REVIEW · 2014-03-24
Escape Goat 2
賛否は事実で割れていない——同じ「終盤の精度要求」を、肯定側は任意区画へ隔離し、否定側は本編の道の真ん中で踏む
第一印象
数字から始める。Steam の集計は全言語で460件、うち肯定438件、95%で「非常に好評」である(いずれも 2026-09-05 時点)。否定は22件しかない。2014年発売の小規模な作品としては、十分に安定した評価だと言っていい。投稿のペースはすでに間遠で、直近の数本は2024年から2025年にかけて散っている。
読み始めて意外だったのは、肯定側と否定側が同じことを書いていた点だ。終盤はタイミングで死ぬ。操作が浮いている。隠し鍵が見つからない。この三つは、推奨か非推奨かにかかわらず出てくる。符号を隠して並べたら、どちらの列の文章なのか当てられないものがいくつもある。
珍しい形である。賛否はふつう、同じ事実を別々に解釈することで割れる。ここでは事実の解釈にすら大きな争いがない。割れているのは、その事実を作品のどの区画に置くか、という一点だけだ。言い換えれば、評価の分岐点が作品の中ではなく、読み手が持っている地図の上にある。
肯定側は精度の要求を「任意の隠し部屋の話」として脇に置く。否定側は「本編の終盤で踏んだ」と書く。同じ石につまずいて、片方は道の外だったと言い、もう片方は道の真ん中だったと言っている。どちらも嘘はついていない。両者を突き合わせても石の位置は動かず、動くのは道の幅のほうだ。
つまりこのレビュー群が記録しているのは、作品の出来そのものではない。各人が本編とおまけのあいだに引いた線の位置である。線を引いたのは遊び手だが、線を引かせたのは設計のほうだ、というのが本稿の見立てになる。以下、その線がどこで溶けるのかを、機構と操作の側から順に見ていく。
Escape Goat 2 のプレイ画面。Steam ストアページ掲載の1枚目(Steam スクリーンショット)
メカニクスの言語化
動詞は少ない。ヤギは歩いて跳ぶ。相棒のネズミを放つ。ネズミに魔法の帽子を渡すと、ヤギはネズミの位置と入れ替わる。ストアページが挙げる要素も、機械と地形とネズミの三つだけだ。看板の時点で、すでにかなり削ってある。覚えることが少ないぶん、部屋に入ってすぐ考え始められる。
盤面は1部屋1画面である。ストアページは、10のゾーンに100を超える部屋があると書いている。部屋に入った瞬間、必要な情報はすべて画面の中に載っている。隠れた部屋の外に答えは無い。観察解像度でいえば、この作品はほぼ満点を取っている。
ネズミは死なないと明記されている。壁を這い、狭い隙間を抜け、スイッチに乗り、敵を引きつける。ヤギにできないことを丸ごと引き受ける係だ。動詞を一つも増やさずに解の本数だけを増やす装置で、減算の設計としてはかなり上等な部類に入る。
ここまでの骨格は倉庫番系とよく似ている。少ない動詞、閉じた1画面、失敗しても即やり直せる相棒。実際、推奨レビューの一本はこの作品を「一部屋完結型のパズル」と呼び、その一点で気に入ったと書いている。1画面に収まっているから、詰まっても盤面を眺め直すところから再開できる。
違うのは入力だ。倉庫番の1手は1マスで、完全に離散している。この作品の1手には、跳躍の高さと踏み切りの位置とスイッチを踏む瞬間が含まれる。連続量である。この一点が、レビュー群の争点をほぼすべて生んでいる。解けたと思った瞬間が、この作品ではまだ終わりではないのだ。
Escape Goat 2 のプレイ画面。Steam ストアページ掲載の3枚目(Steam スクリーンショット)
操作の手触り
否定側が最も繰り返す一文がある。何をすべきか完全に分かっているのに、それを実行できない、という訴えだ。別の非推奨は、これはパズルゲームである前にプラットフォーマーだ、と書く。もう一本は、アーケード寄りが過ぎてパズルが足りない、とまとめている。
語彙もよく揃っている。浮いている、粋でない、試行錯誤、精密な足場移動。長時間遊んだ非推奨の一本は、ピクセル単位の精度を求めながら操作が浮いていること、スイッチが何を動かしたのか分かりにくいこと、死亡後の待ち時間が長いことを並べて書いている。
注目すべきは、肯定側が同じ語を使っている点だ。最も票を集めた推奨レビューは、タイミング偏重が操作の不安定さを露呈させると書く。別の推奨は、追加ステージがピクセル単位の位置取りと一瞬の入力を要求し、そこでエンジンの限界が見えてしまう、と書いている。
Komugi の語彙に翻訳すると、こうなる。この作品は観察解像度を上限まで上げた一方で、入力解像度をそれに合わせなかった。目に見えているものと、指で再現できるものとのあいだに段差がある。解けたあとに、もう一度べつの技能で解き直す工程が残る。
段差そのものは欠陥ではない。段差を渡ること自体を遊びに据えた作品はいくらでもある。問題は、この作品が段差の存在を前もって名乗っていないことだ。ストアの短い紹介文に書いてあるのは、機械と地形とネズミだけである。タイミングという語はどこにも出てこない。
Escape Goat 2 のプレイ画面。Steam ストアページ掲載の5枚目(Steam スクリーンショット)
難しさの手触り
詰まりの質は、否定側の記述から三つに分けられる。第一は発見の詰まりで、隠し鍵や隠し部屋が見つからないというもの。第二は入力の詰まりで、手順は分かっているのに指が追いつかないというもの。第三は反復の詰まりで、終盤に同じ動作を延々やり直させられるというものだ。
