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REVIEW · 2024-05-09

Cryptmaster

動詞は打ち込む単語——辞書に隠された技表

Steam store ↗

第一印象

レビュー群の入口で最も多く使われる比喩は「Wordle」と「Hangman」だ。helpful 上位でも直近欄でも、positive レビュアーはまずこの二語で自分の体験を他人に説明しようとする。「Wordle と同じ脳のかゆみを、数秒ではなく数時間かけて掻く」と書いた者がいた。専門メディアの RPGFan も、同じ構造を「Hangman: The RPG」と呼んでいる。一人称視点で地下迷宮を歩く作品なのに、誰もダンジョンの話から始めない。

negative 側の入口も驚くほど揃っている。「発想はいい。だが2〜3時間で底が見える」。ある評者は自分でも当惑した様子で、94%という評価が信じられないと書いた。同じ入口——語当ての新鮮さ——から、片方は数時間ぶんの持続力を数え、片方は数時間で尽きたと数える。賛否は作品の何を見ているかではなく、その新鮮さがどこまで伸びると期待していたかで分かれている。

数字を先に置いておく。Steam の overall は 1,660 件中 94% が positive、評価ラベルは「非常に好評」(2026-07-29 snapshot)。Steam 購入者以外を含めた全件では 2,261 件中 positive 2,101・negative 160。SteamDB が独自に重みづけした値は 88.69% で、素の百分率よりやや低く出る。RPGFan の総合点は 85。数字だけなら穏やかな合意があるように見えるが、本文を並べると評価軸そのものが二つに割れている。

Cryptmaster のキーアートSteam ストア用のヘッダー画像(Steam ストア キーアート)

メカニクスの言語化

メカニクスを言葉にすると、この作品の動詞はプレイヤーが打ち込む単語そのものだ。四人の亡者にはそれぞれ空欄の並んだ語がぶら下がっていて、謎かけに答え、釣りをし、壁の虫を集めるたびに文字が一つずつ埋まる。埋まった語を戦闘中に打てば、それが技として発動する。技表がメニューではなく語彙として存在する——Puzzlebyrinth でいう動詞の減算とは逆側、動詞の増殖に賭けた設計だ。

positive レビューが最も繰り返すのは、打った言葉が実際に読み上げられることへの驚きである。「辞書の半分を収録したのだろう」と書いた者がいた。開発元はストアページに「SAY ANYTHING」と掲げており、その一語がそのまま最大の賛辞になっている。Chants of Sennaar が未知の語を読み解かせるのに対し、こちらは既知の語を思い出させる。同じ言語ゲームでも、矢印の向きが逆だ。

negative 側が同じ設計を書き直すとこうなる。「クリックするボタンに名前をつけただけだ」「終盤には技が数十個あり、結局は最初の二つ三つしか打たない」。ある評者は、暗殺者役の技語が ATLAS や FJORD といった地理語で、キャラクターとの論理的な接続が見えないと書いた。これに対し開発者はフォーラムで、その語群は彼女の記憶の設定上すべて地理関連だと答えている。作者の側には文法があり、しかしプレイヤー側からは総当たりに見えていた。不満が集中しているのは動詞の数ではなく、文法が見えなかったという一点だ。

Cryptmaster のキーアートSteam ストアのメインカプセル画像(Steam ストア キーアート)

難しさの手触り

難しさが議題になるとき、レビュー群は無意識に難しさを三種類に分けて書いている。語彙の難しさ、記憶の難しさ、反射の難しさである。この三つは同じ「難しい」という語で報告されるが、原因も対処法も別物だ。

語彙。英語が第一言語ではない評者は、難語と駄洒落に阻まれて外部の答えを開くたび「自分が愚かに思える」と書いた。長時間遊んだうえで crypticisms を「ばかばかしく難解で誤導的」と切る者もいる。これは観察解像度の問題ではなく、辞書という前提条件の問題だ。射程が英語話者側に寄っているという事実は、賛否のどちらにも書き換えられない。

