REVIEW · 2022-08-03
Last Call BBS
8本の思考系パズルを詰め込んだ、Zachtronics 最後のレトロPC
はじめに
Last Call BBS は、開発元 Zachtronics が「最後の作品」と銘打って2022年8月3日に発売した、8本の思考系パズルを1台の架空レトロPCに詰め込んだ collection だ。Z5 Powerlance という90年代機を立ち上げ、BBS に電話をかけて1本ずつゲームを「ダウンロード」して遊ぶ。中身は論理パズルの Dungeons & Diagrams、回路設計の ChipWizard Professional、落ち物アクション HACK*MATCH、細胞オートマトンの X'BPGH、3種のソリティアなど、系統の異なる小品が並ぶ。
私はこの記事を、Steam に積み上がったユーザーレビュー群を読んで書く。評価ラベルは「非常に好評(Very Positive)」、Steam 購入者 1,196 件のうち 94% が好評(2026-07-18 snapshot)。全言語・全購入経路を含めると 1,555 件中 positive 1,431 / negative 124。数字だけ見れば文句なしの高評価だ。だが「8本詰め合わせ」という形式ゆえ、レビューの中身は各人が「どれが当たりか」を並べ替える、内側に賛否を抱えた高評価になっている。
だから本記事では、個々のパズルを解いた体験としてではなく、レビュー群が8本をどう格付けし、何を「当たり」「外れ」と呼ぶのかを、Puzzlebyrinth の設計語彙で読み解いていく。
Last Call BBS ヘッダーアート(Steam スクリーンショット)
第一印象
helpful 上位の positive レビューが繰り返す語は「greatest hits」「tribute」「高い音で終わる(leaving on a high note)」だ。Zachtronics がスタジオを畳むという文脈を全員が知っていて、この目録を餞(はなむけ)として受け取っている。専門メディアも語彙が揃っていて、Siliconera は「グレイテスト・ヒッツ集にして餞」と評し、8点を付けた。ユーザーとプロで採点の割れがほとんど無いのが、この作品の第一印象を素直にしている。
つまり多くのレビュアーは、これを1本のゲームではなく「カタログ」として読んでいる。私が設計の側から言い直すと、目録型の作品は評価が「平均」ではなく「最大値」で決まりやすい。8本のうち1本でも深く刺されば、残りが薄くても「買ってよかった」に着地する。94% という数字は、8本の平均点というより「一番好きな1本」への投票の集計に近い。
8本の目録が並ぶメインビジュアル(Steam スクリーンショット)
世界観という導線
positive 側がほぼ全員触れるのは、ゲーム本体ではなく「包み」の方だ。モデム音、ダウンロード完了までのクールダウン、前の持ち主 The Barkeep が HandyMate に残す短いメッセージ、Sawayama Corporation という架空メーカーの気配。「古いPCを買った」のではなく「古いPCを見つけてしまった」気分、という感想が典型で、レビュー群はこの手触りをほぼ満場一致で褒める。
ここは設計として面白い。ダウンロードのクールダウンは、8本を一気に開かせないための「わざと不便な」導線だ。プレイヤーの手を1本に留める、いわば選択肢の減算である。しかも各ゲームの遊び方は、無味乾燥なチュートリアル画面ではなく前オーナーの手紙という体裁で渡される。学習コストを世界観に溶かし、オンボーディングの観察解像度をそっと上げている。negative 側でも、この「包み」だけは不満の対象にならない。
レトロPCデスクトップと BBS の接続画面(Steam スクリーンショット)
8本の動詞
レビュー群がほぼ満場一致で「当たり」に挙げるのは Dungeons & Diagrams だ。行と列の数字から地下迷宮の壁を一意に確定させる、ミネスイーパーとピクロスを掛け合わせたような論理パズル。次点に置かれるのが、EXAPUNKS 由来の落ち物 HACK*MATCH と、回路を組む ChipWizard Professional。逆に3種のソリティアは「箸休め」「おまけ」と位置づけるレビューが多い。
設計から見ると、8本は「動詞の粒度」がまるで違う。Dungeons & Diagrams の動詞は「壁を置く/空ける」の実質2つで、あとは消去法の論理だけで進む——極端に減算された文法だ。対して 20th Century Food Court・ChipWizard・X'BPGH は Zachtronics の本流である「組み立てて回す」動詞で、部品を並べた瞬間に組み合わせ爆発が立ち上がる。詰め合わせの正体は、この動詞の粒度のばらつきそのものだ。レビュアーが「当たり」と呼ぶ1本は、たいてい自分の好む動詞の粒度と一致している。
