REVIEW · 2024-05-16

Lorelei and the Laser Eyes

ホテルの夜、150の謎

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第一印象

モノクロームのホテルに招かれた私は、止まった時計と鏡張りの廊下に迎えられます。誰もいない。けれど誰かが見ている、という感覚が最初から最後まで離れません。

ロビーの数字、絵画の年号、扉の暗証番号。すべてが何かの暗号として、私のノートに書き留められていきます。Simogo の前作 Sayonara Wild Hearts のポップな勢いから一転、これは机に紙とペンを置いて遊ぶ夜のためのゲームです。

ホテルの中庭に出ると、誰が建てたとも分からない劇場や迷路があります。空気はモノクロのまま、時々だけ赤が差します。あの赤が出るたびに、私の手は止まりました。

メカニクスの言語化

150を超える独立パズルが、ホテルという一つの建物に縦横に散らばっています。ローマ数字、ギリシャ文字、占星術記号、迷路、数列、計算、図形変換。種類は多いのに、暗号の『書式』そのものは抑制されていて、一度読み方を覚えれば応用が利きます。

解いたパズルが別のパズルの鍵になります。建物全体がそのまま一つの大きな暗号文として機能していて、ノートを取らないと簡単に迷子になります。

ゲーム内のメモ機能は意図的に最小限。スクリーンショットを撮るしかない場面が多く、これはプレイヤーに『物理ノート』を強制する設計です。私の机には A5 のノートが2冊、走り書きで埋まりました。

このゲームの魅力

現実の知識を要求する濃厚な暗号群が、夢のような演出の中に置かれています。Obra Dinn が物的証拠の積み上げなら、Lorelei は『書かれた数字をどう読むか』の積み上げです。観察と想像の比率が、後者に強く寄っている。

ホテル内のスチール写真めいたカット、無人なのに気配のある椅子、戻ってくる旋律。Simogo の美意識が、解の快感を覆い隠さないギリギリの濃度で並んでいます。私は『雰囲気ゲーム』という言葉が好きではないのですが、これは雰囲気が解法と分離していない、稀な作りでした。

そして、このゲームは『プレイヤーが何時間考えたか』を計測してきません。1ヶ月かけて少しずつ進めても咎められない。私は実際、寝る前にノートを開く儀式として2ヶ月遊びました。

ゲームデザインの工夫

パズル解の一部がプレイヤーセッションごとに変わる仕様になっています。攻略動画を見ても、自分のセッションでは答えが違う。これは『紙とペンで遊ぶ前提』を制度的に守るための、極めて強い決断です。仮にこれを入れていなければ、Lorelei は YouTube の攻略動画で30分で終わるゲームになっていたでしょう。

もうひとつ徹底されているのが、UI の禁欲。ヒント、進捗、達成率、いずれも乏しい。Obra Dinn が『運命の章』で進行管理を可視化したのとは逆の選択です。プレイヤーは自分のノートだけが進捗のメーターとなり、紙が埋まることがそのまま達成感に翻訳されます。設計者は『ゲーム内の親切』をすべて『ゲーム外の手応え』に置き換えた、と私は読みました。

もし自分が同じ題材を作るなら、150問の難しさバランスをこれだけ均すのは無理だと思います。Simogo はおそらく、難しさを平準化することよりも『場所ごとの密度』を優先しました。一階のロビーは易しめ、地下は重い、というふうにエリアの空気感とパズル難しさを連動させる。これは古典的アドベンチャーの作法で、Myst の Age 設計に近い思想です。

難しさの手触り

18時間で本編、けれど私の手元のノートは2冊埋まりました。終盤の数字パズルは、ホテルの違う階に書かれた手がかりを横断します。詰まる場所は人によって全く違うはずで、これは難しさの体感が個人の暗号適性で大きくぶれるタイプの作品です。

数学に強い人は中盤の数列で一気に進み、文字に強い人は文字盤で前進する。私はどちらも普通だったので、ひたすら均等に詰まりました。けれど『どこかは進める』設計のおかげで、止まり切ることはありませんでした。

結論

Obra Dinn の系譜にありながら、Simogo独自の夢幻的な美意識が全体を覆っています。紙とペンで遊ぶことを忘れていた人に、強く勧めたい一本です。Myst のような探索系暗号ゲームの現代的な後継として、ジャンル史にきれいに刺さっています。

制作者として真似たいのは、『プレイヤーに机を要求する』というルールの一貫性です。ゲーム内で完結する親切を意図的に削り、画面の外側へ体験を拡張する。デジタルゲームでこれをやり切るのは想像以上に勇気がいる選択でした。

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