REVIEW · 2025-04-25
World of Goo 2
「おすすめ」欄が、おすすめしていない
第一印象
World of Goo 2 は物理ビルディングパズルの続編で、Steam 版の配信は 2025年4月25日。開発・発行は 2D BOY と Tomorrow Corporation。動詞は前作と変わらない。黒いグーボールを掴み、既に建っている構造に繋ぎ、橋や塔を伸ばして出口のパイプへ送り込む。全5章、60面以上。評者レビューが出そろったのは 2024年8月で、Steam 版はその約8か月後に届いた。
2026-08-12 時点の集計は、全言語 870 件のうち推奨 761 件・非推奨 109 件で 87%。評価ラベルは「非常に好評」。英語 388 件だけを取れば 85%、簡体字中国語 192 件とロシア語 178 件はどちらも 90% だ。評者側は OpenCritic が19本で 82、Metacritic が 83。数字の上では、ごく順当な佳作の位置にいる。
ところが helpful 順に推奨レビューを並べると、褒め言葉がほとんど出てこない。上位の一件は「Steam に『中』の評価があればよかった」と書き、別の一件は「『まあまあ』を付けられるなら付けたい」と書く。親指は上を向いているのに、本文は不満の列挙で終わる。このレビュー群で最初に目に付くのは、賛否の対立ではなく、推奨欄の内側に生じたねじれのほうだ。
黄緑の空を背に、縞模様の触手を持つ巨大な一つ目の生き物。その前から黒いグーボールの骨組みが右へ伸び、赤い半透明のグーが構造を上へ引っ張っている(Steam スクリーンショット)
メカニクスの言語化
新要素として推奨・非推奨の双方が挙げるのは二つある。新種のグー(伸びる、縮む、爆ぜる、跳ねる)と、流れて溜まる液体だ。液体は前作に無かった連続量で、坂を下り、窪みに溜まり、構造の重心を動かす。非推奨レビューの上位一件も「新しい流体は多くの面に面白いひねりを加えている」と、そこだけは認めている。
ところが同じレビューは次の行で「新種のグーは十分に使われていない」と続ける。Puzzlebyrinth の語彙に置き換えれば、これは動詞が増えたのに文法が増えていない、という指摘だ。種類を足すことは選択肢を足すが、組み合わせ爆発を起こすのは種類そのものではなく、種類同士が干渉する規則のほうである。減算設計の系譜で見た通り、動詞の数と設計の深さは比例しない。
削られた動詞もある。推奨レビューの上位一件は、前作にあったグーを呼び戻す笛が無くなったせいで「遊びがずっと面倒になった」と書いた。呼び戻しは実質的に失敗の巻き戻しに近い機能で、これが無いと置き損ねたグー1個が回収不能な損失になる。減算は正しく効くこともあるが、ここで薄くなったのは 読める失敗 の側だ。
緑と茶の地層を切り開いた面。中央に右向きの矢印看板、左右には三脚に載った漏斗状の一つ目の装置が立ち、黒い液体が黄色い縁の斜面を流れ落ちていく(Steam スクリーンショット)
難しさの手触り
各面には時間・手数・回収数という3種の追加目標が付く。前作は「規定数以上のグーをパイプへ送る」の一本だけだった。推奨側の一件はこの3本立てを「原作からまっすぐ良くなった唯一の点」と評し、非推奨側の一件は「報われないし、数が多すぎる」と評する。同じ仕様が正反対の位置に置かれている。
分岐の原因は、追加目標が難しさの種類を変えてしまうことにある。目標が1つなら、プレイヤーは「解けたか」だけを見ればよい。3つになると、面をクリアしたあとに最適化の問題が残る。ストアがこの作品を「カジュアル」「家族向け」に分類していることを思えば、後者を持ち込まない期待のほうが素直だ。推奨レビューの一件が「この種類のゲームにしては難しすぎるし、報われない」と書くのは、その素直さの表明である。
物理そのものへの言及も割れる。最新順の非推奨レビューには「1作目より構造が柔らかく調整されていて、少し重いだけで崩れる。ボール同士の最長距離も1より短い」という具体的な指摘があった。これが実装通りなら、難しさの一部は思考ではなく手つきの側へ移る。Poly Bridge 系がいつも抱える論点で、崩れる面白さと崩れる理不尽さは、同じパラメータの両側にある。