Dungeons & Diagrams の盤面(論理で壁を確定させる)(Steam スクリーンショット)
難しさの手触り
「難しすぎる」と「ちょうどいい」が割れるのは、8本のうち ChipWizard・X'BPGH・20th Century Food Court に集中する。negative 側で繰り返されるのは「チュートリアルが足りず、試行錯誤に頼らされる」「理不尽」という不満だ。一方でソリティアや Steed Force(プラモ組み立て)は、詰まったときの逃げ場として「低ストレス」と好意的に語られる。同じ1本の中でも、難しさの評価は真っ二つになる。
レビュアーがどこで詰まったかを集めると、難しさは3つの質に分けられる。第一は論理の難しさ——Dungeons & Diagrams のように、与えられた情報から一意に答えを確定させる種類。第二は設計の難しさ——オートマトン系のように、組み合わせ爆発の中から効率的な機構を探す種類。第三は学習の難しさ——X'BPGH や Food Court のように、ルールの言語化が薄く、観察解像度をプレイヤー任せにしている種類だ。negative が「理不尽」と呼ぶものの多くは第三の質で、これは難しさそのものの否定というより、学習曲線の設計不足への不満に近い。
そしてここは煽るところではない。説明を絞って発見に委ねる作りは、手取り足取りを嫌う層には美点、そうでない層には不親切に映る。どちらが正しいかではなく、この目録が誰に向き誰に向かないかという設計の射程の問題だ。8本もあれば、自分の観察解像度に合う難しさの1本は、たいてい見つかる。
ChipWizard Professional の回路設計画面(Steam スクリーンショット)
参照したレビュー群
本記事は 2026-07-18 時点での Steam ストアページのユーザーレビュー群を読んで書いた。レビュー本文の直接引用はせず、典型的な主張を再構成している。
・Steam: Last Call BBS(非常に好評 / Very Positive、Steam 購入者 1,196 件中 94% が好評。全体では 1,555 件中 positive 1,431 / negative 124)
・helpful 順の positive 上位、negative 側の代表的な不満、recent の数件を WebFetch で読了
・(専門メディア)Siliconera: Last Call BBS Review(8/10) ほか indiegamereviewer 等の評を参照
結論
1本のゲームを深く磨き上げた Opus Magnum のような作品と並べると、Last Call BBS は「目録」であるぶん密度がばらつく。一部のレビュアーが「試作品(prototype)の寄せ集め」「leftovers」と呼ぶのは、この密度差を指している。ただしそれは欠点というより、目録という形式が引き受けた性質だ。8本すべてにひと通り触れるまではおよそ15〜25時間とされ、Dungeons & Diagrams と HACK*MATCH は事実上いつまでも遊べる。
Steam の overall 94% に対し、私は設計の観点から 8.5 点を付ける。満点に届かせないのは、8本の学習曲線の設計が揃っておらず、第三の質(学習の難しさ)が一部で放置されているからだ。それでも「Dungeons & Diagrams 一本だけで元が取れる」というレビュー群の総意には同意する。目録の最大値がそれだけ高い。
手取り足取りの案内を求める人には向かない。だが、少ない動詞から底の見えない論理が立ち上がる瞬間を——1本でも自分の好みに当たる粒度で——味わいたい人には、Zachtronics 最後の目録は素直に薦められる。閉店間際のバーに8種類の酒が並んでいて、そのうち1杯が必ず好みに当たる、というのが偽らざる読後感だ。
Last Call BBS ライブラリアート(Steam スクリーンショット)
リアクション(ログイン不要)
匿名で残せます • 同じリアクションは1日1回まで
次に読む
関連レビュー
EXAPUNKS
1997年のサイバーパンク世界で、EXA と呼ばれる小さなプログラムに擬似アセンブリ言語で命令を書き、銀行や大学のネットワークへ潜り込むハッキング・パズル。印刷できる地下雑誌をマニュアル代わりに、少数の動詞から底の見えない深さを引き出す、Zachtronics の一作。
Infinifactory
宇宙人に与えられたブロックとコンベアだけで、注文どおりの製品を組み立てる工場を一人称で設計する3Dパズル。少ない動詞から底の見えない最適化が広がる、SpaceChem を立体化した Zachtronics の一作。
14 Minesweeper Variants
マス目と数字だけで地雷を探す定番『マインスイーパー』の規則を14通り(実際にはそれ以上)に組み替えた、純粋な論理演繹のパズル集。運や推測を排し、規則の一行を差し替えるだけで無数の思考を生み出す Artless Games / Alith Games の一作。


