィックは美意識ではなく、観察の制約装置です。色がないことで、プレイヤーは『服の柄』『武器の影』『立ち位置』だけを情報として残す思い切った減算設計。フォトリアルにしていたら、顔の印象が個別すぎてプレイヤーが憶えきれなかったでしょう。逆にもっと抽象化していたら、人物の特定が不可能になっていた。1ビットという解像度は、観察ゲームの可読性として偶然ではなく必然の選択です。

音声の使い方も特筆すべきで、登場人物のなまりがそのまま証拠になります。スコットランド系、ポーランド系、フランス系、中国系。発音の癖を聞き分けるという、本来ゲームが扱いにくい情報チャネルを、堂々と主要な手がかりとして採用した。これは Lucas Pope 一人だからこそできた、商業的にはリスキーな決断です。

もし私がこれを作るなら、3人正解単位というシステムを諦めて1人ずつにしてしまうと思います。Lucas Pope は『3人単位』を貫いたことで、確信の精度を犠牲にして前進感を選びました。これはミステリーゲームの設計の核心で、推理の論理的純度より、解いている手応えのリズムを優先した判断です。私が同じ題材を作るとしたら、毎晩ここで悩むはずです。

難しさの手触り

10時間で完走、けれど終盤の数人は紙にメモを取らないと特定できませんでした。なまりの聞き分けと帽子の形が、最後の決め手になります。

難所は中盤の集団死シーンで、複数人が同時に死ぬ場面では誰が誰を撃ったかの線引きが極端に難しい。けれど『3人単位』のおかげで、半分の推測で半分は前進できる。設計の懐の深さを終盤で痛感します。

結論

推理ゲームの新しい形を、Lucas Pope は提示しました。これに比肩する作品は、ジャンルの中にまだ多くありません。Her Story の検索ベースに次ぐ、ミステリーゲームの第二の革新と言えます。

制作者として最大の学びは、『情報を全部開示してもパズルは成立する』ことです。普通のミステリーは情報を出し惜しみします。Obra Dinn は逆で、最初から全部見せて『結びつけ』だけを残す。この発想転換は、自分の作品設計にいつか取り入れたい。

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