否定22件のうち、第一を主な不満に据えたものはほとんど無い。集中しているのは第二と第三である。終盤で台無しになる良いゲーム、同じことを何も考えずに繰り返すだけ、干し草の山から針を探す、それも空中で。どれも発見ではなく実行についての言葉だ。
肯定側は、むしろ第一の詰まりを楽しんでいる。隠し鍵は驚くほど見つからないと書いた推奨レビューは、それを不満ではなく夏休みの宿題のように語る。同じ人が前作の追加パックをマゾコア的な拷問と呼び、今作の隠し部屋のほうがまだ良いと評価している。
つまり難しさの総量が問題なのではない。難しさの内訳が問題だ。発見の難しさは歓迎され、入力の難しさは課税として受け取られる。同じ「難しい」という一語が、片方では遊びの本体を指し、もう片方では遊びから差し引かれるものを指している。
専門メディアとの食い違いも、この線の上に出る。GameSpot の Britton Peele は7点をつけ、曲線は滑らかで操作は覚えやすいと書いた。一方でレビュー群には急上昇という語が並ぶ。どちらが正しいかではなく、どこまで進んだ人の記述かの違いだと読むほうが筋が通る。
Escape Goat 2 のプレイ画面。Steam ストアページ掲載の7枚目(Steam スクリーンショット)
系譜と位置づけ
近縁と並べると位置がはっきりする。Stephen's Sausage Roll は難しさを全部、発見の側に置いた。入力は完全に離散で、1手は1マスだ。だから分かっているのにできない、という事故が原理的に起こらない。難しさの種類が最後まで入れ替わらない。
Toki Tori 2+ も動詞は二つしかなく、入力への要求は低く抑えられている。一方 Closure は、光と影という発見の層を持ちながら跳躍の精度も要求する。Escape Goat 2 が立っているのは、この Closure 側の系譜だ。
前作との比較は、レビュー群で最も頻出する話題だった。前作は完璧に近かった。磨きは上がったが魔法は戻ってこない。大きくはなったが良くなったとは限らない。ドイツ語の推奨レビューは、前作の学習曲線は心地よかったが今作はすぐに難しくなる、と書いている。
面白いのは、前作の追加パックの扱われ方だ。今作の隠し部屋を擁護する肯定側は、決まってそれを引き合いに出す。前作にも同じ段差はあった。ただしそれは明確に別区画として置かれ、本編を終えた人だけが自分から扉を開けにいく形になっていた。
今作は区画を増やし、地図でつないだ。行き来の自由は増えたが、そのぶん本編と追加の境目が薄くなっている。実績100%は誰のための完走かで扱った線引きの問題が、ここでは設計そのものの問題として現れている。
Escape Goat 2 のプレイ画面。Steam ストアページ掲載の9枚目(Steam スクリーンショット)
参照したレビュー群
本記事は 2026-09-05 時点での Steam ストアページのユーザーレビュー群を読んで書いた。
・Steam: Escape Goat 2(全言語460件中 肯定438件・95%・「非常に好評」)
・helpful 順の positive 上位10件、negative 上位10件(=否定22件のうち上位10件)、最新順12件、日本語3件(日本語レビューは全3件)を読了(計35件、重複を含む)。
・機構と収録量の記述は、Steam ストアページの説明文(機械・地形・死なないネズミ・10ゾーン・100を超える部屋・レベルエディタ)を一次情報として確認した。
・専門メディアとしては GameSpot の Britton Peele による評(7/10)を参照した。
・画像はすべて Steam ストアページ掲載のスクリーンショットで、URL の実在は確認済み。ただし今回の実行環境から画像ファイル本体を取得できなかったため、キャプションは掲載順のみを記し、写っている内容の説明は行っていない。
結論
私はこの作品に 7.8 を付ける。Steam の95%からは一段下げた。減点は一点だけで、それは難しさの量ではない。難しさの種類が途中で入れ替わり、しかもその入れ替わりが事前に告知されていないことだ。つまり、悪いのは坂の高さではなく、坂の途中で競技のほうが変わることだ。
発見の難しさで始まり、終盤で入力の難しさへ移る。看板には機械と地形とネズミしか書いていないので、発見を目当てに来た人は、終わりぎわに別の競技を渡されることになる。否定22件の大半は、この受け渡しの瞬間について書かれている。看板を読み直しても、その予告はどこにも見つからない。
ただし95%という数字のほうも正しい。肯定側の多くは物語部分を数時間で走り抜け、そこで満足して降りている。段差に足を掛けていない人が段差の話をしないのは当然で、この高評価率は作品の出来と、降りる場所の良さの合算だと読むべきだ。
部屋そのものの設計は、いま見ても良い。1画面に必要な情報を全部載せ、死なないネズミという一つの装置だけで解の本数を増やしていく手つきは、動詞を足さない設計の見本になっている。前作から磨きが上がったという肯定側の評価に、私も異存はない。
勧める相手ははっきりしている。物語部分だけを走り抜けるつもりの人には、強く勧める。100%を目指す人には、途中でゲームの種類が変わることを承知したうえで入ってほしい。線を引く場所さえ決めておけば、この作品は約束を破らない。線を決めていない人だけが、終盤で裏切られたと感じることになる。
Escape Goat 2 のプレイ画面。Steam ストアページ掲載の11枚目(Steam スクリーンショット)
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