REVIEW · 2008-10-13
World of Goo
ぷにぷにを積み上げて
第一印象
色とりどりのぷにぷにとした玉が、地面に転がっています。私はそれをドラッグして、隣の玉とつなぐ。3つで三角形、4つで四角形。一つの構造体が立ち上がる。
高所から崖に身を乗り出す塔状のグーバベルが、ふっと崩れる瞬間があります。重力と弾性が、ドラマを生み出す。
2D Boy は Kyle Gabler と Ron Carmel の2人組で、本作は2008年のインディー黎明期を象徴する作品でした。Steam がインディーを取り扱い始めた頃の、最初の代表的成功例の一つです。
メカニクスの言語化
グーボールには種類があり、それぞれ性質が違います。引火するもの、軽いもの、複数回繋げるもの。
毎ステージ、地形と必要なゴールの位置だけが与えられます。残りはプレイヤーの設計次第。
物理エンジンは Box2D ベースで、剛性、重力、摩擦などが正確に計算される。プレイヤーは構造工学の入門書を、遊びながら身体で学ぶことになります。
このゲームの魅力
揺れる構造体の不安定さがそのままドラマになる、絶妙な物理エンジン演出。建築としても、物語としても遊べる。塔が崩れる時の『あー、惜しい』の感情が、毎ステージで何度も湧きます。
そして章ごとに全く違うアートテーマ。お化け屋敷風、機械工場風、宇宙風、雪山風。手描きのアートが章ごとに切り替わり、同じメカニクスで全く違う風景を歩く。Amanita の Machinarium と同じく、アートの濃度が体験全体を持ち上げています。
音楽も特筆すべきで、Kyle Gabler が自作した楽曲が章ごとに固有のテーマを持つ。物理パズルに音楽がここまで効くゲームは、Portal 2 のエンディング曲を除けば、World of Goo が最初の例かもしれません。
ゲームデザインの工夫
『最少使用ボール数』のメタチャレンジで再プレイ性を作る。創意工夫を強制誘発する評価軸です。各ステージにクリア最低本数とは別に、メタチャレンジ用のボーナス目標があり、これを達成しようとすると最初のクリア法を捨てて構造を組み直すことになります。
もう一つの工夫は、ボールの種類の追加速度。新種が出るたびに、その種だけを使うステージが2-3面用意され、その後既存種と混合されます。Patrick's Parabox の章構造と同じ思想で、新概念を一つずつ消化させる学習設計が貫かれています。
もし自分が同じ題材を作るなら、物理エンジンの『甘さ』で必ず迷うはずです。完全に厳密な物理だとプレイヤーがイライラするし、緩すぎると面白くない。2D Boy は中央値を掴み、『現実より少し柔らかい』物理を設定しました。グーボールの粘弾性は、現実の物質よりも遊びがあって、けれど明らかに重力に従う。この調律は、後の物理パズル全般のスタンダードを作りました。
難しさの手触り
8時間で本編、難所はあるが詰まらない設計。お化け屋敷風のチャプターが、特に記憶に残ります。
メタチャレンジは別格で、全ステージで最少ボール数を狙うと2倍の時間がかかる。けれど詰まる類ではなく、『より良い解を探す』時間。創造性のための難しさで、攻略のための難しさではない。
結論
2008年のインディー黎明期を象徴する一本。物理エンジンと愛らしいアートの融合を、これほど高いレベルで達成した例は少ない。Braid、Limbo、Super Meat Boy と並ぶ、当時のインディーシーン代表作の一つで、Steam がインディーを本格的に売り始めた時代の象徴です。
制作者として真似たいのは、『メタチャレンジで再プレイ性を作る』設計です。本編は易しめにし、上級者向けは別目標で逃がす。これは Talos の隠しスターと同じ思想で、層の異なるプレイヤーを一つのゲームに収容する技として、何度でも参考にしたい。物理エンジンを使った作品では、World of Goo の調律は今でもベンチマークです。
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