REVIEW · 2022-01-23
GNOSIA
会話と投票だけで、船に紛れた嘘つきを探す
第一印象
Steam のラベルは「非常に好評」。5,143 件のうち 4,820 件が肯定で 94% だ(2026-09-19 時点、全言語・購入経路を問わない集計)。専門メディアの集計であるメタスコアも 82 点(39 レビュー)。ユーザーとプロが同じ高さに着地している、珍しい例である。
面白いのは残り 6% の中身だ。否定票はほとんど一点を指している。議論の出来ではない。同じ議論に何十回つき合わされるか、である。
しかもその否定票の多くが 16 時間から 27 時間を記録している。序盤で投げた人の票ではない。長く遊んだ末に、終盤で嫌になった人の票だ。ここが本作のいちばんの読みどころだと思った。
本稿は肯定 10 件・否定 10 件・新着 8 件を読んで書いた。私が見たのはレビュー群であって、盤面ではない。
GNOSIA のキーアート。Steam ストアページ掲載のもの(Steam ストア キーアート)
メカニクスの言語化
動詞は三つしかない。話す。嘘をつく。投票する。人狼を一人用に組み直した作品だ、と言えばだいたい通じる。
卓につくのは最大 15 人の乗員である。役職は人間・グノーシア・ドクター・エンジニア・守護天使・留守番・AC主義者・バグの 8 種が確認できる。毎周、誰がどれになるかが振り直される。
肯定側が繰り返す語は "mechanically deep" と "frustratingly logical" だ。AI が腹立たしいほど筋を通してくる。生身の相手より嘘を見抜いてくる。そういう褒め方をする。
Puzzlebyrinth の言い方に直せば、これは 観察と推理 から人間を引いた設計である。人狼の面白さは本来、相手の目線や口ごもりを読むところにあった。作者はそれを丸ごと減算し、空いた穴に数値と役職を入れた。
GNOSIA のプレイ画面。Steam ストアページ掲載の1枚目(Steam スクリーンショット)
難しさの手触り
否定側の語彙はきれいに揃っている。"stat check"、"stat grind"、"dice roll"。そして「14 人の幼児と人狼をやっているようだ」。
主張の中身はひとつだ。レビュアーが名指しするのはカリスマと呼ばれる数値である。どれだけ正しく詰めても、その数値が低ければ票は動かない。逆に数値さえ高ければ、根拠の薄い告発が通ってしまう。
気をつけたいのは、肯定側もまったく同じ現象を見ていることだ。ただし彼らはそれを「AI が筋を通してくる」と書く。声の大きい相手の言い分が通るのは、生身の卓でも変わらないからである。
つまり争点は現象の取り違えではない。試されているのは推理の正しさではなく、それを通す力だ。その一点を歓迎するかどうかで票が割れている。証拠だけで勝てる Contradiction: Spot the Liar! とは、そもそも狙う場所が違う。
GNOSIA のプレイ画面。Steam ストアページ掲載の2枚目(Steam スクリーンショット)
テンポと尺
不満の本体はここにある。否定側は周回数を具体的に書く。70 周。168 周。終盤の解錠条件は "weirdly obtuse" だという。狙って起こせない出来事を待ち、早送りを続けたという記述が並ぶ。
肯定側もここは否定していない。29 時間の肯定票が「終盤は台詞の繰り返しと数値上げになる、と覚悟しておけ」と書き添えている。両陣営が同じ事実を認めた上で、値段の付け方だけが割れている。
作り手は最初の 15 周をチュートリアルとして設計したと伝えられている。1 周が軽いのは長所だ。ただし軽い単位に三桁の要求を掛ければ、話が変わる。
Zero Escape: The Nonary Games も周回が土台だ。ただしあちらは、周回のたびに中身を書き換えていた。本作が振り直すのは役職であって、卓の上の会話ではない。安い単位を数で埋めた代償が、そのまま終盤に出ている。
GNOSIA のプレイ画面。Steam ストアページ掲載の3枚目(Steam スクリーンショット)
物語の手触り
では、なぜ 94% なのか。20 時間から 55 時間を記録した肯定票が口をそろえて挙げるのは、乗員たちのことだ。
新着 8 件は全部が肯定で、しかも仕組みの話をほとんどしていない。この子のフィギュアが欲しい。書き方がうまい。掛け合いがいい。そういう短い文が並ぶ。遊び終えた人ほど、卓ではなく人の話をする。
周回は推理の道具であると同時に、人物描写の道具でもある。役職が振り直されるたびに、同じ乗員の別の面が出る。時間ループ を二役で使ったところが、この作品のいちばん効いている部分だと思う。
否定側の反論もはっきりしている。その物語ならアニメ版を見れば足りる、と。読んだ限りこれは好みの争いではない。物語に対して何周ぶん支払うか、という値段の話である。
GNOSIA のプレイ画面。Steam ストアページ掲載の4枚目(Steam スクリーンショット)
参照したレビュー群
本記事は 2026-09-19 時点での Steam ストアページのユーザーレビュー群を読んで書いた。レビュー本文の直接引用はせず、繰り返し現れる主張を再構成している。
・Steam: GNOSIA(非常に好評 / Very Positive。全言語・購入経路を問わない集計で 5,143 件中 4,820 件 = 94%)
・helpful 順の肯定 10 件、否定 10 件、新着 8 件を WebFetch で読了(計 28 件)
・発売日・役職・登場人物数・メタスコア 82(39 レビュー)は Steam ストアページと Wikipedia の Gnosia の項目 で確認した。
・本文の画像は Steam 公式 API が返した URL をそのまま使っている。ただし今回の実行環境では画像そのものを開けなかったため、キャプションと alt には内容の説明を書かず、掲載順だけを記している。
結論
私の評点は 8.2 だ。Steam の 94% よりわずかに辛い。減点したのは議論の卓ではなく、その卓につくまでの鍵の掛け方である。
人狼から人間を引き、空いた場所に数値と役職を置いて成立させた。ここは発明だと思う。一人用の推理ものは長く、答えが最初から決まった問題を解かせるしかなかった。本作はそこに、毎回ちがう答えが立つ卓を持ち込んだ。
惜しいのは、その発明の見せ場の一部を、終盤の解錠条件の後ろに置いてしまったことだ。否定票 6% の大半は発明そのものではなく、鍵に向けられている。
難しさは標準に置いた。詰まるとすれば推理ではなく、待ち時間のほうである。この一本を勧めるかどうかは、卓が好きかどうかで決めてよい。終盤の周回は、その好きさへの請求書だ。
GNOSIA のプレイ画面。Steam ストアページ掲載の5枚目(Steam スクリーンショット)
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