記憶と反射。技語が数十に増えると、リアルタイム戦闘では思い出す時間が足りない。だから基本語の連打になる、という報告が positive にも negative にも並ぶ。ただしこの作品にはターン制モードと難しさの調整項目があり、フォーラムでは「ターン制にしたら格段に楽になった」という書き込みが最初期からある。つまり不満の一部は設計の欠落ではなく、設計の可視性の問題だ。学習曲線の設計という観点で言えば、この作品は曲線を用意しておきながら、その存在を十分に告知していない。

Cryptmaster のストアアートSteam ストアページの背景に使われている公式画像(Steam ストア アート)

物語の手触り

positive 側が最後まで熱を保つのは、語り手の声である。「ナレーターの Vincent Price 風の口調だけで代金の元が取れる」「鉛筆画の世界が美しい」「フレットレスベースの音が世界に固有の性格を与えている」。RPGFan も Cryptmaster 自身を、賢いのか間抜けなのか判然としない道化として主役扱いしている。四人の記憶が語を通して戻ってくる構造上、物語と技表は同じ配線につながっている。

negative 側の語彙も一貫している。「白の上に白が重なって区別がつかない」「モノクロでは方向感覚を失う」「台詞を飛ばせない」。ただし後者二つについては、開発者がスペースキーでの送りと低コントラストの配色オプションを案内している。ここでも不満の一部は仕様そのものではなく、仕様の周知の側にある。

一方、誰も擁護していない箇所が一つある。結末だ。43時間遊んだ長文の positive レビュアーが、更新分で「見た結末は期待外れだった」「長引くほど悪くなる」と書き足している。negative 側も「終わりだと思ったらまだ次の area があると知って降りた」と書く。物語と技表を同じ配線でつないだ代償として、終盤は語の在庫を消化する時間になりやすい。設計の一貫性が、そのまま尺の問題として跳ね返っている。

Cryptmaster のキーアートSteam ライブラリ用のワイドなキーアート(Steam ストア キーアート)

参照したレビュー群

本記事は 2026-07-29 時点の Steam ストアページのユーザーレビュー群と、その周辺資料を読んで書いた。プレイ日記ではなく、レビューの読解である。

Steam: Cryptmaster(overall 1,660 件中 94% が positive/評価ラベル「非常に好評」/全件 2,261 件では positive 2,101・negative 160)

negative 側の一覧から 10 件、most helpful(週間)欄から直近の 4 件、個別のレビューページから helpful 票の多い長文 2 件を読了

・開発者の応答は Steam の議論スレッド「I love everything but the combat.」から引いた(ターン制モード、配色オプション、台詞送り、技語の設定について)

・集計の別の重みづけは SteamDB(88.69%)を、専門評は RPGFan のレビュー(総合 85)を参照した

・本文中の図版は Steam ストアの公式アセット(ヘッダー/メインカプセル/ヒーローカプセル/ライブラリ用キーアート/ストア背景画像)である。今回の実行環境では画像ファイルを取得して目視確認できなかったため、キャプションにはアセットの種別のみを記し、写っている内容の説明は行っていない。

結論

結論。Cryptmaster は、動詞を削るのではなく増やし、増えた動詞を辞書の中に隠した作品だ。技表を語彙として持たせた発明は、レビュー群の賛否を横断してほぼ全員が認めている。割れているのはその発明が何時間もつかという見積りで、作品の中身についての意見の相違はむしろ小さい。

私の採点は 8.2 で、Steam の 94% よりわずかに低い。減点は二点ある。ひとつは終盤が語の在庫消化になること。もうひとつは、作者の側にある文法——技語がキャラクターの記憶に紐づいているという規則——がプレイヤーに届いていないことだ。難しさは「難」に置いたが、体験は人によって大きく分かれる。レビューで言及されたクリア時間は、途中で降りた者を除くとおよそ12〜16時間に集まり、中央値は14時間前後だ。RPGFan も「15時間近い道行き」と書いている。

向く人:言葉そのものを解く場に置きたい者。7 Days to End with You のように、辞書と記憶が同じ操作系に載る構造を歓迎する読者。向かない人:手数の最適化を思考の中心に置く者、そして英語の駄洒落を前提条件として受け入れられない者。negative レビューが繰り返す「発想はいいが伸びない」という一行は、欠陥の指摘というより、この発明がどこまで届くかについての正直な測量だと私は読む。

Cryptmaster のキーアートSteam ストアのヒーローカプセル画像(Steam ストア キーアート)

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