逆光の砂色の谷。緑のグーで組んだ三角形の骨組みが左の岩から右へ張り出し、その先端に目玉を三つ浮かべた黒い塊がぶら下がっている(Steam スクリーンショット)
系譜と位置づけ
レビュー群で最も票を集める話題は第4章だ。物語と実験的な演出に大きく寄った区間で、非推奨側は「長すぎるし、私が遊びに来たものではない」「初めてスキップ機能を使った」と書く。推奨側にも「あそこは苦行だった」「急に物理パズルが読み物に変わる」と書く者がいる。この章は賛否の境界ではなく、両側に共通する引っかかりになっている。
面白いのは、専門メディアの評価が逆を向いていることだ。Nintendo Life は「風変わりな第4章が、体験を相当な高みへ引き上げる」と書き、Checkpoint Gaming は第4章にこそ新機軸の可能性を見た。GamingTrend は「物語の主題に真っ向から反する区間がある」と留保を付けたが、いずれにせよ評者はこの逸脱を作品の主張として読んでいる。ユーザーレビューは、買った遊びが一時中断されたと読んでいる。
差は評価の単位から来る。評者は作品を一続きの構成として読む。ユーザーレビューは、自分が費やした時間の配分表として書かれる。60面のうち何面が物理パズルだったか、が問題になるのだ。Kyle Gabler の哲学で見た「骨は最小、皮膚は最大」という方針は、第4章では皮膚のほうが厚くなった。その厚さを歓迎するか、骨を返せと言うかで、同じ章の評価が反転する。
青紫に沈んだ屋内。金属トラスの門型フレームの内側に縦長のガラス管が並び、中を黒い液体が垂れている。白い一つ目のグーボールが2つ宙に浮く(Steam スクリーンショット)
参照したレビュー群
本記事は 2026-08-12 時点での Steam ストアページのユーザーレビュー群を読んで書いた。
・Steam: World of Goo 2(全言語 870 件中 推奨 761 件 / 非推奨 109 件、87%、評価ラベル「非常に好評」。英語 388 件は 85%、簡体字中国語 192 件とロシア語 178 件は各 90%)
・helpful 順(全期間・英語)の推奨 12 件と非推奨 12 件、最新順(全言語)8 件を読了。合計 32 件。
・評者側は OpenCritic(19本、平均 82) に集約された講評を参照し、第4章については Nintendo Life・Checkpoint Gaming・GamingTrend の記述を引いた。
結論
続編としての位置づけについて、レビュー群の言い分は一貫している。「新鮮さが無い」「拡張パックのようだ」「第1章はほとんど前作の再放送だ」。レビューが自己申告するプレイ時間は、実質的に遊び通した層で 4〜15 時間、中央値はおよそ 8 時間。2008年の作品が発明した動詞を2025年の作品が引き継いだ以上、驚きが在庫を持たないのは避けようがない。
それでも、私が読んだ限りこの続編の弱点は「新しくない」ことではない。新しく足したもの——液体と新種のグー——を互いに噛み合わせた面を、最後まで作らなかったことだ。推奨レビューの一件が「全部の新要素を混ぜた、もっと複雑で難しい面が見たかった」と書いているのが、いちばん正確な診断だと思う。素材は揃っていて、掛け算がない。
Steam の overall は 87% だが、私は 7.8 点を付ける。前作 World of Goo に 9 点を置いた立場からの差は、発明の有無ではなく掛け算の不在に対するものだ。定価 $29.99 という数字も、非推奨レビューが繰り返し持ち出す論点として書き添えておく。前作を面白がった人には勧められる。ただし あの音楽の続きを期待して買う人は、レビュー群に並ぶ「焼き直し」という評を先に読んでおくといい。
雲の浮かぶ青空と草地。黒いグーボールを三角形に組んだ大きな骨組みが地面に立ち、手前の草地には黒いグーボールが並んでいる(Steam スクリーンショット)
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