REVIEW · 2024-03-22
4D Golf
四次元は理解できた、ゴルフができない — レビュー群を読む
第一印象
helpful 順で最も票を集めたレビューは、たった二行だ。「四次元が見えるようになり、理解できるようになった。残念ながらミニゴルフは相変わらず下手だ」。205票が付いている。二番目に多いのも骨格は同じで、「四次元のゲームを三次元に射影し、二次元の画面に描いたものを、一次元の脳で理解している」と書いてある。
冗談の形をしているが、この二つは本作の評価構造をほとんど言い切っている。肯定側が繰り返す語は mind-bending、comprehend、visualise、そして teach だ。「解説動画では四次元は分からない、放り込まれるしかない」という趣旨の主張が、言い回しを変えて何度も出てくる。褒められているのは面白さより先に、自分の頭の中が書き換わったという実感である。
では否定側は何を言っているのか。全体で17件しかないので全部読んだ。驚いたのは、彼らも四次元の部分は褒めていることだ。あるレビューはこう書く——四次元の扱いには A+ を付ける、問題はゴルフのほうで、そちらの方が簡単に作れそうなのに、そうなっていない。賛否は四次元をめぐって割れていない。割れているのはゴルフをめぐってだ。
4D Golf のプレイ画面(Steam スクリーンショット)
メカニクスの言語化
レビュー群の説明を集めると、この作品の動詞は二つに整理できる。四つ目の軸に沿って向きを変えること。そして球を打つこと。前者で見る断面を選び、後者で選んだ断面の中を転がす。レビュアーたちは四つ目の軸方向を ana と kata という語で呼んでいて、この用語がそのまま通じている時点で、教えることには成功している。
Puzzlebyrinth の語彙に置き換えると、ここでは四次元が文法ではなく動詞として実装されている。Hyperbolica のレビュー群で否定側が突いていたのは、非ユークリッド空間が背景の規則にとどまり、解に組み込まれない点だった。同じ作者の次作は、そこを正面から直している。向きを変えないと見えない通路がある、というだけで、空間の性質は解の一部になる。
面白いのは、肯定側の長文レビューにある一節だ。遊ぶほどに四次元らしさは薄れ、三次元のゴルフを射影しているだけに感じられてくる、と書いてある。これは不満ではない。学習が終わったという報告だ。観察解像度が上がると、異物は環境に変わる。減算ではなく慣れによって、動詞が一つ背景に沈む。
4D Golf のプレイ画面(Steam スクリーンショット)
学習曲線の設計
肯定側が具体的に褒める箇所は、驚くほど揃っている。最初の数ホールが完全に平らで、実質三次元として遊べること。そこから風車・斜面・砂地といったミニゴルフのお約束が並ぶこと。本作固有の仕掛け——重力の切り替えや大跳躍、氷の路面——が足されるのはその後だという順序である。
つまり、既知の文法を先に置いてから未知の軸を一本足している。四次元を教えるより先に、四次元でないものを十分に教える設計だ。「動画では届かないところに、放り込むだけで届いた」という賛辞は、実際には放り込み方の設計を褒めている。
一方、直近のレビューには冷静な指摘もある。短い時間で複雑すぎる概念を説明しようとしている、ちゃんと説明するなら講義の長さが要るが長すぎても駄目で、完璧な解はない、というものだ。この人は肯定票を入れたうえで、自分でかなり考える必要があったと書き添えている。教え方が良いことと、教わる側の負担が軽いことは別だという区別が、ここにははっきりある。
4D Golf のプレイ画面(Steam スクリーンショット)
難しさの手触り
難しさについての証言は、三種類に分けられる。理解が届かない難しさ。理解は届くが手が届かない難しさ。そして同じことを繰り返す面倒さ。本作について語られているのは、ほぼ後ろの二つだけだ。
「大半のホールはパー前後で回れたのに、Dunes Challenge の最終ホールだけ100打以上オーバーした」。「最終ホールで90打目、進行を捨てずに一度やめさせてほしいので、ホールのスキップかコース途中の保存を付けてほしい」。どちらも肯定票を投じたレビューである。否定側の言い分もほぼ同じ内容で、打力の微調整を何度も要求される、跳ね返りが強すぎて挙動が読めない、と続く。
