REVIEW · 2016-12-07
Recursed
鍵の中に部屋、その部屋の中にまた鍵
第一印象
ピクセルアートの小さな部屋に立つ短い棒人間。最初の数面は、鍵を取って扉を開けるだけの2Dパズルに見えます。けれど扉の向こうに同じ部屋がもう一つあり、その部屋の中の鍵が、外側の世界の鍵にもなる、と気づいた瞬間に、画面の中身が一回り深くなりました。
Portia Putnam が2016年に一人で公開した本作は、再帰という数学的概念を、足場とジャンプという素朴な動詞だけで成立させています。Patrick's Parabox の6年前に、同じ概念を別の角度から成立させていたという事実は、メタパズルの系譜を考える上で重要な参照点になります。
見た目はミニマルで、UI は寸詰まりに削られています。けれど数時間遊んだ後、最初の数面に戻ると、自分が見ていた『部屋』の意味が違っていることに気づきます。再帰を理解した後の景色を、設計者は本当によく知っています。
メカニクスの言語化
動詞は『歩く、ジャンプする、物を持つ、扉に入る』の4つだけ。けれど扉の向こうの部屋を、今いる空間に『持ち込める』のが核です。鍵を持ったまま扉に入り、外に出ると、扉そのものが鍵を内包したオブジェクトに変わっている。
Patrick's Parabox の『箱を箱に入れる』が空間の入れ子だとすれば、Recursed の『扉に入る』は時間と空間の両方の入れ子です。同じ扉を何度通っても、その扉を含む状態が次々に積み上がっていく。
終盤は『扉を持ったまま、その扉に入る』というパラドックス級の手順を要求されます。動詞の数は4つのままなのに、組合せ爆発の最終段で、私の手元のメモはほぼ図表になりました。
このゲームの魅力
再帰を素手で動かす感覚が、Patrick's Parabox とはまた別の角度から味わえます。Parabox が空間の入れ子を3Dに展開したのに対し、Recursed は2Dの足場という慣れ親しんだ語彙で再帰を立ち上げた。プログラマー以外にも、より触りやすい入り口を用意しています。
ピクセルアートと環境音楽だけの静かな構成も、思考の純度を保つ装置として機能しています。Stephen's Sausage Roll の島と同じ系統で、装飾を削ることで、考える対象だけを残す。
そして、最終盤の難所群は『これは本当に作者一人で作ったのか』と疑いたくなる調律精度です。再帰ジャンプのループを綺麗に閉じる解は、解いた瞬間に画面の前で声が出ます。
ゲームデザインの工夫
新概念の導入が、章ごとに1つだけというルールを Putnam は厳格に守っています。最初の章は『扉に入る』だけ、次の章で『鍵を扉ごと持つ』、次で『扉の中で時間が独立に進む』。Patrick's Parabox と全く同じ教育の作法で、商業作品としては一人で達成しているのが驚異的です。
Undo は無制限。ジャンプの軌跡を含めて、全状態を一手戻せます。これがなければ再帰パズルは詰みの確認に膨大な時間を要するゲームに化けていたはず。寛容な失敗ペナルティは、抽象概念を扱うパズルの必須条件だと改めて感じます。
もし自分が同じ題材を作るなら、おそらく『扉に色を付けたい誘惑』に負けると思います。Putnam は扉を一種類だけに固定し、その代わりに『扉が何を内包しているか』を変数として深掘りした。動詞ではなく状態を増やす方向。これは Baba Is You が言葉のブロックを増やしたのとは別軸の選択です。
難しさの手触り
10時間で本編、追加チャプターも含めると15時間。中盤までは穏やかですが、第4章あたりから『扉の中で扉を作る』が標準になり、紙のメモが必須になります。
難所は終盤の Recursive Realms と、隠しチャプターの Paradox 系。Sausage Roll 級の重さで、何日も詰まりました。けれど一手解けるごとに視界が開けるリズムは、Putnam の調律の証拠です。
結論
Patrick's Parabox の祖父にあたる作品として、メタパズル史の参照点に置いておくべき一本。再帰を素手で動かす感覚は、本作と Parabox にしかありません。
制作者として真似たいのは、『動詞を増やさず状態を増やす』方向の純度です。Parabox は箱の中の箱、Recursed は扉の中の扉。同じ系譜の中で、Putnam は別の語彙を立てた。系譜の中で自分の場所を切り開く姿勢として、何度でも参照したいと思います。
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