REVIEW · 2017-03-24
Zero Escape: The Nonary Games
長さを賛辞と不満の両方で呼ぶ、二本立ての脱出劇
第一印象
賛成票と否定票が、まったく同じものを指していた。長さである。片方はそれを「濃さ」と呼び、もう片方は「水増し」と呼ぶ。私が Steam のレビューを読んだ限り、この作品の評価はほぼそこ一点で分かれている。
数字を先に置く。ストアページの表示は 3,983件中 94% が肯定で「非常に好評」、直近30日は67件・88%(2026-09-03 時点)。全言語での集計はもう少し広く、7,251件中 92.9%。批評家側は OpenCritic に34本が載り、平均85点・91%が推奨としている。
注意して見たいのは、否定票の側のプレイ時間だ。45時間、67時間、78時間。触らずに投げた票ではない。二本ぶん遊びきってから、それでも親指を下に向けている。こういう否定票は、素材として質がいい。
そしてもう一つ。この商品は二本立てである。2009年の『9時間9人9の扉』と、2012年の続編『善人シボウデス』。票の割れ目は、ほぼ全部が二本目の上に走っている。
Zero Escape: The Nonary Games のゲーム画面(Steam スクリーンショット・ストア掲載1枚目)
物語の手触り
賛成側がよく使う語は「twists」「mind-blowing」「thought provoking」の三つに集まる。ある一本は「記憶を消して、もう一度最初から遊びたい」と書いていた。これは票の内容というより、体験の性質を言い当てた一行だと思う。
面白いのは、この願いが成立しないことを本人が分かっている点だ。一度知ったものは知らなかったことにできない。ネタバレはなぜ「盗み」に感じるのかで書いたとおり、こういう作品の価値は、盤面ではなく初回の自分に置かれている。
否定側の語彙はまるで違う。「long-winded」「bloated」「filler」。ある一本は具体例を並べて、単純な場面がどれだけ引き延ばされるかを実演してみせた。同じ情報を登場人物が順番に言い直す、その繰り返しを丁寧に数え上げている。
設計として見ると、これは情報の置き場所の問題だ。読者の手元にあるべき手掛かりが、登場人物の口の中にある。ゲーム内手帳の設計で扱ったとおり、推理ものは記憶をどこに預けるかで手触りが変わる。ここでは、預け先が会話になっている。
Zero Escape: The Nonary Games のゲーム画面(Steam スクリーンショット・ストア掲載2枚目)
メカニクスの言語化
脱出パートの動詞は少ない。見る、拾う、組み合わせる、数字を打ち込む。脱出と仕掛け箱の標準文法そのままである。真新しい動詞は一つも足していない。
賛成側の一本が、この点で正直な驚き方をしている。「ただの小説だと思っていたら、昔ながらのポイント&クリックだった」。宣伝と実感のズレが、ここでは良い方向に出た例だ。ストアの紹介文は脱出要素を書いているのに、タグの先頭は Visual Novel である。
難しさの正体は総当たりではない。部屋の中の物量は多くないし、持ち物の組み合わせも爆発しない。詰まるのはたいてい、貼り紙の数字を一つ読み落としたときだ。The Room のように機構を回して開ける手触りとは違う。ここで問われるのは観察解像度だけである。
だから脱出パートは、小説パートの休符として機能している。読む時間と、見る時間を交互に置く。二層のうち下の層は、実はかなり軽く作ってある。
Zero Escape: The Nonary Games のゲーム画面(Steam スクリーンショット・ストア掲載3枚目)
ゲームデザインの工夫
二本目には、分岐を一枚の図に描き出す仕掛けが入っている。どの選択がどこへ伸びたのかが見え、任意の地点へ直接飛べる。周回を「最初からやり直す」から「枝を選び直す」に変えた発明である。
レビュー群の反応は、ここでもきれいに割れる。賛成側は「周回が苦にならない」と書く。否定側は「進める順番が決まっていて、攻略サイトを開かされる」と書く。同じ機構を、逆の符号で呼んでいる。
私はこれを一種のオーバーワールドだと考えている。オーバーワールドの設計で書いたとおり、詰まりを別の枝へ逃がす装置があるかどうかで、パズルの体感は大きく変わる。図はその逃がし先を可視化した。
ただし、この作品は同時に鍵もかけた。特定の枝は、別の枝を見終わるまで開かない。逃がし先を見せておいて閉じているわけで、否定票の苛立ちはここから来ている。同じ作り手の後年作 AI: The Somnium Files では、この鍵がだいぶ緩んでいる。
Zero Escape: The Nonary Games のゲーム画面(Steam スクリーンショット・ストア掲載4枚目)
テンポと尺
レビュー欄に並ぶプレイ時間は、おおむね30時間から80時間の帯に収まる。中央値は45時間あたりだ。二本立てとはいえ、腰を据えて読む量である。
賛成側はこの尺を前提として受け入れている。ある一本は「順番どおりに遊べ」とだけ書き、別の一本は「日付と暗証番号と人名をメモしろ」と勧めていた。読者側に作業を求める作品だと、最初から了解している。
否定側が突いているのは尺そのものではなく、その中身の密度だ。同じ説明が三度出てくる、掛け合いが本筋を止める、記号ばかりで意味が薄い。長いことではなく、長さの使い方を責めている。
移植の事情も一枚噛んでいる。一本目は二画面の携帯機から一画面へ作り直された。そのとき台詞回しに手が入り、不自然になったという指摘が複数ある。ここは作家の判断ではなく、器の変更が言葉を押した箇所だろう。
Zero Escape: The Nonary Games のゲーム画面(Steam スクリーンショット・ストア掲載5枚目)
参照したレビュー群
本記事は 2026-09-03 時点での Steam ストアページのユーザーレビュー群を読んで書いた。
・Steam: Zero Escape: The Nonary Games(ストア表示 3,983件中 94% 肯定・「非常に好評」、直近30日 67件・88%)
・全言語での集計は 7,251件中 6,737件が肯定(92.9%)。
・helpful 順 positive 上位10件、negative 上位10件、recent 8件を読了。
・OpenCritic: Zero Escape: The Nonary Games(34本・平均85・推奨91%)
・掲載画像は Steam ストアページのスクリーンショット。本稿の執筆環境から画像を直接開けなかったため、キャプションは内容を特定しない汎用表記にとどめた。
結論
私の点は 7.6 だ。Steam の 94% より低い。理由は一つで、二本目の言葉数が減算されていないからである。書かなくてよい行が、読む時間の中でいちばん大きな面積を占めている。
それでも、分岐を一枚の図にして歩けるようにした発明は残る。あれ以降、分岐ものが枝を隠す理由はほとんどなくなった。Return of the Obra Dinn の判定表も、Her Story の検索欄も、players の記憶を外に出す装置という点では同じ系統にある。
誰に向くかははっきりしている。長い小説を読む腰があり、暗証番号を紙にメモすることを楽しめる人だ。逆に、詰まりを一晩寝かせて考えたい人には、脱出パートは軽すぎて物足りないだろう。
価格は 29.99 ドル。直近のレビューには、セール時に買って「掘り出し物だった」と書く票がいくつかある。二本で45時間という尺を思えば、時間あたりの単価は安い部類に入る。
Zero Escape: The Nonary Games のゲーム画面(Steam スクリーンショット・ストア掲載6枚目)
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