操作への不満はここに重なる。キーの再割り当てができない、打つ操作と視点操作が同じ入力を使うので打った直後にマウスが動くと台無しになる、コントローラに対応していない。四次元の理解を求める作品で、詰まりの大半が打力と入力に集中しているのは皮肉だが、構造としては筋が通っている。理解のほうは十分に教えられているからだ。
酔いの報告も複数ある。三つ目のコースのグリッド表示で酔って続けられず、切る設定も見つからなかった、という不評が出ている。断面を連続的に動かして見せる以上、避けにくい副作用ではあるだろう。買う前に確かめようがない種類の相性なので、ここは明記しておきたい。
4D Golf のプレイ画面(Steam スクリーンショット)
系譜と位置づけ
空間の性質そのものを主題にした作品は少なくない。Antichamber は空間の非整合を進行の鍵にし、Manifold Garden は無限反復と重力の付け替えを解に組み込んだ。Superliminal は遠近を「掴んで置く」という一個の動詞にまで落としている。
本作の位置は、そのどれとも少し違う。軸を一本増やしたうえで、載せる遊びには最も手垢のついたミニゴルフを選んでいる。レビュー群が「結局ただのゴルフだ」と書くとき、それは欠点の指摘であると同時に、この選択の説明にもなっている。枠が既知であるほど、足された一本の異物性ははっきり見える。ストアのタグに Casual と Mini Golf が並んでいるのは、そういう意味では正直な自己申告だ。
否定側で最も鋭い一件は、作者への注文の形をとっている。エンジンは素晴らしいので作り続けてほしい、ただし企画そのものは書き手と設計者に渡したほうがいい、というものだ。Hyperbolica にも同種の評価が付いていた。同じ指摘が2作続いていることは、記録しておく価値がある。
4D Golf のプレイ画面(Steam スクリーンショット)
参照したレビュー群
本記事は 2026-09-10 時点の Steam ユーザーレビュー群を読んで書いた。レビュー本文の直接引用はせず、繰り返し現れた典型的な主張を再構成している。
・Steam: 4D Golf(圧倒的に好評 / Overwhelmingly Positive。全レビュー803件中、好評786・不評17 = 98%)
・helpful 順の positive 上位10件、negative 上位10件(不評は全17件なので、その大半にあたる)、recent 上位8件を読了。
・AUTOMATON の紹介記事(2024-03-30)。評点付きのレビューではなく紹介記事だが、発売直後の受容(当時「非常に好評」、約200件で97%)を確認するために参照した。
結論
2026-09-10 時点の集計は、全レビュー803件のうち好評786・不評17で98%、ラベルは「圧倒的に好評」。母数は大きくないが、否定の少なさは際立っている。レビューに残るプレイ時間は短い人で4時間台、多くは10〜30時間に散る。コースエディタとワークショップがある作品なので、上のほうは遊び込みの数字だと見ておくのが妥当だろう。
私は8.0を付ける。98%との差は、四次元ではなくゴルフの層に置いている。四次元を動詞にするという難題は、レビュー群の証言を読む限り解けている。そこは疑いようがない。だが打力の微調整、読みにくい跳ね返り、コース途中で保存できないこと、入力を変えられないこと——これらは、理解が届いた人を手前で止める。設計の射程の話ではなく、詰めの話だ。
直近のレビューは短く、そして全部が肯定だった。幾何学パズルとして最良の部類だ、四次元の空間や物体が頭に浮かぶようになった、あなたにもできる。エンジンが公開されたことを喜ぶ声もある。発売から2年半が経って、この作品は「四次元を体験させる装置」として落ち着いたらしい。ゴルフへの不満は、その評価の中では小さく扱われている。Hyperbolica のレビュー群に残っていた「この技術で、今度は遊びに寄せた作品が見たい」という声への回答が、これである。
4D Golf のプレイ画面(Steam スクリーンショット)
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