REVIEW · 2025-09-17

Strange Antiquities

観察の解像度を上げた続編を、Steam レビュー 95% の内側から読む

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はじめに

湖のほとりの町アンダーミアで、オカルト骨董を扱う店の臨時の店主になる。棚には正体の分からない品が並び、日々やってくる客は「悪夢を遠ざけたい」「耳をよくしたい」といった困りごとだけを置いていく。品を手に取り、色と材質、手触り、匂いと音、そして内的知覚という四つの調べ方で情報を集め、数冊の図鑑と照らし合わせて正体を突き止め、これだと思うものを客の手に渡す。2025年9月17日に発売、英国の Bad Viking が制作し、Iceberg Interactive が発売した。

私はこの記事を、Steam に積み上がったユーザーレビュー群を読んで書いている。2026-08-08 時点の snapshot では、全言語で 3,177 件を集めて「圧倒的に好評」、英語レビューは 2,256 件中 95% が好評、直近30日の 122 件も同じく 95% が好評だ。全レビュー 3,443 件の内訳は好評 3,285・不評 158。Metacritic は 81、PC Gamer は 80 点を付けている。数字だけ見れば議論の余地がないように見える。

だが 95% の内側は、思ったより騒がしい。前作 Strange Horticulture についてはすでに書いたが、今回はその続きというより、「同じ設計判断を、賛成側と反対側がそれぞれ何と呼んでいるか」を読む作業になる。手がかりの曖昧さ、参照する本の増加、罰の軽さ——争点はほぼこの三つに集中している。

Strange Antiquities のスクリーンショット: 骨董が並ぶ店内と、店主 Eli White の対話ウィンドウ、カウンターに座る猫店主 Eli White が「しぶしぶだが店を君に預ける」と告げる場面。棚には骨董が並び、カウンターには猫が座っている(Steam スクリーンショット)

第一印象

helpful 上位の positive レビューを並べると、語彙がよく揃う。cozy と gloomy が同じ文に同居し、雨音、ろうそく、紅茶、そして猫の Jupiter が繰り返し出てくる。ある英語レビューは、この遊びを「宝石商の仕事」に喩えていた——ひとり机に向かい、拡大鏡を手に、目の前の小さな一点にだけ光を当てる感触のことだ。日本語側では「正統進化」という言い方が定型になっていて、図鑑の逆引き索引や探索の待ち時間の削除といった QoL 改善が具体的に挙がる。

negative 側の語彙も、同じくらい揃っている。vague、nebulous、moon logic、tedious。日本語だと「総当たり」「不親切」。そして繰り返し現れるのが「自分が馬鹿になった気がする」という言い回しだ。前作を楽しんだ人ほど強く出る不満で、「リラックスできるパズルを買ったつもりだった」という一文が何度も現れる。

興味深いのは、両者が同じ場所を指していることだ。図鑑の記述がものの形を直接描写せず、神話や象徴を経由して品を示す——この一点を、positive は「本物の同定作業らしい味」と呼び、negative は「当てさせる気がない」と呼ぶ。以下では、その分岐点を設計の言葉に置き換えていく。

Strange Antiquities のスクリーンショット: 「Hunter's Boon」の項を開いた参考書の見開き見開きの参考書。左ページに「Hunter's Boon」の解説文、右ページに吠える狼のペン画(Steam スクリーンショット)

メカニクスの言語化

動詞は二つしかない。「調べる」と「渡す」だ。ただし調べるが枝分かれしている。品の各部位に対して、色と材質、手触り、匂いと音、内的知覚を当てられる。あるレビュアーは、一つの品につき十以上の細目を取り出せると数えていた。日本語の好評レビューにこう書いた人がいる——本作では対象の解像度が上がった、と。Puzzlebyrinth の語彙をそのまま先に使われた形で、これは まさに 観察解像度 の増設にほかならない。

問題は、観察の解像度を上げた分だけ、参照の作業台が広がっていないことだ。negative 側で最も具体的に繰り返されるのは、本を二冊同時に開けない、品と本を並べて見られない、品にしおりを挟めない、という指摘である。細目が十を超え、書物が数冊に増えれば、照合すべき対の数は掛け算で膨らむ。組み合わせ爆発が起きているのに、プレイヤーが記憶を外に置く手段はスクリーンショットと手元のメモ帳しかない。だから「推論する」より「端から当ててみる」ほうが速い局面が生まれる。

そこに、罰の軽さが重なる。誤答を重ねると挟まるダイスのミニゲームは、positive 側でも「地味に面白い」と好意的に語られるのだが、同じ人が「面白いせいで失敗のデメリットになっていない」と書き足している。総当たりを抑止するはずの装置が、総当たりを許してしまう。設計上ここは矛盾ではなく、優しさの選択が別の場所で副作用を出した例だと私は読む。

Strange Antiquities のスクリーンショット: 台に載った干からびた手の骨董と、調べ方を選ぶメニュー台に載った黒く干からびた手の骨董と、「Colour and Composition」「A Sense of Touch」「Scent and Sound」「Inner Perception」という調べ方の選択肢(Steam スクリーンショット)

難しさの手触り

レビュー群がほぼ一致しているのは、前作より難しい、という一点だ。分かれるのはその評価で、positive は「歯ごたえが増した」と書き、negative は「くつろげなくなった」と書く。面白いことに、直近のレビューには前作より簡単だと書いている人もいる。図鑑の索引が効いてそう感じた、という理由で。難しさの印象自体が安定していないのだ。

