REVIEW · 2015-06-24

Her Story

ブラウン管の向こうの女

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第一印象

古い CRT モニターに映る警察の検索インターフェース。1994年、ある女性の取り調べ映像が、200本以上のクリップに分割されてデータベースに眠っている。

最初に私が打ち込んだ単語は『MURDER』。最初の1本目の映像が返ってきた瞬間、私はもう抜け出せなくなりました。

Sam Barlow は元 Silent Hill: Shattered Memories の脚本家で、彼のキャリアの中で本作は明確な転回点になります。AAA の脚本から離れ、一人で実写と検索インターフェースだけのゲームを作る決断は、2015年当時には極めて異例でした。

メカニクスの言語化

クリップで言及される単語を、別のクリップを引き出すための検索キーとして使います。語彙が事件像を組み立てる。

順不同に映像が手に入ります。プレイヤーの頭の中で、時間と感情が再構築される。最初に1990年の映像を見て、次に1994年の映像を見て、その間の出来事を想像で繋ぐ。

検索結果の上位5件しか表示されません。よくある単語(『SHE』『POLICE』など)で検索しても、最初の5本しか出てこない。プレイヤーは『より固有の単語』を能動的に探すことになる。

このゲームの魅力

プレイヤーの『次に何を検索するか』自体がパズル解になります。能動的な好奇心がそのまま謎解きになる、稀有な構造です。プレイヤーが受動的な視聴者になる瞬間がない。

全クリップが実写、しかも俳優 Viva Seifert の一人芝居です。同じ椅子に座って、同じカメラに向かって、時期によって違う表情で話す。それが200本。プレイヤーは台詞の細部から、複数の人格を読み解くことになります。

そして本作の最大の発明は、『ゲームの終わり』がプレイヤーの主観で決まることです。あなたが納得したら、それが終わり。物語の解釈も、プレイヤーごとに違う。これは小説の読書体験に近い、ゲームでは珍しい『個人的な完結』を許す設計です。

ゲームデザインの工夫

全クリップが実写、しかも俳優 Viva Seifert の一人芝居。プレイヤーは台詞の細部から、複数の人格を読み解くことになります。これを実装するためには、台本を分割可能な構造で書く必要があり、ナラティブの設計と検索の設計が完全に同期している。脚本家としての Sam Barlow が、設計者としての彼を支えた瞬間です。

検索結果の上位5件制限が、設計の核です。これがなかったら、プレイヤーは『SHE』で全部見られてしまい、能動性が失われる。上位5件に絞ることで、プレイヤーは『より固有の語』を狩りに行く。Lorelei が紙のノートを要求したように、Her Story は脳の中の語彙ツリーを要求しています。

もし自分が同じ題材を作るなら、台本の分割粒度で必ず悩むはずです。Sam Barlow は1クリップを30秒-2分に切り、200本に分けました。これより短いと文脈が消え、長いと検索の意味が薄れる。中央値を掴んだのは、脚本家としての経験値そのものです。Telling Lies(続編) で同じ手法を拡張しましたが、Her Story の濃度を超えるのは難しい。

難しさの手触り

3時間で『終わる』が、終わったかどうかはプレイヤーが決めます。あなたが納得したら、それがエンディングです。本当に短いプレイヤーは2時間、深く掘る人は10時間遊ぶ。

難所は『何を検索するか』を思いつかなくなる時間。けれどクリップの中で言及される固有名詞、地名、人名を辿れば必ず前進できる。詰まることはほぼないが、満足できる解釈に達するまでは個人差が大きい。

結論

ゲームと映画の境界を、Sam Barlow が軽やかに越えた一作。インディーが一人称叙述ミステリーを再発明した時代の幕開けでした。Return of the Obra Dinn、Telling Lies、Immortality へと続く Sam Barlow 自身の系譜の起点でもあります。

制作者として真似たいのは、『プレイヤーの能動性を信じる』姿勢。ヒントなし、進行表示なし、満足の基準もプレイヤー任せ。それでもゲームは成立する。むしろ任せた方が深くなる。

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