詰まりどころを読み分けると、質は三種類に分かれる。第一に、情報は全部そこにあるが、参照の手数が多くて疲れる難しさ。第二に、記述が比喩や神話を経由していて、連想が必要な難しさ——「大地と再生の女神」から蛇の意匠を持つ品へ跳ぶ、といった類だ。第三に、手がかりが図鑑の体系の外にある難しさ。negative が最も強く反応するのは三番目で、象徴の辞書を渡されたのに机上の記号がその辞書と無関係だった、という趣旨の不満が具体的な例として挙がる。ルールを教えておいて、ルールの外で答えを要求されると、人は難しいのではなく裏切られたと感じる。

一方で、段階式のヒントは賛否を問わず評価が高い。方向を示すところから始まり、最後は答えまで降りてきてくれる。ただし店内の隠し要素については総称的な文言で止まる、という指摘があり、ここは学習曲線の設計として穴が残っている。総じて、この作品の難しさは量の問題ではなく、三種類のうちどれを踏むかという配合の問題だ。

Strange Antiquities のスクリーンショット: 宝石の図鑑を虫眼鏡で拡大している場面宝石の図鑑を虫眼鏡で覗く場面。左ページに Aquamarine、拡大された右ページに Bloodstone。右隣に「Strange Artefacts」の書物、画面右上に HINT ボタン(Steam スクリーンショット)

系譜と位置づけ

ほぼすべてのレビューが、前作を物差しにしている。開発元自身がストアページで「直接の続編ではない」と断っているのに、賛否のどちらもまず Strange Horticulture と比べるところから書き始める。positive にとって「同じ町、同じ手触り」は安心であり、negative にとっては「使い回し」だ。ある日本語の不評レビューは、この摩擦をきれいに言葉にしていた。続編と大型 DLC の境目はどこにあるのか、という問いである。答えのない問いだが、続編がどこまで前作の骨格を引き継いでよいかという、設計の射程の問題ではある。

私の見立てでは、前作は「動詞を減らす」ことで成立した作品だった。植物を一つ見て、一冊の本と照らして、渡す。それだけだからこそ、図鑑を読む時間そのものが遊びになった。本作は逆向きに動いている。調べ方を四系統に増やし、本を数冊に増やし、地図を増やし、机そのものを謎にした。減算で立っていた設計に加算を重ねた続編、という位置づけだ。加算は解像度を上げたが、同時に、前作の「一冊で完結する静けさ」を手放している。

この棚には近作が並んでいる。Rock Paper Shotgun は本作を今年の puzzle の上位として Blue Prince と並べたし、記述から答えを組み立てるという意味では The Case of the Golden Idol とも隣接している。ただし、あちらは答えの形式が最初から決まっていて、外れても盤面が壊れない。本作は「渡す」という不可逆の一手で答え合わせをする。同じ推理でも、間違いのコストの置き方がまるで違う。

Strange Antiquities のスクリーンショット: 「UNDERMERE」と題された手描きの地図を虫眼鏡で拡大している場面「UNDERMERE」と題された手描きの町の地図を虫眼鏡で拡大している場面。右側に手書きの覚え書きが添えられている(Steam スクリーンショット)

参照したレビュー群

本記事は 2026-08-08 時点の Steam ユーザーレビュー群を読んで書いた。レビュー本文の直接引用はせず、繰り返し現れた典型的な主張を再構成している。

Steam: Strange Antiquities(圧倒的に好評 / Overwhelmingly Positive、全言語 3,177 件、英語 2,256 件中 95% が好評、直近30日 122 件中 95%)

・helpful(全期間)順の positive 上位 20 件前後(英語・日本語)、negative 上位 10 件、および直近の recent 10 件前後を読了

・(専門メディア)PC Gamer(80/100)Rock Paper Shotgun(Bestest Best)、Metacritic の総合 81 を参照

結論

Steam の総評は 95% 好評、私の設計批評としての採点は 8.5 だ。0.5 ぶんの差は品質ではなく構造に対する減点で、観察の解像度を上げた一方、その情報を突き合わせる作業台を広げなかったこと、そして図鑑という体系を教えておきながら、いくつかの局面で体系の外に答えを置いたことに向いている。逆に、雰囲気と語り口、段階式ヒント、そして「何を渡すか」で物語が分岐する設計は、素直に強い。

レビューで言及されたクリア時間はおおむね 6 時間から 20 時間の幅にあり、専門メディアの一本は約 12 時間としている。周回して複数の結末を見る人はさらに長い。前作を静かで優しい図鑑遊びとして愛した人には、同じ椅子に座り直したつもりで踏み外す可能性がある——そこは射程の外だ。一方、記述から品を割り出す作業そのものが好きで、外部にメモを取ることを厭わない人には、前作より深い机が用意されている。95% という数字が示しているのは全会一致ではなく、この作品が誰に向いているかを、レビュアーたちが正確に言い当てているという事実のほうだと思う。

Strange Antiquities のスクリーンショット: ろうそくと観葉植物のあいだ、カウンターに座る猫灯したろうそくと吊り下げた観葉植物のあいだ、カウンターに座る猫(Steam スクリーンショット)

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